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異類婚姻譚 愛執堂  作者: 黒薔薇
第一章 姦姦蛇螺♂の執着
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姦姦蛇螺♂の思い

姦姦蛇螺が差し出した手を前に

私は動けなかった。


恐怖なのか

混乱なのか


それとも――。


自分でも分からない感情が胸の奥で渦巻いていた


すると

店主が小さくため息をついた。


「駄目ですよ…」


その一言で空気が変わった。


姦姦蛇螺の金色の瞳がゆっくり店主へ向いた。


「……何がだ店主?」


穏やかな声だ…

けれど明らかに不機嫌だった。


店主は肩をすくめる。


「再会したばかりなのに

彼女を怖がらせてどうするんですか!?」


「澪さんが泣きそうですよ…」


姦姦蛇螺は黙って

ちらりと私を見る。


確かに私は青ざめていた。


「……だって」


ぽつりと呟く。


「やっと見つけたんだ…」


その声は先ほどまでの狂気とは違って

何百年も迷子になっていた子供のようだった。


「また消えるかもしれない

目の前で亡くなっていなくなるかもしれない

そう思ったら……」


六本の腕がぎゅっと握られる。


「怖かった」


店主は静かに目を細めた。


「相変わらずですね…

お前は昔から極端すぎるぞ!」


姦姦蛇螺は不満そうに眉を寄せる。


「だって澪だぞ?」


まるで当たり前のことを言うように。


「俺の澪なんだぞ?

百年以上探したんだぞ?」


「百年だろ?」


店主が訂正する。


「正確には百三十七年だ!」


「……そんなに経ったっけ?」


姦姦蛇螺は少しだけ驚いた顔をした。


その様子に店主は苦笑する。


「毎日のようにここへ来ては貴方

澪さんの話をしていましたからね?」


「今日は白い花を見た

今日は澪に似た子を見た

今日は夢で澪を見た

澪ならこの服が似合う

澪ならこの色が好きそうだと

ずっと言っていただろう?…」


店主は次々と彼が言っていたことを

並べるように話していると

姦姦蛇螺の顔が少しずつ曇っていった。


「やめろ」


「全部覚えてますよ」


「やめろって」


「泣きながら酒を飲んでいた日も」


「やめろ!!」


私は思わず目を瞬いた。


さっきまであれほど恐ろしかった怪物が

今は少しだけ人間らしく見えた。


店主はくすりと笑う。


「ほら」


「澪さんも驚いている」


姦姦蛇螺は気まずそうに視線を逸らした。


長い沈黙があり…


やがて

「……だって」


小さな声が落ちる。


「本当に会いたかったんだ」


店内が静まり返る。


「忘れられなかった

忘れようとしても無理だった」


「何百回服を作っても

何百年経っても

澪だけだった」


店主は何も言わない。


姦姦蛇螺は静かに私を見た。


今度は狂気ではなく

深い孤独を抱えた目で。


「俺は待ったんだ」


「ずっと

澪が帰ってくるのを」


店主がゆっくり立ち上がる。


「だからと言って急かしてはいけませんよ?」


「澪さんには澪さんの人生がある

解放してあげなさい!

お前とは違うんだ…」


姦姦蛇螺は不満そうに唸る。


「でも」


「でもじゃない」


店主の声は穏やかだった…

だが逆らえない何かがあった。


「物語には順番がありますよ?

お前も知っているでしょう?…」


その言葉に

姦姦蛇螺は黙り込んだ。


やがて

渋々と頷く。


「……分かった」


そう言いながらも

視線はずっと私から離れない。


まるで目を逸らした瞬間に

消えてしまうと思っているかのように。


店主はそんな彼を見て微笑んだ。


「それでは澪さん

続きをお聞きになりますか?」


「この姦姦蛇螺が、

どうしてそこまで貴女を愛してしまったのか…を」


すると隣で姦姦蛇螺がぽつりと呟く。


「愛してるなんてもんじゃない」


店主が呆れた顔をする。


「また始まった」


姦姦蛇螺は真剣な顔で言った。


「だって本当だろ」


そして。


私から目を離さないまま

静かに微笑んだ。


「澪は俺の人生そのものなんだから」――。


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