表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異類婚姻譚 愛執堂  作者: 黒薔薇
第一章 姦姦蛇螺♂の執着
7/42

店主と巫女

姦姦蛇螺の長い尾が闇の中へ消えていく。


その腕の中には、

雨宮澪の姿もあった。


「澪」


「俺だけの澪」


「やっと見つけたんだ……」


狂気じみた声だけが遠ざかり、

やがて店内は静寂に包まれた。


――カラン。


どこからともなく鈴が鳴り

店主は一人残された店内で、

小さくため息をついた。


「まったく……」


彼はカウンターに置かれたティーカップを手に取る。


まだ温かい。

つい先程まで、

そこに客が座っていた証拠だ。


「最後まで話を聞かないなんて」


苦笑混じりに呟くが

その表情に驚きはない。


まるで全て知っていたかのようだった。


窓の外では雨が降り続いていおり

店主はゆっくりと視線を向けた。


そこには先程まで澪が触れていた

銀色の指輪が残されていた。


「結局、迎えに来ましたか」


誰に向けた言葉なのか

答える者はいない。


店主は指輪をそっと持ち上げる。


その時だった。

店の奥から足音が聞こえた。


コツ――


コツ――


誰もいないはずなのに

店主は振り返らない。


「聞いていたでしょう?」


すると奥の暗闇から声がした。


「ええ」


それは女性の声だった。


「相変わらずでしたね

姦姦蛇螺は」


店主は肩を竦める。


「数百年待った相手ですからね」


暗闇の中から現れたのは、

美しい巫女姿の女だった。


だがその足元は薄く透けている。

生者ではない。


「今度こそ離さないつもりでしょうね?」


「でしょうね」


店主は笑う。


「もっとも」


彼は指輪を見つめた。


「澪さんも、いずれ思い出しますよ」


雨音が強くなる

店の灯りが揺れた。


「前世で交わした約束をね…」


巫女は静かに目を伏せた。


「二人は……幸せになれるのでしょうか?」


店主は少し考えた後、

ふっと微笑む


「人外の恋に普通の幸せを求めるのは難しいですよ」


「ですが」


彼はショーウィンドウの向こうを見る。


「本人たちが幸せなら

それは幸せなんでしょう」


雨が窓を叩き

しばらく沈黙が続いた。


やがて店主は立ち上がり

そして棚へ向かった。


ココには無数の品々が並んでいる。


指輪や

人間と同じくらいの大きさの人形

古びた写真に

どこかの錆びた鍵


どれも誰かの物語であり

どれも人外と人間が紡いだ愛の証だ。


店主はその中から、

一つの鈴付きの髪飾りを手に取った。


「さて」


彼は静かに微笑む。


「次のお話の準備をしましょうか」


その瞬間。


――カラン。


店の扉が開いた。


雨に濡れた一人の女性が立っていた。


「す、すみません……」


「雨宿りしてもいいですか?」


店主は優雅に一礼する。


「もちろん」


そしていつもの笑みを浮かべた。


「いらっしゃいませ」


女性が店内へ足を踏み入れる。


その背後で、


静かに扉が閉まった。


――カラン。


店主は手の中の髪飾りを見つめ

そして穏やかな声で尋ねた。


「その品にまつわる恋物語を知っていますか?」


雨音が響く中、

新たな物語が始まろうとしていた。


次は数百年もの間、花嫁を待ち続けた異形神の物語。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ