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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第4章:南蛮逆上陸 〜大西洋横断と「ルネサンス」の買収〜

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第61話:海流という名の「見えざる道」と東西の連携

巨大な陸地の「くびれ」にあたる地(パナマ地峡)。


太平洋と、その東側に広がる未知の海(カリブ海)を隔てるこの重要拠点の開拓と防衛は、西国勢の中でも斯波と畠山の両家が専任として受け持っていた。


そして今、その陸のくびれを抜けた東側の湊で、室町商事の新たな巨大船団が、いよいよ錨を上げて出航しようとしていた。


旗艦の甲板で、提督たる細川勝元と山名宗全は、完成した真新しい船体を満足げに見渡した。


「斯波や畠山の連中を手伝いながらの陣地構築と造船じゃったが、現地の木材でよくぞこれほどのいくさ船を揃えられたものよ」


勝元が呟くと、宗全も豪快に笑って頷いた。


「全くだ。あやつらが陸のくびれの道を切り開き、強固に固めてくれたおかげで、我らは背後を微塵も気にすることなく、東の未知なる海へ突っ込めるというものじゃ」


「うむ。太平洋の兵站は、北で足利や上杉の連中が鉄壁に守り抜いておる。……見事な分業よな」


彼らが未知の海へ全力を注げるのは、他の大名たちがそれぞれの強みを活かし、後背地の補給線と重要拠点を完全に盤石にしているからである。


「この海の向こうに何が待ち受けておるかは分からん。だが、まだ見ぬ土地の民と商いをし、新たな富の道筋をつけるのは、我ら先遣隊の役目じゃ」


勝元は不敵に笑い、帆に風を孕ませるよう命じた。


東国勢が西国勢に華やかな探検の舞台を「譲った」わけではない。

彼らは彼らで、西国勢が羨むほどの『莫大な独自の実利』を、北の巨大な大陸で謳歌していたのである。


***


同時期。カリブ海から遥か北西に離れた、極寒の巨大な大陸の西の沿岸。


深い針葉樹の森に囲まれた巨大な入り江に、関東公方・足利成氏の陣幕が張られていた。


「いやあ、笑いが止まらんとはこのことよな!」


成氏は、極上の海獺ラッコの毛皮で作られた豪奢な防寒着に身を包み、大鍋で煮込まれる鮭のあら汁の匂いを嗅ぎながら上機嫌で杯を干した。


「この陸地の北半分は、寒いが海流のおかげで湊が凍らん。おまけに無尽蔵の森があるゆえ、薪にも家を建てるにも全く困らんわ」


傍らに座る上杉の武将も、大きく頷く。


彼らの目の前では、現地の先住民の部族たちが、日本から持ち込まれた「鉄の斧とナイフ」を使い、凄まじい速度で巨木を切り倒し、獲物を解体していた。


先住民にとって、黄金は柔らかく使い道のない石に過ぎないが、日本の鉄器は暮らしを劇的に変える魔法の道具である。


「薫子殿の言う通り、奴らから土地を力で奪うなど、野蛮で面倒なことはせん。この『鉄の道具』を貸し与え、その地代(リース料)として、砂金が採れる川の『採掘権』を丸ごと使わせてもらえば良いのじゃ」


成氏はニヤリと笑った。


すでに日本から呼び寄せた専門の金掘り衆を投入し、彼らの前哨基地は空前のゴールドラッシュに沸いていた。


加えて、蝦夷地での寒冷地ノウハウを活かし、大量の鮭を「塩蔵(荒巻鮭)」にして食料を完璧に自給しつつ、極寒の地で取れる最高級の毛皮を明国の富裕層に売り捌いている。


「未知の海の向こうに何があるかは分からんが、新しい民との交渉は勝元ら西国の連中の役目じゃ。……俺たちはこの山と海から、無限に黄金と毛皮を掘り出し、巨大な水車や油搾り場を回す。せいぜい気張ってこいというわけじゃ」


成氏の豪快な笑い声が、豊かな北の森に響き渡った。


***


船団がカリブ海から未知の海へ漕ぎ出し、数日が過ぎた頃。


潮の香りが変わった。


瀬戸内海を縄張りとしてきた村上水軍出身の航海長、景高かげたかは、鼻腔をくすぐる風の匂いに鋭く反応した。


羅針盤と海図を交互に睨みつけ、船体の揺れを足の裏で感じ取る。


「……おい、妙じゃのう」


景高は傍らで舵を握る若い操舵手に声をかけた。


「帆の張り具合と風の強さからすれば、今の船足は異常じゃ。まるで……海に『見えない川』があるようじゃ」


透き通るような群青色の海面が、通常の帆走ではあり得ない速度で後方へと滑り飛んでいく。


その瞬間、景高の脳裏に、出航前に京都で行われた軍議の光景がフラッシュバックした。


***


『よいか、海の男たちよ。世の学者たちは星々が動いておると申すが、私は一つの仮説を立てておじゃる』


幕府の実務トップである薫子は、自ら職人に作らせた木製の「地球儀」をくるくると回しながら、居並ぶ武将や航海士たちに語りかけた。


『天が回っているのではなく、我らの足元……この地球ほしこそが丸く、常に独楽コマのように回転しているのではないかと』


薫子は地球儀の南側を扇子で指し示した。


『湯を沸かしたのと同じで、南の最も熱い海で温められた海水は膨らみ、行き場を失った膨大な海水は、冷たい北の海へと向かって押し出されるのでおじゃる。だが、この地球は独楽のように東へ回っておる』


薫子は扇子を動かしながら、理路整然と語る。


『水はまっすぐ進もうとするが、大地のほうが回転しているため、地面に立っている人間から見れば、水は【右へ】と曲がっていくように見えるのでおじゃる』


薫子は地球儀の上で、南から北へ向かう線を、右側へ大きくカーブさせた。


『ゆえに、南の熱い水が北へ向かい、大地の回転によって右へ曲がるため、この地球儀の北半分の海には必ず「右回り」の巨大な渦ができるはずでおじゃる』


薫子の扇子が、弧を描きながら海のど真ん中を横断した。


『この理屈が正しければ、この地球の海には必ず、西側から東に向かって勢いよく流れる「巨大な見えざる大河」が存在する。お主らの真の使命は、この海流を見つけ出し、私の推論が正しいことを証明することなのでおじゃるよ!』


***


「……あの姫君の推論は、完璧な『ことわり』じゃったか……!」


我に返った景高は、震える声で呟き、すぐさま旗艦の甲板を駆け出した。


「提督!ご覧くだされ!」


景高は勝元のもとへ駆け寄り、海図を広げて震える指で海流の軌跡を示した。


「この海域には、西から東へと流れる巨大な海水の帯がござります!薫子殿が予測した通り、温かい水が北へ向かい、大地の回転によって右へ曲げられ、東へ向かう巨大な川となっておるのです!」


勝元は海図を見つめ、鋭い眼光を光らせた。


「つまり、薫子殿が推論した『地球が丸く回転している』という説は、この海の道によって完全に実証されたということか……!」


「その通りにござります!星の角度による位置計算と、この海流の理を合わせれば……この海の向こうに別の陸地があるとして、そこに到着する日数すら、寸分違わず割り出せまする!」


未知の海に対する恐怖は、未来を予知する魔法ではなく、論理的な推論の実証によって完全に克服されたのだ。


「よき報せじゃ!全艦に伝達せよ!」


勝元は海図から顔を上げ、果てしなく広がる水平線の彼方を見据えた。


「もはやこの海は未知なる魔境ではない!計算し尽くされた我が室町商事の庭よ!このまま見えざる道を進み、海の向こうで待つ新たな富を根こそぎ手に入れるのじゃ!」


勝元の号令が、潮風に乗って巨大な船団全体へと響き渡った。


東西諸将の強固な分業体制に支えられ、科学の理を味方につけた日本の巨大コンツェルンが、誇り高く未知の海での横断を開始したのである。

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