約束した女を待つ雪男
青年は答えないで
ただ獣のように
鋭い銀色の瞳を細めるだけだった。
店主はそんな青年を見つめながら紅茶を置くと
湯気が静かに立ち上った。
「どうぞ…」
青年は視線だけを向ける。
「毒は入っていないだろうな?
まぁ…入っていても死なないがな…」
青年はそう言って席へ腰を下ろした。
店主はそれを見て少しだけ笑う。
「それは失礼しました」
沈黙が落ちる。
カチ
コチ
時計だけが音を立てる中
やがて店主が口を開いた。
「お名前を伺っても?」
青年は紅茶を見る。
琥珀色の液体の
その揺らぎを見つめながら答えた。
「冬真(冬真)」
短い返事だった。
「冬真様ですか?」
「雪城冬真だ」
店主は静かに頷く。
「良い名前ですね」
冬真は何も言わなかった。
その名を付けたのは自分ではなく
二百年以上前
雪の中で笑っていた少女だった。
『冬に会ったから冬真!』
『かっこいいでしょ?』
馬鹿みたいな理由だった。
だが
気付けばずっとその名を使っている。
店主は冬真の横顔を見る。
長い銀髪
雪のように白い肌
それに
人間離れした美貌
そして何より
冷たい
まるで吹雪そのものだ。
「失礼ですが…」
店主は紅茶を口にする。
「貴方様…雪の気配がしますね?」
冬真は黙っている。
「雪女ではないぞ?」
「違うのですねろ」
「雪童子でもないと?」
「違うな」
店主は微笑んだ。
「では雪男でしょうか?」
その言葉に冬真は初めて少しだけ笑った。
「人間はそう呼ぶかもな…」
肯定でも否定でもない。
だが店主には十分だった。
なるほど
山の怪異で
雪の妖
しかも長命種
それもかなり古い
「どのくらい探しているのです?」
店主が尋ねると
冬真は窓の外を見た。
夕暮れが沈んでいく。
「二百七十三年」
カチ――
時計が鳴り
店内の人形たちが小さく震える。
その中で
店主だけは驚かない。
「長いですね」
「そうか?」
冬真は首を傾げた。
本当に不思議そうだった。
「待っていたらそうなっただけだ!」
その言葉を聞いた瞬間
店主は理解した。
ああ
この青年は
約束を破られたことを恨んでいるのではない。
今もなお
約束が果たされる日を信じているのだ。
だから
二百七十三年経っても
探している。
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ただ一人を




