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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第5章:世界地図を塗り替えた日

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第83話:運河への野望と、世界同時の都市化

京都・室町本社の奥の院。


薫子は一人、机の上に広げられた巨大な「大東大陸アメリカ」の地図を見つめていた。


彼女の視線の先にあるのは、大陸の中央部、東の海と西の海を隔てる最も細いくびれ――巴奈馬パナマ地峡であった。


『この細い陸地……ここに海と海を繋ぐ「水路」を通すことができれば、船から荷を下ろさずに直接欧州の背後へ回ることができる。世界の物流を完全に支配する、究極のショートカット、「パナマ運河」……』


薫子は、細い指先でそのくびれをなぞった。


莫大な富を生むであろう魔法の水路。


だが、彼女の瞳に野心は浮かんでいなかった。


あるのは、前世の知識がもたらす、底知れぬ恐怖と冷徹な計算だけであった。


薫子は、ふうと静かに息を吐き出す。


『あの熱帯の密林で運河を掘るという行為が、どれほどの地獄を引き起こすか。私はよく知っている。近代の重機やダイナマイト、そして高度な医療を持った十九世紀のフランスですら、黄熱病とマラリアの猛威、そして予想外の硬い岩盤と高低差に阻まれ、数万人規模の死者を出して破綻した。人類史に残る、最悪のデスマーチよ』


ましてや、今の時代は十五世紀である。


抗生物質も重機もなく、ツルハシと人力だけであの密林と山を掘り進めればどうなるか。


『労働力として送り込んだ日本の足軽も、現地で雇い入れた先住民たちも、文字通り「泥と病」に飲み込まれて全滅する。史実のコンキスタドールのように、人の命を使い捨てるような野蛮な開発は、長期的には必ず国家の赤字になる。私の創り上げたこのホワイトな経済圏では、絶対に許されない行為よ』


薫子は、自らの決断を確固たるものにするように、力強く頷いた。


「薫子。なんや、難しい顔をして地図と睨めっこしとるんえ?」


不意に、背後から声をかけられた。


振り返ると、将軍正室・日野富子が、届いたばかりの分厚い書状の束を片手に微笑んでいた。


「富子様。いえ、これからの商いの筋道を、少々思い描いておりましただけでおじゃりまする」


薫子は恭しく頭を下げる。


「そうかえ。まあ、ええ知らせや。斯波と畠山から文が届いたえ。大東大陸のくびれ……巴奈馬の地での『石畳の大街道』、いよいよ大拡幅の工事が完了したそうやわ」


富子が、扇子でポンと書状の束を叩いた。


「まあ、それは重畳におじゃりまする! 強固な石畳をさらに広く敷き詰めてしまえば、いかに物量が増えようと、憂いなく捌ききれまするゆえ」


「あいつら、現地の民に鉄の農具を貸し与えて莫大な飯を食わせながら、さらに道を何倍にも広げさせとるそうやないか。その分厚く広大な石畳の上に無数の馬車を並べ、昼夜を問わず荷を運ばせる『陸の海流』……見事な仕組みやわ」


富子は、薫子が考案した兵站の美しさに、深く満足したように目を細めた。


***


数ヶ月後、大東大陸の中央部。


巴奈馬パナマ地峡のジャングルは、さらに大きく切り拓かれていた。


かつて敷かれた一本の道は、今や見渡す限りの広大な『石畳の大街道』へと、途方もない規模で拡幅されていた。


「おおおお! 見よ、この何倍にも太くなった淀みない流れを! これぞ、これこそが至高の兵站でおじゃる!」


街道を見下ろす物見櫓の上で、猛将・畠山義就が、感動のあまり熱い涙を流しながら叫んでいた。


眼下の石畳の上を、数え切れないほどの馬車が、整然と隊列を組んで行き交っている。


西の太平洋側からは、足利拓殖座が阿羅須加アラスカから運んできた極上の毛皮や鯨油、そして大内大商館が南洋から運んできた莫大な香辛料や、大東大陸の銀が次々と陸揚げされる。


それらの荷は規格化された木箱に詰め替えられ、馬車のリレーによって、あっという間に東の加里武カリブ海側へと運ばれていくのだ。


「うむ。この過酷な密林で、泥に足を取られることもなく無限の荷が運ばれてゆく。……さすがは室町本社の薫子殿よ。現地の民と手を結び、道を拡幅し続けることで、一滴の血も流さずに莫大な富を回し続けられるわ!」


同じく櫓の上に立つ斯波義廉も、馬車の轟音を聞きながら満足げに頷いた。


彼らが雇い入れた現地の先住民たちも、奴隷として酷使されているわけではない。


幕府から支給された鉄の農具で莫大な余剰作物を生み出し、予防医学による衛生管理と、相場を遙かに超える手間賃(ガラス細工や銀)を受け取りながら、喜んでこの巨大インフラ事業に参加していた。


そして、この莫大な物流が行き着く先、加里武海に面した港湾部には、もはや「商館」や「関所」という言葉では括りきれない、途方もない光景が広がっていた。


***


加里武カリブ大関所』。


それは、熱帯の海辺に突如として出現した、巨大な要塞都市メガロポリスであった。


「おい、三番埠頭の荷下ろしを急がせろ! 次の南蛮行きのガレオン船がすぐに入ってくるぞ!」


「湯屋(銭湯)の薪が足りねえ! 巴奈馬の街道番どもが、交代で汗を流しに来る時間だ!」


巨大な防波堤と、幾本も突き出た石造りの埠頭。


港町には、京都の町並みを模した瓦屋根の巨大な倉庫群や、商人たちの宿泊施設、そして長旅の疲れを癒やすための巨大な公衆浴場(スーパー銭湯)までもが完備されている。


衛生観念は徹底されており、上下水道が完備され、石畳の道には一切の汚物が落ちていない。


そこかしこに茶屋や蕎麦屋の暖簾がはためき、大東大陸の太陽の下で、髷を結った日本の足軽たちと、現地で雇用された色鮮やかな衣装の民たちが、同じ屋台で温かい汁をすすりながら笑い合っていた。


もはやここは「未開の地」などではない。


室町幕府の莫大な資本と鉄の規律によって完全に制御された、世界最高峰の近代的な「人工都市」であった。


***


都市化の波は、赤道直下の熱帯地方だけにとどまらなかった。


遙か北方の極寒の地、阿羅須加アラスカから連なる平原の東端(シベリア前線)。


猛吹雪が吹き荒れる氷の大地にも、奇跡のような都市が出現していた。


「うおおおっ! 外は身を切るような吹雪だというのに、この館の中は春のように暖かでおじゃるな!」


巨大な木造要塞の奥深く、床暖房オンドルが完備された大広間で、足利成氏が鮭の鍋をつつきながら豪快に笑っていた。


「大内大商館が大明国の北辺から仕入れてきた『オンドル』の図面と、堺の職人たちの知恵の賜物におじゃりまする。これで、極寒の冬であっても、我らが労働力(足軽と現地の狩人)の士気は下がりませぬ」


側近の武将が、汗を拭いながら報告する。


「うむ! この暖かさと美味い飯があれば、狩人どもも我が足利に毛皮を売りに来るというもの。地の果てであろうと、我らが立つ場所がたちまち『都』になるわ!」


阿羅須加の拠点もまた、単なる前哨基地ではなくなっていた。


巨大な貯蔵庫、火縄銃の整備工場、そして毛皮の加工場が立ち並び、数千人の労働者が吹雪をものともせずに快適な生活を送る「極寒のメガロポリス」として機能していたのである。


***


京都・室町本社。


富子と薫子は、世界地図のあちこちに立てられた『日章二引両旗』の駒を眺めていた。


加里武カリブ巴奈馬パナマ阿羅須加アラスカ、そして阿弗利加アフリカの希望峰。


かつては点と線でしかなかった航路が、今や巨大な「面(都市)」として、世界中に根を下ろしている。


「恐ろしいことやわ。我らが日の本から送り出した銭と仕組みが、世界のあちこちに、見たこともない巨大な都を同時多発的に生み出しておる」


富子が、感嘆の吐息を漏らした。


「これこそが、資本と兵站の力におじゃりまする。都市が生まれれば、そこに民が集い、さらに巨大な富を生み出す。もはや、武力で我らの商い網を打ち破れる国など、この地球上のどこにも存在しませぬ」


薫子は、恭しく頭を下げながら答えた。


『そう。これこそが私の思い描いていた「世界同時のメガロポリス化」。史実では数百年後に欧州の列強が血みどろになって築き上げた世界システムを、室町幕府がたった数年で、しかも徹底したホワイト雇用とインフラ投資で完成させたのよ』


未開の地など、もはやどこにもない。


世界はすでに、圧倒的な経済力を持つ日本の手によって、見えざる鎖で一つに繋がれようとしていた。


遙か西の海で、一隻の小さな船が、無謀な野望を抱いて「未知のインディアス」へと出航の準備を進めていることなど、この時の彼女たちは知る由もなかった。

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パナマ運河に並ぶチームポイントのスエズ運河ならファラオの運河が古代に存在したが ナイル川伝いに下るからこの時代でも予算が有れば復興出来うるが 比叡山は関税取り上げられてからご無沙汰だけど南都北嶺は健…
パナマ運河、地図や写真で見ているとけっこう緑多いんですよねえ。 なんか稲作できそうではありませんか? ここ、まず百姓を送り込んで溜池と用水路作らせたらどうだろう? 兵庫県(特に播州は多い)には農業用の…
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