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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第4章:南蛮逆上陸 〜大西洋横断と「ルネサンス」の買収〜

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第72話:イサベル女王の決断 〜無敵艦隊の胎動〜

「……何たる屈辱。何たる冒涜か……!!」


イベリア半島、スペイン王国の宮廷。


豪奢な玉座の間には、カスティーリャ女王イサベル1世の怒りに満ちた声が響き渡っていた。


敬虔なカトリック教徒であり、国土回復運動レコンキスタを推し進める彼女にとって、現在の世界情勢は受け入れ難い悪夢そのものであった。


玉座の前にひざまずく廷臣たちは、女王の激しい怒気に震え上がり、顔を上げることすらできない。


「黄金の国ジパング……。マルコ・ポーロが記した、東の果ての未開の島国ではなかったのか!? なぜ、あの異教徒の猿どもが、我ら神の国の経済を首根っこから押さえつけているのだ!」


イサベルは強く玉座の肘掛けを叩いた。


廷臣の一人が、震える声で報告を続ける。


「陛下……奴らの品はあまりにも上質で、我が国の貴族たちもこぞって買い求めております。結果として、我が国の富が一方的に吸い上げられております。さらに……」


「さらに何だ、申せ!」


「教皇シクストゥス4世聖下までもが、奴らの持ち込んだ莫大な富と、謎に包まれた異教の『ミカド』なる権威に籠絡され……奴らとの平和的交易を推奨する大勅書を発布なされました……」


イサベルの美しくも厳しい顔が、憎悪に歪んだ。


『教皇聖下までもが、異教徒の黄金に目が眩んだというのか……! 否、これは神が我らスペインに与えられた試練。我らこそが真の信仰の守護者として、この歪んだ世界を正さねばならない!』


イサベルは立ち上がり、宮廷に集う将軍たちを見下ろした。


「教皇が堕落しようとも、我らは屈さぬ! 奴らは法外な富を持っているかもしれない。だが、所詮は野蛮な異教徒の商人に過ぎぬ! 神の加護なき者に、我らスペインの誇り高き兵が後れを取るはずがない!」


イサベルの目には、狂信的とも言える強い光が宿っていた。


経済力で屈服させられているという事実から目を背け、武力による強奪という、最も短絡的だが最も熱狂を生む決断を下そうとしていた。


「これより、我が国の国庫の全てを注ぎ込み、かつてない規模の大艦隊を建造する!」


宮廷内に、どよめきが走った。


「目標は、我が物顔で海を渡る奴らの巨大商船団だ! 私たちの海における覇権は我らにある! 異教徒の船をことごとく海に沈め、その富を神の御名の下に奪い返すのだ!」


将軍たちは、その言葉に熱狂し、次々と剣を抜いて忠誠を誓った。


「おおおお! イサベル女王陛下万歳! 神の御心デウス・ボルトのままに!」


彼らは知らなかった。


極東の帝国が、すでにメディチ家や現地の商人を通じた完璧な情報網インテリジェンスを構築しており、この決定すらも即座に京都へ筒抜けになっているという事実を。


そして、この時スペインが全財産を賭けて建造を始めたこの大艦隊が、やがて日本の圧倒的な近代戦術の前に、絶望的な敗北を喫することになるという運命を。


熱狂に包まれる宮廷の中央で、イサベルは高く剣を掲げ、瞳に狂信的な炎を宿しながら叫んだ。


「見ているが良い、極東の僭称者ども……! 真の帝国とは何か、その身に刻み込んでやる!」


こうして、史実では「無敵艦隊アルマダ」と呼ばれることになるスペインの大軍勢が、その重い錨を上げようとしていた。


それは、大航海時代における東西の巨大な衝突が、避けられない運命として確定した瞬間であった。

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