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異類婚姻譚 愛執堂  作者: 黒薔薇
第一章 姦姦蛇螺♂の執着
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姦姦蛇螺♂の執着

店主が何かを言おうとした、

その時だった。


「――もういい」


低い声が店内に響き

私はびくりと肩を震わせた。


姦姦蛇螺は私から一瞬たりとも目を離さない。


黄金色の瞳が、

まるで何かを決意したように細められる。


「話なんてどうでもいい」


店主が眉をひそめる。


「おい」


「二百年以上待ったんだ!」


姦姦蛇螺は静かに笑った


けれどその笑顔は、

先ほどまでとは違って

どこか壊れているのが見て分かった


「もう待てない」


六本の腕がゆっくり伸びてきて

私は後退ろうとしたが

背中がカウンターにぶつかってしまいました

逃げ場がなくなってしまった。


「澪」


まるで恋人を呼ぶように

優しく名前を呼ばれる。


けれど、

その優しさが恐ろしかった。


「帰ろう」


「いや……」


「帰ろう、澪」


「嫌……!」


私が首を振った瞬間…

姦姦蛇螺の表情が僅かに歪んだ。


悲しそうに

苦しそうに


そして何より――執着に満ちていた。


「どうして?」


掠れた声が落ちる


「やっと会えたのに

苦労して見つけたのに」


「どうしてまた離れようとするの?」


店主が静かに口を開く。


「落ち着け!」


「黙ってて!!」


その一言で店内の空気が凍り付く。


姦姦蛇螺は店主から目を逸らさないまま続けた。


「これは俺と澪の話だ

お前の店に感謝はしてるが…

でもこれで最後だ!

もう終わりだ!」


店主は小さくため息をつく。


「聞く耳なしか…」


「聞けるわけないだろ!」


姦姦蛇螺は笑う


その笑みは幸せそうなのに、

どこか泣きそうだった。


「またいなくなったらどうする?

同じように時間をかけて探すのか?


「また百年?二百年?」


「そんなの嫌だ!!」


彼の声が震える。


「もう嫌なんだよ!!」


そして

次の瞬間


六本の腕が私を包み込んだ。


「――っ!」


息を呑む。


逃げようともがくけれど

びくともしない。


姦姦蛇螺は私を抱き寄せたまま目を閉じた。

まるで失くした宝物を抱き締めるように。


「やっと」


震える声。


「やっとだ」


店主は静かに立ち上がる。


「後悔しますよ?」


姦姦蛇螺は振り返らない。


「しない」


「澪さんは怯えている」


「今はね…」


彼は微笑む

狂気じみた確信を宿して…


「でも大丈夫

時間なら沢山あるし

俺は待つのが得意だからね♪」


店主が何か言いかける

だがその前に


姦姦蛇螺の長い尾が床を滑った。


ずるり………


ずるり………


店の奥にあったはずの闇が揺れる。


まるで口を開くように。


「行こう、澪」


私は必死に首を振るけれど

姦姦蛇螺は幸せそうに笑うだけだった。


「大丈夫♪」


「今度こそ離さないからね?

もう迷子にならなくていいんだよ♪」


闇が二人を飲み込んでいく


最後に見えたのは

呆れたように二人を見送る店主の姿だった。


「まったく……」


店主は肩をすくめて

そして誰にも聞こえない声で呟いた。


「物語の順番くらい守れと言ったのに」


カラン――。


どこからかベルの音が鳴るが

気付けば店の中には誰もいなかった。


残されていたのは

カウンターの上に置かれた、

一冊の古びた本だけだった。


その表紙には、

こう記されていた。


**『雨宮澪と姦姦蛇螺の恋物語』**


まるで

最初から結末が決まっていたかのように…


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