再告白
白夜は何も言えなかった。
ただ
信じられないものを見るような顔で
私を見つめていた。
「……好きだった?」
-掠れた声だった。
「俺を?」
まるで
何百年もその言葉を聞きたかったのに
聞くのが怖かった人みたいに。
私は小さく頷く。
「うん」
桜の記憶や
神社の記憶
白夜と過ごした時間は
全部は思い出せない。
けれど
一つだけは分かる。
私は無理やり連れ去られたわけじゃない。
それに騙されたわけでもない。
白夜の隣を
自分で選んだのだ。
「私が好きだったから」
その言葉を言うと
白夜の肩が震えた。
「違う……」
ぽつりと呟く。
「違うんだ…」
私は首を傾けると
白夜は
泣きながら笑った。
「だから余計に駄目なんだよ…」
その声は壊れそうだった。
「君は何も悪くなかった…」
「全部俺の我儘だった…」
「俺が君を欲しかっただけだ…」
「俺が離したくなかったんだよ…」
そう言うと
九本の尾が力なく垂れる。
「君が人間だって分かってた…
危険だって知ってた…」
「それでも連れて行ったんだ…」
「だから」
白夜は目を閉じ
「何百年探しても
許される資格なんて無いと思ってた…」
私はその言葉を聞いて
胸が締め付けられた。
何百年も
この人は
私を失った日から
ずっと自分を責め続けていたのだ。
その時だった。
-顔の無い女が嗤った。
『馬鹿ね』
『本当に馬鹿』
『妖のくせに』
『まだそんなことをするのね』
白夜の瞳が冷たく細まる。
『認めなさい』
女は笑う。
『お前は変わってない』
『また閉じ込めようとしてる』
『また失うのが怖いだけ』
その瞬間…
沈黙が落ちた。
私は気付いた。
女の言葉に
白夜が反論しなかったことを。
そして
私も気付いてしまった。
この屋敷に来てから
白夜はずっと私を離していない。
外へ帰る話もしていない。
私の意思を聞いていない。
優しい
優しいけれど
どこかおかしい。
白夜は静かに言った。
「……そうかもしれない」
私が目を見開くと
白夜は苦笑した。
「俺は多分…
昔と変わってないと思う…」
「それに今も怖い…」
金色の瞳が揺れる。
「また失うのが…
怖くて仕方ない…」
雨が激しく窓を叩く。
白夜は私を見る。
何百年も探し続けた相手を見る目で
恋人を見る目で
そして
執着する者の目で
「凛花」
名前を呼ばれる。
「君が帰りたいと言ったら…
ちゃんと帰すつもりだった…」
そこで言葉が止まり
私は続きを察してしまった。
白夜も自覚しているだろう
今は
帰せる自信がないことを。
「……でも」
彼は笑った。
「今は少しだけ無理かもしれない…」
私は思わず吹き出した。
「少しだけ?」
「少しだけ」
「嘘ですよね?」
「うん」
即答だった。
女ですら呆れたように黙り
白夜は耳を伏せた狐みたいな顔をする。
「かなり無理…かな…」
「正直に言いましたね…」
「凛花だから」
そう言って笑う。
その笑顔は
妖狐でも
神獣でもない
ただ恋をしてしまった男の顔だった。
そして私は思う。
確かにこの人は危うい
執着も深い
---
普通ではないけれど
何百年も私だけを想い続けて
何百年も後悔し続けて
何百年も探し続けたのだ。
そんな男を
前世の私は愛した。
そして今の私は――
再びその恋の続きを選ぼうとしていた。
雨は少しずつ弱くなっていく。
長い長い九尾の恋物語は
終わりではなく
新しい始まりへ向かおうとしていた。




