屋敷
雨の中を歩き続けた先に、
それはあった。
森の奥深く
誰にも見つけられないように佇む古い洋館。
蔦に覆われた外壁に
色褪せたステンドグラス
けれど不思議なことに、
建物そのものは壊れていない。
まるで誰かがずっと手入れを続けてきたようだった。
「ここが……」
私は言葉を失う。
それを見て
玲司は静かに頷いた。
「帰ってきたんだ…」
その声音には、
長い年月を経てようやく辿り着いた者の
安堵が滲んでいた。
扉が開くと
中には無数の人形が並んでいた。
だが店で見たものとは違い
どれも穏やかな表情をしている。
まるで家族写真のように。
「この子たちは?」
私が尋ねると、
玲司は少し困ったように笑った。
「失敗作じゃないよ…」
「え?」
「俺が一人でいる間、
話し相手になってくれた子たちだ…」
その言葉に胸がざわつく。
何百年という孤独
その重さが少しだけ伝わった気がした。
玲司は館の奥へ私を案内する。
そこには一つの部屋があった。
壁一面にスケッチや
大量の設計図
そして
中央に置かれた一枚の肖像画があった。
私は息を呑んだ。
描かれていた少女が、
自分によく似ていたからだ。
「……誰?」
玲司は答えないで、
代わりに肖像画を見つめる。
「ずっと考えてた」
静かな声だった。
「もしもう一度会えたら、何を話そうって」
玲司の指先が震える。
「でも実際に会ったら駄目だったろ」
苦笑する。
「嬉しくて」
「怖くて」
「また失うんじゃないかって思って」
その瞳はどこか危うかった。
人間らしい感情と、
長い執着が混ざり合っている。
「玲司さん……」
呼びかけると、
玲司はゆっくりこちらを見た。
そして初めて
弱々しく笑った。
「俺、自分が
おかしくなってるのは分かってるんだ…」
部屋の時計が時を刻む。
カチ。
カチ。
カチ。
「何百年も同じ人を探し続けたら、
まともではいられない」
玲司は肖像画に目を向けた。
「だから時々思うんだ」
ぽつりと呟く。
「君も俺と同じになれば、
もう離れなくて済むんじゃないかって…」
背筋が冷える。
だが次の瞬間…
玲司は苦しそうに顔を歪めた。
「……でも違う」
その声は震えていた。
「それは俺が欲しい結月じゃない…」
沈黙が落ちる。
雨音だけが聞こえる。
玲司は長い時間をかけて言った。
「俺は待つよ」
「また何年でも」
「今度は君自身が選ぶまで」
その言葉を聞いた瞬間
館のどこかで鈴の音が鳴った。
ちりん
そして私は気付かなかった。
廊下の奥に
閉ざされた扉の向こうから
誰かがこちらを見ていたことに。
まるで
玲司よりもずっと昔から、
この再会を待っていた何かが。




