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異類婚姻譚 愛執堂  作者: 黒薔薇
大切な人を失うことを許せない人形師
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動き出す歯車

「なんでココに連れてきたのですか?」


玲司は少しだけ目を細めた。

まるで、

その質問をずっと待っていたかのように。


薄暗い部屋の中で、

彼の硝子細工のような瞳が静かに揺れる。


「……どうして、か」


私は小さく頷いた。


「なんで私をここに連れてきたんですか?」


雨が窓を叩く音だけが響く。


玲司はしばらく黙っていた。


そして

ゆっくりと口を開く。


「最初はね

ただ会いたかったんだ…」


静かな声だった。


「本当にそれだけだった…」


玲司は遠くを見るような目をする。


「もう一度だけ顔を見て…」


「元気に生きているなら、

それでいいって思ってた…」


その言葉に私は少しだけ安堵しかけた。


けれど

次の瞬間…

玲司は小さく笑った。


「でも無理だった…」


ぞくりとした。


「結月を見た瞬間、全部駄目になった…」


玲司は自分の胸元へ手を当てる。


「何百年も探して

何百年も忘れられなくて

やっと見つけたのに」


彼はゆっくり私を見る。


その瞳には深い執着が宿っていた。


「またいなくなるかもしれないって思ったら

凄く怖くなった

怖くて仕方がなかった…」


私は言葉を失うが

玲司は苦笑する。


「変だよね…」


「本当は怖がってるのは結月の方なのに…

俺の方がずっと怯えてる」


窓の外で雷が鳴ったが

玲司は続ける。


「だから連れてきたんだ…

ここなら誰も来ないし

誰も奪わない

誰も結月を連れていかない」


その言葉は優しいけれど

その優しさの形がどこか歪だった。


私は思わず身を引く。


「それって……」


玲司は首を傾げる。


「うん?」


「閉じ込めるってことですか……?」


沈黙して数秒後

玲司は小さく微笑んだ。


「どうだろう?」


そう言いながら

彼は私の髪を見つめる。


まるで壊れやすい人形を見るように。


「でもね

結月がいなくなったら

俺はたぶん、また壊れる」


その声は不思議なくらい穏やかだった。


だからこそ怖かった。


玲司は静かに立ち上がり

そして窓の外の闇を見つめながら呟いた。


「もう二度と失いたくないんだ…」


その横顔は

狂気と悲しみが混ざり合ったように見えた。


玲司は静かに私を見つめた。


雨音だけが部屋に響く。


その瞳は真っ直ぐだったけれど、

その奥には何百年も積み重なった孤独が

沈んでいるように見えた。


「結月……」


彼は私の手をそっと包む。


その手は人間の温もりとは少し違うけれど

不思議と冷たすぎるわけでもなかった。


「ずっとここにいてくれるか?」


私は息を呑む。


玲司は微かに笑う。


だが、

その笑顔はどこか不安そうだった。


「俺と同じ姿になっても……いてくれるかい?」


部屋の空気が静まり返る。


私はすぐに答えられなかった。


玲司は俯く。


「ごめん」


ぽつりと呟く。


「急にこんなこと言われても困るよな」


彼は苦笑した。


「でもさ……」


その声は少し震えていた。


「結月はまた歳を取るだろ?」


「俺は変わらない」


「結月だけが変わっていく」


彼は窓の外を見る。


「また置いていかれるのが怖いんだ」


私は玲司を見る。


今まで狂気じみた執着ばかり見えていたけれど

今の彼は違った。


長い長い時間の中で、

大切なものを失い続けてきた存在に見えた。


「玲司さん……」


私が名前を呼ぶと、

彼はすぐに振り返る。


まるでその一言を待っていたみたいに。


「俺は待てる」


玲司は静かに言った。


「何百年でも待てる」


そして少し笑う。


「本当は今すぐ『うん』って言ってほしいけど」


「無理やり答えを聞きたいわけじゃない」


その言葉に私は少し驚く。


玲司は執着している。


それは間違いないけれど

彼が欲しいのは人形ではなく

自分の隣にいてくれる"結月"なのだと、

少しだけ分かった気がした。


玲司は私の額にかかった髪を払う。


「だから考えて?」


「俺と生きる未来を…」


その瞳は相変わらず危うかった。


何百年も待ち続けた者の執着

失うことを恐れる者の愛情


その両方が混ざっている。


「結月」


彼は優しく名前を呼ぶ。


「今度はちゃんと選んでほしい」


「昔みたいに、誰かに奪われるんじゃなくて」


「結月自身の意志で」


雨音が静かに続く。


そして私はまだ知らない。


玲司が語る"昔"に隠された真実を

彼が何百年も抱え続けてきた後悔を


それを知った時

私自身がどんな答えを選ぶことになるのかを――。



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