彼女を探す者
白夜の言葉に
私は何も言えなかった。
ただ
その金色の瞳から零れる涙だけが
妙に胸に刺さった。
初めて会ったはずなのに
なぜだろう
その顔を見ると胸が苦しくなる。
まるで
ずっと昔から知っていた人を
見ているみたいに。
「……凛花」
白夜はゆっくり私へ近付いてくる。
その足取りは慎重だった。
まるで夢が壊れるのを恐れるように。
「本当に…
君なんだね?」
嬉しそうなのに
どこか泣きそうで
震える声だった。
私は困惑したまま後退る。
「待ってください…」
「私たち初対面ですよね?」
白夜は立ち止まり
そして少しだけ寂しそうに笑う。
「そうだね…」
「君にとっては
初対面だったね…」
その言葉が引っかかった。
まるで結末を知っている観客みたいに
店主は黙ったまま二人を見ている。
「凛花」
白夜は優しく言う。
「無理に思い出さなくていい…」
「本当に?」
「うん」
白夜は微笑んだ。
「僕が前世を覚えているから…」
「全部ね…」
数百年分の想いが詰まっているみたいに
その言葉には不思議な重みがあった。
「君の好きだった花も
好きだった色も」
「よく転んで泣いてたことも…」
「全部覚えてるから…」
私は息を呑む。
なぜか
桜の花びらが
舞う景色が頭をよぎった。
知らないはずの記憶なのに
知らないはずの感情が溢れる。
「……っ」
頭が痛んだ
すると白夜がすぐに支えてくれた。
「大丈夫かい?」
その声は
驚くほど優しかった。
「ごめん…
焦らせたくないんだ」
白夜は苦笑する。
「本当は…
もっと余裕のある再会になる予定だったんだけどね」
「予定?」
「うん」
白夜は真面目な顔で頷く。
「偶然出会って
少しずつ仲良くなって
恋をして」
「それから迎えに行こうと思ってた…」
私は思わず呆気に取られる。
「それ何年計画ですか?……」
「50年くらい?」
「長い!」
店主が小さく吹き出した。
「相変わらず時間感覚が
おかしいですね
白夜は…」
「こう見えて長く生きてる
妖だからな…」
白夜は平然と言った。
「好きな相手には急ぎたくない…」
そう言ったあと
少しだけ表情を曇らせる。
「……でも
また見失うのは嫌だ…」
その一言だけ
妙に重かった。
店内の空気が静かになり
古時計だけが時を刻んでいる。
カチ
コチ
カチン
その時だった。
店の奥の棚に置かれていた人形が
ほんの少しだけ動いた気がした。
私は思わずそちらを見ると
誰もいない。
なのに
何かがこちらを見ている気配だけがある。
店主が静かに目を細めた。
「そろそろですかね…」
「え?」
私が聞き返した瞬間…
店内の灯りが揺れた。
ぱちっ
一瞬だけ暗くなる。
そして
耳元で誰かが囁いた。
『みつけた』
『またみつけた』
『こんどこそ』
私は悲鳴を飲み込む。
「な、何!?」
白夜の顔が変わり
今まで穏やかだった金色の瞳が
鋭く細められる。
「店主…」
低い声だった。
「まだ残っていたのか?」
店主は小さくため息を吐く。
「ええ」
「彼女を探しているのは
貴方だけではありませんから…」
その瞬間…
背筋が凍った。
白夜以外にも?
私を探している?
誰が?
何のために?
白夜は
庇うように私の前へ立つ。
「凛花」
その声は静かだった。
「僕から離れないで…」
初めてだった。
優しいだけだった
白夜の声に
はっきりとした警戒と執着が
滲んでいたのは。
そして
店の奥の闇の中で
何かがゆっくりと目を開いた――。




