表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異類婚姻譚 愛執堂  作者: 黒薔薇
『花嫁を待つ神』
13/50

美琴の答え



雨はいつの間にか止んでいた。


店の窓から差し込む薄い夕日が、

静かに店内を照らしている。


美琴は手の中の髪飾りを見つめていた。


胸の奥が落ち着かない

すごく懐かしいけれど

思い出せない。


そんな感覚だけが残っていた。


---


「無理に思い出そうとしなくていいですよ」


店主が紅茶を差し出す。


美琴は小さく頭を下げた。


「でも……」


「気になるんでしょう?」


「……はい」


店主は微笑む

まるで最初から分かっていたかのように。


---


蓮命は少し離れた場所に立っていた。


先ほどまでの勢いはなく

ただ静かに美琴を見ている。

それだけだった。


---


「蓮命さん」


美琴が初めて名前を呼ぶ。


その瞬間…

蓮命の肩が小さく震えた。


---


「なに?」


---


「本当に……待っていたんですか?」


---


蓮命は答えなかった。


代わりに窓の外を見る。


夕暮れの空


長い沈黙のあと…

やがて彼はぽつりと呟いた。


---


「待っていたよ」


---


「どれくらい?」


---


「忘れた」


小さく笑う。


「最初は数えてたんだ」


「一年

十年

五十年

百年」


---


蓮命は目を閉じた。


---


「でも途中で分からなくなっちゃった…

待つことが当たり前になってたから」


---


美琴は言葉を失う。


その時間の重さを想像できなかった。


---


「どうしてそこまで……」


---


蓮命は少し困ったように笑った。


---


「好きだったから」


---


あまりにも単純な答えだった。


けれど

数百年という時間が乗るだけで、

それは狂気にも似た重さになる。


---


「変だよね」


---


蓮命が笑う。


---


「自分でもそう思う

君はもう別人かもしれないのに

それでも会いたかった」


---


その言葉に

美琴の胸が痛んだ。


---


その日の帰り道

蓮命は何も言わなかった。

無理に近付くこともなかった。


一定の距離を保ちながら

ただ後ろから歩いてくるだけだった




---


駅へ向かう途中

美琴は何度も振り返った。


そのたびに

蓮命はそこにいた。


---


まるで

何百年も同じ場所で待ち続けていた人みたいに。


---


その夜

美琴は夢を見た。


---


古い神社に

満開の藤

そして夕暮れ


---


『蓮命さま!』


---


少女が笑っている。


楽しそうに

幸せそうに


---


『また来るね!』


---


『約束だよ』


---


『うん!』


---


目が覚めた時

美琴の頬は涙で濡れていた。


---


それから数日

夢は何度も続いた。


---


笑った日や

祭りの日


それに喧嘩した日も

特別な藤の花を一緒に見た日も


---


どれも断片的な記憶だけれど

確かに存在した時間だったんだ…


---


そして気付く

怖かったはずなのに


毎日のように

自分は蓮命のことを考えている。


---


「あの神社……」


美琴は呟く。


---


行かなきゃ。


---


理由は分からないけれど

会わなければいけない気がした。


---


そして数日後

再びあの店の扉を開く。


---


――カラン。


---


店主が微笑む。


---


「来ると思っていましたよ」


---


そして店の奥から、

聞き慣れた声がした。


---


「……美琴」


---


振り返ると

そこには蓮命が立っていた。


---


相変わらず人ならざる美しさを纏った神がいる

けれど前回とは違う。


無理に近付いてこないし

無理に触れようともしない。


ただそこに立っていたのだ。

美琴の答えを待つように。


---


「神社……案内してくれるんでしょ?」


---


蓮命は一瞬だけ目を見開いた。


そして

本当に少しだけ笑った。


---


「うん」


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ