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異類婚姻譚 愛執堂  作者: 黒薔薇
大切な人を失うことを許せない人形師
21/48

人形達のざわめき

しばらく沈黙してから時間が経った時だった。


――カチリ


店内に置かれていた古時計が、

ひときわ大きな音を立てた。


私はびくりと肩を震わせる。


すると

今まで静かだった店の奥から、

何かが転がるような音が聞こえた。


ゴトン


ガタン


ゴトン


バタン


ゴトン


ドタン


「……?」


思わず振り返ると


棚の奥と

薄暗い店内のさらに奥に

並べられていた人形たちが――


ほんの少しだけ

こちらを向いているように見えた。


「っ……!」


息が詰まる。


気のせいだと

そう思いたかった。


けれど

確かにさっきまで見ていた位置と違い


人形たちの顔が

全員こちらを見ている。


まるで

私を見ているようだ


その様子に

玲司も気付いたらしい。


すっと目を細めた。


「店主」


低い声だった。


「また増えたのか?」


店主は困ったように笑う。


「ええ。最近は落ち着いていたんですが…ね…」


「……結月を見て騒いでるな?」


その言葉に背筋が凍り

私が思わず後ずさると

店の奥から

誰かが囁くような声が聞こえた。


『かえして』


『かえして』


『その子を』


『その子は――』


「やめろ!」


玲司の声が響いた。


その瞬間…

店内の空気が重くなる。


古時計が止まり

人形たちの囁きも消える。


静かになると

玲司は私の手首を掴んだ。


冷たい

けれど強い力だった。


「行くぞ」


「え?」


「ここに長くいるのは良くない…」


店主が静かに口を開く。


「玲司さん」


「止めるな!」


即答だった。


その声音に私は思わず息を呑む。


さっきまでの穏やかな雰囲気が消え

玲司は私を庇うように前へ立ち

そして店の奥を睨みつけた。


「やっと…見つけたんだ」


その声は震えていた。


怒りとも

焦りとも違う

もっと危うい何か。


「もう二度と失いたくない」


店主がため息を吐く。


「相変わらずですね」


「当然だろ!」


玲司は笑ったけれど

目が笑っていない。


「俺は結月を探して何百年も歩いたんだ!」


握る力が強くなる。


「何百年だぞ?」


「玲司さん」


「黙ってくれ!」


その声は低かった。


店主ですら口を閉じる。


玲司は私を見る。

その瞳は真っ直ぐだった。

真っ直ぐすぎて怖いほどに…


「結月」


名前を呼ばれる。


「今度こそ離さない」


「待っ――」


「大丈夫」


食い気味に言われた。


「怖がらなくていい」


全然大丈夫そうじゃないでしょ!?


そう思ったのに

玲司はどこか切実そうだった。


「もう失いたくないんだ」


その言葉だけは

嘘じゃないように聞こえた。


店主が静かに目を閉じる。


「本当に連れて行くんですね?」


「当たり前だろ!」


玲司は即答する。


「やっと見つけたんだから♪」


そして

ゆっくり微笑んだ。


その笑顔は優しい

なのに恐ろしい。


まるで長年探し続けた宝物を

ようやく手に入れた人の顔だった。


「結月」


もう一度名前を呼ぶ。


「帰ろう」


「どこへ……?」


私の問いに

玲司は当たり前のように答えた。


「俺たちの家だよ」


その瞬間…

店内の照明が一斉に明滅した。


人形たちが

一瞬だけ笑ったように見えた。


そして

玲司は私の手を引き、

そのまま強引に店の外へ踏み出した。


「待って――!」


振り返った先で

店主だけが静かに立っていた。


まるで全てを知っているように。


そして

私へ向かって小さく微笑む。


「お気をつけて」


その言葉の意味を

私はまだ知らなかった。


雨の中

玲司は私の手を離さない。


まるで

何百年も前からそうしていたみたいに。


そしてその瞳には

再会の喜びと同じくらいの、

底知れない執着が宿っていた。


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