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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第4章:南蛮逆上陸 〜大西洋横断と「ルネサンス」の買収〜

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第79話:大航海時代の勝者たち

一四八五年、秋。


京都、室町第。


庭園の木々が鮮やかな紅葉に染まる中、将軍正室の広間には、厳かで、しかしどこか甘美な静寂が漂っていた。


上座に座る日野富子の目の前には、重厚な革張りの筒から取り出された、何枚もの分厚い羊皮紙が並べられている。


それは、メディチ家の厳重な保護下にある特使が、数ヶ月の時をかけて海と大陸を越え、京都へと届けたものであった。


「……スペイン、ポルトガルをはじめ、南蛮の主要な王侯貴族たちの署名と、国璽こくじでおじゃります。我らが提示した関税の支払いと、信用手形による決済の義務化……すべて、受諾したとの証におじゃります」


薫子が、一枚一枚の羊皮紙を恭しく広げながら、静かな声で報告した。


富子は、羊皮紙の端に記された、見たこともない異国の複雑なサインや、蝋で固められた紋章を、白い指先でそっとなぞった。


「これ一枚で、あの気の強いスペインの女王も、鼻持ちならん南蛮の貴族どもも、みな我ら室町幕府の『算盤』の下にひれ伏したというわけやな」


「左様でおじゃります。彼らは領土こそ奪われませんでしたが、これより未来永劫、富の源泉である物流の急所を我らに握られ続けることになりましょう。……完全なる、経済による勝利でおじゃります」


富子はふうっと長く息を吐き、天井を見上げた。


「……薫子。昔、斯波や畠山の家督揉めの折に、お前がうちの部屋で言うた言葉を覚えとるか?」


「はい。……あのまま放っておけば、細川様と山名様が代理戦争として首を突っ込み、跡継ぎ争いを口実にして、この美しい京の都が火の海になる……と」


富子は手元の扇子を開き、自らの顔を仰ぎながら、ふふっと笑った。


「そうや。あの時は随分と突拍子もない話やと思うたけど……今ならはっきりと分かる。お前があの時、『算盤』と『異国の海』いう餌で彼らの目線を外へ向けさせんかったら、間違いなくあいつらはこの都で、血みどろの殺し合いを始めとったやろうな」


史実において、一四六七年に勃発し、十一年にわたって京都を焼き尽くし、日本全土を戦国時代へと引きずり込むはずだった『応仁の乱』。

それを、薫子は事前に完璧に予測し、未然に防いでみせたのだ。


「それが今やどうや。あいつら、遠い異国の海の上で肩を並べて、南蛮の艦隊をこてんぱんに叩きのめしてきよった。……誰も身内同士で殺し合わず、誰も日本の民を飢えさせることなく、ただ外の世界の富をかすめ取って、この国を黄金で満たしてしもうた」


富子の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


それは、為政者として、そして一人の母として、この国の人間が誰も死なずに済む世界線ルートを選び取ることができたという、圧倒的な安堵と歓喜の涙であった。


「お前のおかげや、薫子。お前が、武力やのうて『カネと物流』で人を動かす術を、うちに……いや、この日の本に教えてくれたからや」


富子の言葉に、薫子は深く、静かに頭を下げた。


「もったいなきお言葉でおじゃります。……ですが、富子様のご決断と、この室町という強固な器がなければ、算盤の弾き手などただのあきんどに過ぎませんでした。すべては、富子様が天下の母として、大名たちを導かれた結果でございます」


薫子が顔を上げると、二人は示し合わせたように微笑み合った。


秋の風が、縁側の風鈴をチリンと鳴らす。


血の匂いのしない、豊かで洗練された平和な風であった。


世界中が血みどろの領土争い(レコンキスタ)に明け暮れる中、極東の島国だけが、歴史の限界を軽々と飛び越え、誰も見たことのない「経済による平和パクス・ムロマチ」を確立した。


武士たちは刀を算盤に持ち替え、農民たちは特産品作りに精を出し、大名たちは世界の大洋を駆けて巨万の富を生み出している。


一四八五年。


極東のちっぽけな島国は、間違いなく、この大航海時代の「真の勝者」として世界の頂点に君臨していた。

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