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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第3章:1467年、「応仁の和議」と「戦なき世」

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第56話:真の宝〜「食糧革命」の種子〜

2026.6.14

トウモロコシの調理方法について加筆修正しました。

一四七三年。


未知の大洋を越え、過酷な航海と新大陸での交易を成功させた西国勢の第一陣が、無事に日本の土を踏んだ。


彼らが持ち帰った莫大な富は、直ちに京都の室町第へと運び込まれた。


抜けるような青空に、室町第の美しい瓦屋根が映えている。

京都の街並みは、世界中から集まった物資と職人たちの活気に満ち溢れていた。


その中枢、大広間の上座には、豪華絢爛な打掛を羽織った日野富子が座している。

そしてそのすぐ傍らには、幕府の実務トップとして堂々たる威厳を放つ薫子が控えていた。


二人の視線の先には、日に焼け、逞しさを増した細川勝元が誇らしげな顔で平伏している。

彼と大広間の間には、目が眩むような光景が広がっていた。


「富子様。これが、はるか東の果て、未知なる大陸よりもたらされた品々にござりまする」


勝元の合図と共に、部下たちが次々と桐箱の蓋を開けていく。


中から現れたのは、見渡す限りの純金の延べ棒、極彩色の宝石が埋め込まれた首飾り、そして精緻な細工が施された黄金の器の数々だった。

太陽の光を反射し、大広間全体が黄金色に染まり上がる。


「おお……」


同席していた幕府の役人たちから、感嘆のどよめきが漏れた。

国内の領地争いとは次元が違う、文字通り「国を買える」ほどの圧倒的な富の質量。


富子は扇子で口元を隠しながら、満足げに目を細めた。


「ようやってくれはりましたな、勝元。これだけの黄金があれば、幕府の金庫はさらに盤石。日ノ本の力は揺るぎないものになりまっしゃろ」


「ははっ! ありがたき幸せに存じまする!」


勝元は感無量の表情で頭を下げる。

太平洋の荒波を越え、過酷な航海を生き抜いた苦労が、今この瞬間にすべて報われたのだ。


だが。


実務トップである薫子の視線は、眩い黄金の山には一切向けられていなかった。


彼女の目は、黄金の箱の横に無造作に置かれた、土まみれの汚らしい幾つかの「麻袋」に釘付けになっていたのだ。


薫子は静かに、しかし確かな足取りで立ち上がると、黄金の山を通り過ぎ、その麻袋の口をそっと開いた。


中には、泥のついた奇妙な形の茶色い芋や、黄色い粒がぎっしり詰まった棒状の穀物、そして真っ赤な実から採れた小さな種が詰め込まれていた。


「ああ……ああ……!」


薫子の喉から、歓喜の震え声が漏れた。

彼女は両手でその泥だらけの芋を掬い上げると、まるでこの世で最も尊い宝物を見つけたかのように、うやうやしく高く掲げたのだ。


その光景に、勝元は目を丸くした。


「か、薫子殿? いかがなさいましたか? そのような野蛮な土地の奇妙な芋や草の種など、一応念のために持ち帰っただけの代物でおじゃるが……」


薫子は弾かれたように顔を上げ、かつてないほどの鋭い眼光で勝元を見据えた。


「勝元様! これこそが……これこそが、我が求めていた真の宝でおじゃりまする!」


「は……? 真の宝?」


勝元だけでなく、周囲の役人たちも呆気に取られた。

目の前に山ほどの黄金があるというのに、天下の金庫番が泥のついた芋ころを宝だと叫んでいるのだ。


薫子は、ジャガイモとトウモロコシを両手に持ち、大広間に響き渡る声で熱弁を振るい始めた。


「皆様方、お分かりになりませぬか! 金銀は確かに素晴らしい。なれど、いくら黄金を積んでも、飢えた腹を満たすことはできませぬ!」


薫子は一歩前へ踏み出し、武将たちの目を見据えた。


「日ノ本の農地は、常に豊かな水と天候に左右されております。冷害が来れば稲は育たず、民はたちまち飢え死にする。それがこの国の悲しき宿命でおじゃりました。なれど、勝元様たちが命を懸けて持ち帰られた航海日誌には、信じられぬ事実が書き残されておりまする!」


薫子は手に持った作物を力強く掲げた。


「日誌によれば、彼の地の民が『パパ』と呼ぶこの土まみれの芋は、水もろくにない乾いた荒れ地や、凍てつく風の吹く貧しい山肌であっても、土の中で丸々と太り、一株からおびただしい数を収穫できたとのこと! また、『マイズ』と呼ばれるこの黄色き粒は、日照りが続き、米や麦なら根こそぎ枯れ果てるような渇いた大地にあっても、力強く天に向かって茎を伸ばし、一粒の種から千万の実りを実らせたと、水夫たちが確かに目撃しておりまする!」


さらに薫子は、片手に持っていた分厚い航海日誌の一節を指し示した。


「しかも勝元様。この日誌に記された一文、まことに天晴れにおじゃりまする! 『現地の民は、この黄色き粒をそのまま食わず、草木の灰を溶かした水(アルカリ水)に漬け込んでから煮ておった』と!」


勝元は思い出すように深く頷いた。


「おお、それでおじゃるか。現地の者曰く、そうせねば体を壊すとのことでしたゆえ、念のため細かに書き留めさせたのじゃ。こんにゃくやわらびの『灰汁あく抜き』と似たようなものかと思いましてな」


「左様でおじゃる! これこそが、作物の持つ毒を消す『正しい食らい方』の知恵でおじゃる! ただ種を持ち帰るだけでなく、いかにして安全に食うかという知恵をも持ち帰られたこと、これぞ百万の黄金にも勝る大功績でおじゃりまする!」


『カロリーと炭水化物、そしてニクスタマル化(アルカリ処理)の知識! 史実のヨーロッパ人はトウモロコシだけを持ち帰ってペラグラ病で死にまくったのよ! 最初から完璧なマニュアル付きで食糧革命を起こせるなんて、最強すぎる!』


内心で現代の知識と歴史の真理を叫びながら、薫子は武将たちに説く。


「民が飢えねば、おびただしい数の子供が育ちましょう。それこそが、新しい田畑を開墾し、新たな産業を起こし、強大な兵となる『無尽蔵の力』となるのでおじゃる! この国を、いずこの大国にも負けぬ最強の富国へと導く……これこそが、命の力、真の宝なのでおじゃる!」


大広間は、静寂に包まれた。

薫子の言葉には、目先の富に目が眩んでいた男たちの目を覚まさせる、恐るべき国家百年の計が秘められていた。


その時、上座で静かに聞いていた富子が、パチンと扇子を閉じた。


富子の目は、黄金を見た時よりも遥かに鋭く、冷徹な計算高さを帯びて光り輝いていた。


「なるほどな……。薫子の言う通りや」


富子はゆっくりと立ち上がり、薫子の手にあるジャガイモを見つめた。


「民が増えれば、それだけ税が取れる。働き手が増えれば、幕府の商いは何十倍にも膨れ上がる。金山を掘り当てるよりも、遥かに割のええ『最強の投資』でおすな」


天才的なファンドマネージャーである富子は、この作物がもたらす「労働力の爆発的増加」という経済的価値を、一瞬にして完璧に理解したのだ。


「皆の者、よう聞きなはれ!」


富子の威厳ある声が、大広間に響き渡る。


「今すぐ幕府直轄の農園を開き、この新しい作物の育て方を調べ上げなはれ! そして、日ノ本中のすべての領主に対し、山肌や荒れ地を開墾し、これを植えるよう通達を出すのどす! これは、幕府の最重要国家事業でおすえ!」


「ははぁっ!!」


居並ぶ大名や役人たちが、一斉に平伏する。


薫子は胸の前でジャガイモを抱きしめ、誰にも見えないように歓喜の笑みを噛み殺した。


史実の江戸時代を待つことなく、室町時代の日本に完璧な知識を伴った「食糧革命」がもたらされた瞬間だった。


飢えという最大の足枷を外された日本は、ここから恐るべき速度で人口を増大させ、世界を呑み込む超大国への道をひた走ることになるのである。

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― 新着の感想 ―
とうもろこしは窒素と水を大量に吸い上げるのでその後にサツマイモを作ると大変に甘くなります。(栗より甘い十三里)
とうもころしを広めるなら、ニシュタマリゼーションも周知しないと大変な事になりはしないだろうか? とうもころしはアルカリ水に漬けておかないと栄養素の吸収ができないらしい。
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