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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第3章:1467年、「応仁の和議」と「戦なき世」

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第59話:大西洋(カリブ海)への拠点建設

鬱蒼とした緑の魔境を切り裂くように、白く輝く石畳の街道が伸びている。


太平洋側から始まった、二つの大洋を繋ぐ巨大な土木工事。


数年の歳月と幕府の莫大な資本、そして鉄器を与えられた先住民たちの労働力が奇跡的な融合を果たし、その街道はついに「くびれ」の反対側へと到達した。


ジャングルの木々が途切れ、視界が急激に開ける。


吹き抜ける風の匂いが、太平洋側のそれとは明らかに変わった。


「見えた……見えたぞおおおっ!!」


先頭を進んでいた西国出身の足軽が、喉を張り裂けんばかりにして絶叫した。


彼らの目の前に広がっていたのは、抜けるような青空を反射し、宝石のように煌めくエメラルドグリーンの浅瀬。


そして、その奥にどこまでも続く、紺碧の大海原であった。


大西洋、カリブ海である。


「まことじゃ……! どこまで続くか分からず諦めかけておった陸地の壁が、ここは嘘のように細くくびれておるわい!」


細川勝元は、石畳の端から砂浜へと飛び降り、波打ち際まで走った。


彼に続いて山名宗全も小走りで駆け寄り、荒い息を吐きながら目の前の絶景を見渡す。


「ほんのわずかな陸地を挟んで、全く別の海が広がっておるとはな。薫子殿の推論通り、大地の造りは我らの想像を超えたことわりに満ちておるわ」


宗全の言葉に、勝元も深く頷く。


長きにわたる航海、一度日本へ帰還してからの再編成、そして過酷なジャングルの開拓。


数年がかりで彼らが背負ってきた莫大な借金と重圧は、この新たなる海の発見によって、全てが報われたのだ。


だが、彼らはここに景色を楽しみに来たわけではない。


「さあ、喜ぶのはここまでじゃ! 御台所様と薫子殿からの提案を形にするぞ!」


勝元が振り返り、後続の役人や水夫たちに向かって大音声で号令をかけた。


「これより、この新たなる海の入り口に、我が室町幕府の巨大な港と造船所を築き上げる! 我らは『この海』の木材を使い、一から新たな船団を造り出すのじゃ!」


その宣言と共に、カリブ海側のビーチは凄まじい活気に包まれた。


日本から連れてこられた凄腕の船大工たちが、現地の豊かな木材を吟味し始める。


「おおっ! こん辺りの木は、目がいと詰まっとって固か! 潮風にも強そうばい。船の竜骨キールにぴったりじゃ!」


「よし、先住民の者たちにも手伝わせろ! ノコギリの使い方を教えるんじゃ!」


日本の大工たちが身振り手振りで指示を出し、鉄の斧や巨大なノコギリを手にした先住民たちが、巨木を次々と切り倒していく。


ここでも、日本の「現地の民との共存」を重視した方針は完璧に機能していた。


夕刻になれば、拠点に巨大な鍋が据え置かれる。


中身は、日本から運んだわずかな塩を足し、近海で獲れた魚と、先住民から教わった現地の作物……「マイズ(トウモロコシ)」や「パパ(ジャガイモ)」をたっぷりと煮込んだ汁である。


開拓作業で体力を消耗していた日本の水夫たちにとって、現地の豊かな食材は文字通り命綱であった。


「それにしても、この黄色いトウモロコシと、土から掘り出す芋……恐ろしいほど育つのが早いそうじゃな」


「ああ。現地の連中に教わったが、痩せた土地でも少しの世話で山のように採れるらしい。味も腹持ちも抜群じゃ」


水夫たちは、熱い汁をすすりながら、未知の作物の恩恵に目を丸くしていた。


共に働き、現地の恵みを分け合う。


そこには、血みどろの略奪の気配は微塵もなかった。


互いの技術と資源を交換し合う、巨大な商いのような一体感が、驚異的な速度で港を形成していく。


強固な石垣で組まれた防波堤が海にせり出し、巨大なドック(造船所)が組み上がっていく。


そして数ヶ月の時が流れた。


抜けるような青空の下、カリブ海の拠点には、現地の木材で建造された真新しい和洋折衷の巨大ガレオン船が浮かんでいた。


真新しい帆布が海風をはらみ、パンパンに膨らんでいる。


山名宗全は、完成したばかりの旗艦の甲板に立ち、船首の向こう側に広がる東の水平線を睨みつけていた。


「見事な船じゃ。現地の木材は重いが、その分、大砲の反動にも十分に耐えうる頑丈さを持っておる」


隣に立つ細川勝元が、真新しい甲板を踏み鳴らしながら満足げに笑う。


「なあ、勝元よ」


宗全は、水平線から目を離さずに低い声で口を開いた。


「出発の折、薫子殿が見せたあの『世界図』を覚えとるか?」


「ああ。忘れるはずもなかろう」


「あの図によれば、我らが住む地球は丸い。ならば……この新しい海をさらに東へ真っ直ぐ進めば、いずれはイスラムの商人たちが描いた『西の果て』の海へぶつかるはずじゃ」


宗全の目には、老いを知らぬ猛禽類のような、獰猛で底知れぬ野心が宿っていた。


「ふははっ! ということはじゃ。ここを真っ直ぐ進み続ければ、やがて南蛮の連中がうごめく地へ、直接乗り込めるやもしれんな!」


勝元もまた、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、腰の太刀の柄をポンと叩いた。


「まさに、歴史をひっくり返す大盤振る舞いよ。奴らが思いもしない未知の海の果てから、南蛮どもの背後を完全に突いてやるわ。我らが幕府の『日章二引両旗』を、新たなる海に立ててやろうぞ!」


武将たちの瞳は、まだ見ぬ未知の海を丸ごと飲み込んでやろうという、底知れぬ壮大な野心でギラギラと輝いていた。


誰もいない大西洋の風が、日本の巨大なガレオン船の帆を誇らしげに揺らしていた。

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カリブの海賊ならぬ、カリブの倭寇・・・
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