兄貴タクミ登場
それ以来、ろくに口を利かないまま夏休みが終わり、秋も中頃になった。
半年以内に使い切られるという掟は破っちまったが、そんなことはもうどうでもいい。
そう思っていた矢先、このアホみたいな意地の張り合いが終わったのは、ヒロトが小学校最後のサッカー大会に行った日だった。
埃をかぶっていたオレは、むせそうになるのをこらえていた。
すると、いきなりドアが開いた。
母ちゃんはヒロトの応援に行ったはずだし、親父は仕事だ。部屋に入ってきた奴の見た目で、それが誰かは一発で分かった。
長く伸び切ったボサボサの髪を後ろにゴムで束ねている。いつ最後に沿ったのか分からないヒゲ。
コイツが、ヒロトの兄貴、タクミだ。
タクミは勉強机に座ると、オレを手に取った。コイツの体からは酸っぱい匂いがする。
机に散らかったままの原稿用紙の束から一枚抜き取ると、サラサラと短い文章を書いて、オレをペン立てに戻した。そして、オレをまっすぐ見据えてこう言った。
「多分、立ち直れる。それはお前らの会話のおかげ。だからもっかい、仲直りしろよ」
何がなんだか分からずにいると、タクミは自分の部屋に面した壁に備え付けられたヒロトの本棚の、ちょうど部屋主の胸の高さくらいの本をガバっと取り出した。
そこには、穴が空いていた。タクミはほとんどの会話を聞いてやがったんだ。オレとヒロトの無駄話も、あの日の母ちゃんの電話も。
「そういうことだから」
タクミは部屋を出た。一階に降りていく足音がする。オレが何も言えずにいると、シャワーの音がして、やがて家から出ていった。




