人形師との出会い
私は身を引いたが、
店主は何も答えないで
ただ穏やかに微笑んでいるだけだった。
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「……答えてください…」
思わず声が強くなる
けれど店主は困ったように肩を竦めた。
「さて、どうしてでしょうね?」
「そんなの答えになってません!」
「そうですか?」
店主は小さく笑う。
その余裕のある態度が余計に私の不安を煽った。
店内には古時計の針の音だけが響いている。
コチ、コチ、と
妙に大きく聞こえた。
私は怖くて帰ろうと思った。
知らない店で
知らない男に名前を呼ばれた。
どう考えても気味が悪いと
そう思って振り返った瞬間だった。
――カラン…
扉が開く音がした。
私は反射的にそちらを見る。
雨が降っている
その向こうから
一人の男が店へ入ってきた。
黒いコートに
黒い手袋
そして
まるで人形のように整った顔立ちをしていた。
あまりにも整いすぎていて、
逆に生気を感じない
不思議な男だった。
男は店へ入るなり、
真っ直ぐこちらを見た。
その瞬間…
私の背筋をぞくりとした悪寒が走った。
その男は
ずっと探していたものを見つけたような目を
していたのだった。
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「……ああ」
男が小さく呟く。
「やっと見つけた」
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私は思わず後ずさった。
「え……?」
男はゆっくり微笑む。
その笑顔は綺麗だったけれど
どこか壊れている。
そんな笑みだった。
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「探したんだ
本当に
ずっと」
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店主が小さくため息を吐く。
「玲司さん
相変わらず早いですね」
男は視線を私から外さないまま答えた。
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「当然だろう?
やっと見つけたんだから」
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そして
男は静かに胸へ手を当てた。
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「初めまして
俺は――」
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ゆっくりと
その名前を告げる。
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「傀堂玲司」
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男の瞳が細められる。
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「人形師だ」
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一瞬の沈黙。
そして。
彼はまるで当然のことのように続けた。
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「正確には
人形師である俺が作った人形だけどね」
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私は固まった。
意味が分からなかった。
人形?
目の前の男が?
どう見ても人間にしか見えないのに…
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「……冗談ですよね?」
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私がそう言うと、
玲司は小さく首を傾げた。
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「どうして?」
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その仕草さえ、
糸で操られているように綺麗だった。
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「俺は人形だよ?
呪術を使って
自ら人形になることを望んで今の姿になった
だからずっと壊れないし
ずっと変わらないよ?」
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彼はゆっくり笑う。
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「そして
ずっと君を探していた」
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その言葉を聞いて
店内の空気が静かに重くなった気がした。
店主は黙ったまま二人を見つめている。
まるで
これから始まる物語を知っているかのように。
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玲司は一歩近付く。
その瞳はまっすぐ私だけを映していた。
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「天音結月」
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優しく
愛おしそうに
何度も確かめるように
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「結月」
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「やっと会えた」
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その言葉を聞いた瞬間
なぜか胸の奥がざわついた。
私はまだ知らない。
目の前の男が、
何百年も前に失った
"たった一人"を探し続けていたことを
そして
その執着が、
神様とも怪物とも違う、
もっと静かで狂気じみた愛だったことを――。




