白夜の後悔
白夜の顔は青ざめており
今まで見せたことのない表情だった。
余裕も
優しさも
微笑みも
全部消えていた。
「何も思い出さなくていい!」
白夜は私の肩を掴む。
「お願いだから!」
「それだけは……」
私は息を呑んだ。
こんなに必死な白夜を初めて見る。
「白夜……?」
すると
彼は
はっとしたように手を離した。
「ごめん…」
震える声だった。
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「怖がらせるつもりじゃなかったんだ…」
そういうけれど
その瞳には恐怖が宿っていた。
何百年も私を探し続けた妖狐が
その記憶だけは思い出してほしくないと言う。
なぜ?
どうして?
何があったの?
私は頭を押さえる。
すると
再び断片が流れ込んできた。
また同じ
桜に
神社
それに
白夜の笑顔
そして
村人達の怒号
『化け狐め!』
『娘を返せ!』
『騙されるな!』
知らない声に
知らない景色
なのに
凄く胸が苦しい。
「っ……!」
いきなり頭痛が走り
私は思わず白夜の着物を掴んだ。
すると
白夜が泣きそうな顔をした。
「やめて!」
「お願いだから!」
「それ以上は……」
その時だった。
ガタン
屋敷のどこかで
何かが落ちる音がした。
白夜の顔色が変わる。
「あいつが……来たか…」
低い声。
「え?」
私は振り返る。
ガタン
また音がする。
廊下の奥で
誰かが歩いている。
ギィ
ガタン
ギィ
古い床が軋む。
一歩
また一歩と
近付いてくる。
私は息を呑む。
「誰なの……?」
白夜は答えなかった。
その代わりに
九本の尾が現れる。
ぶわり
屋敷中の空気が震えた。
そして
それは廊下の奥から現れた。
長い黒髪の
白い着物を着た女だ
けれど
顔が無かった。
いや
顔があるはずだ。
何故か
あるのに見えない。
まるで霞がかかっているみたいに。
その女は
私を見ていた。
『やっと』
女が呟く。
『見つけた』
私は凍り付いた。
その声が
どこか自分に似ていたのだ。
『白夜様』
女が笑う。
『また奪うの?』
白夜の目が細くなる。
「消えろ…」
『また同じことをするの?』
「黙れ…」
『今度は閉じ込めるの?』
『それとも逃がさないの?』
『今度は――』
「黙れ!!」
轟音が響き
屋敷中の障子が破れ
窓ガラスが砕ける。
私は悲鳴を上げた。
それを見て
女は笑っていた。
『ねえ……凛花』
『思い出して?』
『貴女は
どうして死んだの?』
その瞬間
頭の中で
何かが繋がった。
桜がが散る中で
泣いている白夜と
血だらけの私
そして
『ごめんなさい』
泣きながら笑う少女
『白夜様』
『私は貴方と一緒には行けない』
『だから――』
そこで記憶が途切れた。
私が床へ崩れ落ちると
白夜は苦しそうに目を閉じた。
もう隠せないな…
と言う
そんな顔だった。
「……凛花」
静かな声で
「君は」
長い沈黙
そして
白夜は何百年も抱え続けた罪を口にした。
「君を守れなかったんじゃない」
金色の瞳が揺れる。
「違う
本当は――」
彼は震える声で言った。
「君を逃がさなかったのは…
俺なんだ」
雨が
屋敷の外で
激しく降り始めた。
そして
凛花が失った前世の真実が、
ゆっくりと姿を現そうとしていた――。




