店主への手紙
数日後。
あの雨の日とよく似た雨が降っていた。
路地裏の不思議な店愛執堂
古時計の針が静かに時を刻む中、
店主はいつものようにカウンターへ腰掛けていた。
――カラン
扉のベルが鳴るが
客ではなかった。
扉の前に置かれていたのは、
一通の封筒だった。
店主は小さく目を細めた。
「これは……」
差出人の名前を見て、
わずかに微笑んだ。
そこには
『傀堂玲司』
と書かれていた。
店主は静かに封を開くと
中には手紙が一枚。
そして写真が一枚入っていた。
写真には以前と変わらない
玲司が写っていた。
穏やかで満足そうな笑顔で
まるで長年の願いが叶った
人間のような顔だった。
その隣には結月がいる。
白いドレスを纏い、
美しい姿のまま
まるで人形のように整った姿で。
けれど――
その表情だけは違った。
瞳には光がなく
笑ってもいないし
泣いてもいない
何かを諦めたような
心が壊れてしまったような顔だった。
店主は静かに写真を見つめ
そして手紙へ視線を落とした。
そこには短くこう書かれていた。
『ようやく見つけた
もう離れない
これでずっと一緒だ
今度こそ失わない』
たったそれだけだった。
店主は目を閉じる。
店内に雨音が響く。
しばらくして
小さく息を吐いた。
「そうですか……」
その声はどこか寂しそうだった。
店主は写真をそっと机の上へ置く。
玲司の笑顔と
そして結月の空っぽな瞳。
それを見つめながら呟く。
「最終的に……
こうなる運命だったのですね…」
古時計が時を刻む。
カチ
コチ
カチン
店主は写真を引き出しへしまった。
そこには
過去に語られた数々の恋物語の写真や
手紙が眠っている。
怪物と人間
神と花嫁
そして人形師と少女
どれも歪で
どれも狂おしいほど一途な愛だった。
店主は静かに立ち上がり
そして次の客を待つように扉へ視線を向けた。
外では今日も雨が降っている。
まるで
また新しい物語を連れてくるかのように――。




