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異類婚姻譚 愛執堂  作者: 黒薔薇
『花嫁を待つ神』
15/48

二人と店主

だんだん…春が終わりに近づいていた。


路地裏の不思議な店には、

今日も静かな時間が流れている。


店主はいつものようにカウンターで本を読んでいて

店内には古時計の音だけが響いている。


コチ、コチ、と。


その時だった。


――カラン

と音がした。


扉が開いたわけではないけれど

店の前に、

一通の封筒が置かれていた。


店主は小さく微笑む。


「珍しいですね」


封筒を拾い上げ

差出人の名前を見た瞬間…


店主は

少しだけ目を細めた。


そこには綺麗な字でこう書かれていた。


『白藤美琴・蓮命』


店主は静かに封を開くと

中には二枚の便箋が入っていた。


一枚目は美琴の字だった。


---


店主さんへ


お元気ですか?


蓮命は相変わらずです。


会うたびに「今日も来てくれた」と喜びます。


少し重いです。


いや…かなり重いです。


でも今は、その重さも嫌じゃありません。


きっと昔からそうだったんでしょうね。


あの日、あなたが私を神社へ向かわせてくれたから

私は大切な人を思い出せました。


本当にありがとうございました。


---


店主は小さく笑った。


「少しどころではないと思いますけどね?」


そして二枚目を開くと

こちらは蓮命の字だった。


---


店主へ


余計なことをしたと思っていたけれど

今は少しだけ感謝している。


少しだけだからね?

本当に少しだけ。


美琴は元気で

毎日笑っているよ。


だから今は許してあげる。


それと

もし次に店へ迷い込む人がいたら。


ちゃんと幸せにしてあげてほしい。


寂しそうな人だったら特に気にかけてほしい。


僕みたいにならないようにしてくれ。


---


そこまで読んで

店主は思わず吹き出した。


「神様が言う台詞ですか、それは」


店内に穏やかな笑い声が響く。


その時だった。


便箋の間から、一枚の古い写真が落ちた

店主はそれを拾い上げる。


しかし

その写真は美琴たちではなかった。


そこには

見知らぬ女性が写っていた。


長い黒髪で

どこか物憂げな瞳をしている。


そして写真の裏には

一行だけ文字が書かれていた。


---


『どうか、私の恋物語も聞いてください』


---


店主の笑みが消えた。


静かな沈黙。


古時計だけが時を刻んでいる。


カチ。


コチ。


カチ。


やがて店主は写真を眺めながら呟いた。


「なるほど…

次はあなたですか…」


窓の外を見ると

いつの間にか空が曇っていた。


ぽつりと

雨が落ちる。


まるで新しい物語の始まりを告げるように。


店主は写真をカウンターへ置き

そして静かに微笑んだ。


「さて

次はどんな恋のお話を聞かせてくれるのでしょうね?」


外では雨が降り始めたが

路地裏の店は今日もそこにある。


迷える誰かが訪れるのを待ちながら。


そして

新たな人外と人間の恋物語が、

静かに幕を開けようとしていた――。


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