二人と店主
だんだん…春が終わりに近づいていた。
路地裏の不思議な店には、
今日も静かな時間が流れている。
店主はいつものようにカウンターで本を読んでいて
店内には古時計の音だけが響いている。
コチ、コチ、と。
その時だった。
――カラン
と音がした。
扉が開いたわけではないけれど
店の前に、
一通の封筒が置かれていた。
店主は小さく微笑む。
「珍しいですね」
封筒を拾い上げ
差出人の名前を見た瞬間…
店主は
少しだけ目を細めた。
そこには綺麗な字でこう書かれていた。
『白藤美琴・蓮命』
店主は静かに封を開くと
中には二枚の便箋が入っていた。
一枚目は美琴の字だった。
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店主さんへ
お元気ですか?
蓮命は相変わらずです。
会うたびに「今日も来てくれた」と喜びます。
少し重いです。
いや…かなり重いです。
でも今は、その重さも嫌じゃありません。
きっと昔からそうだったんでしょうね。
あの日、あなたが私を神社へ向かわせてくれたから
私は大切な人を思い出せました。
本当にありがとうございました。
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店主は小さく笑った。
「少しどころではないと思いますけどね?」
そして二枚目を開くと
こちらは蓮命の字だった。
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店主へ
余計なことをしたと思っていたけれど
今は少しだけ感謝している。
少しだけだからね?
本当に少しだけ。
美琴は元気で
毎日笑っているよ。
だから今は許してあげる。
それと
もし次に店へ迷い込む人がいたら。
ちゃんと幸せにしてあげてほしい。
寂しそうな人だったら特に気にかけてほしい。
僕みたいにならないようにしてくれ。
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そこまで読んで
店主は思わず吹き出した。
「神様が言う台詞ですか、それは」
店内に穏やかな笑い声が響く。
その時だった。
便箋の間から、一枚の古い写真が落ちた
店主はそれを拾い上げる。
しかし
その写真は美琴たちではなかった。
そこには
見知らぬ女性が写っていた。
長い黒髪で
どこか物憂げな瞳をしている。
そして写真の裏には
一行だけ文字が書かれていた。
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『どうか、私の恋物語も聞いてください』
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店主の笑みが消えた。
静かな沈黙。
古時計だけが時を刻んでいる。
カチ。
コチ。
カチ。
やがて店主は写真を眺めながら呟いた。
「なるほど…
次はあなたですか…」
窓の外を見ると
いつの間にか空が曇っていた。
ぽつりと
雨が落ちる。
まるで新しい物語の始まりを告げるように。
店主は写真をカウンターへ置き
そして静かに微笑んだ。
「さて
次はどんな恋のお話を聞かせてくれるのでしょうね?」
外では雨が降り始めたが
路地裏の店は今日もそこにある。
迷える誰かが訪れるのを待ちながら。
そして
新たな人外と人間の恋物語が、
静かに幕を開けようとしていた――。




