二人の再会
店主の言葉が終わってしばらく沈黙が続いた…
その瞬間だった。
――ちりん
私の手の中にある髪飾りの鈴が鳴った。
おかしい
誰も触れていないはずなのに。
「……え?」
思わず髪飾りを見る
すると店内の空気が変わった。
なんか…
温度が下がったような
それでいて、
不思議な懐かしさが胸の奥を満たしていく。
店主は驚かない。
まるでこうなることを知っていたかのように
ただ静かに入口の方へ視線を向けていた。
――カラン
扉の鈴が鳴り
閉まっていたはずの扉が、
ゆっくりと開いた。
外では相変わらず雨が降っている。
けれど
そこに立つ人物だけは濡れていなかった。
白い装束に
長い黒髪をしており
夜のように深い瞳で
人間離れした整った顔立ちをしていた。
まるで神話から抜け出してきたような青年だった。
彼は店へ入るなり、
真っ直ぐ私を見た。
まるで他には何も見えていないかのように。
そして
震えるような声で呟いた。
「……美琴なのか?」
私は息を呑んだ。
初対面のはずだった。
なのに
その声を聞いた瞬間
胸の奥が締め付けられる。
懐かしい
会ったことなどないはずなのに
なぜかそう思った。
青年は一歩近づく。
その瞳は、
長い長い夢の続きを見つけた人のようだった。
「美琴なんだね?」
もう一度呼ぶ
確かめるように
失わないように
まるで
大切な宝物を抱き締める前のように
「本当に……美琴なんだね」
私は戸惑った。
「あなたは……?」
青年はしばらく黙っていた。
何かを堪えるように
数え切れないほどの言葉を飲み込むように
そして静かに微笑んだ。
「ごめん
急に現れたら驚くよね」
その笑顔は優しかったけれど
どこか切ない。
「僕の名前は――」
雨音が静かに響く。
青年は真っ直ぐ私を見つめた。
「天原 蓮命さ
この土地で祀られていた神だよ」
私は言葉を失った。
神
そんな言葉を普通なら信じない
信じるはずがない
なのに
彼を見ていると否定できなかった。
人ではない
そう本能が告げていた。
蓮命は少しだけ困ったように笑う。
「やっぱり信じられないよね?
無理もないよ
輪廻転生して
生まれ変わってるんだから
君は覚えていないんだよね…」
その言葉に胸がざわつく。
「覚えてない……?」
「うん」
彼は頷いた。
「君は僕を忘れてしまった
でも僕は忘れなかった」
静かな声だった。
怒りも責める色もない。
ただ
長い時間を抱え続けた人の声。
「君の好きだった花も
好きだった季節も
神社の石段で転んで泣いた日のことも」
「全部覚えてる」
私の心臓が大きく鳴る。
知らないはずなのに
聞いているだけで胸が苦しくなる。
蓮命は私の手の中の髪飾りを見つめた。
「それは君がくれたものなんだよ?
僕のために作ってくれたから
ずっと大切にしてたんだ…」
彼の声はどこまでも優しい。
けれど
その優しさの奥にある想いはあまりにも深かった。
数百年
ただ一人を待ち続けた存在の重さがあった。
店主はそんな二人を見ながら、
小さくため息をつく。
「再会の感動に浸るのは結構ですが
彼女はまだ何も知りませんよ蓮命」
蓮命は一瞬だけ店主を見て
それから再び私へ視線を戻した。
「そうだね店主」
そして
どこか寂しそうに微笑んだ。
「だから今度は
また最初から始めようか?
美琴」
その名前を呼ぶ声だけが
なぜだかとても懐かしく聞こえた。




