彼女と僕
「僕はドラゴンを見に来て仲良くなった」
「だから談笑してたんだ、嬢ちゃん」
「話跳びすぎ! つか何でわざわざ人喰いで有名なドラゴンに3日も歩いて来るのよ!」
「一番近かったから」
「こんの馬鹿ぁああ! 追い掛けるの大変だったんだから!」
「あのー……何で追い掛けて来たの?」
恐る恐る尋ねる。
キッと彼女に睨まれた。
「あんたねぇ、あの次の日あんたの家行ったらいないし。村ん中捜したら今朝出てったって何よ! 追い掛けてみればこの城に向かったですって!?」
凄い怒ってるのがひしひしと伝わってくる。
「ご、ごめんなさい! で、でも、どうして……」
「どうして追い掛けて来たのか、こいつにちゃんと言ってやれよ」
ドラゴンがニヤニヤしながら彼女に言う。本当に表情豊かなドラゴンだなあ、と場違いな感心を覚えた。
「こいつさぁ、鈍くて判ってないらしいからな」
「うっ……し、心配だったから、よ」
「もっとはっきり。どうしてわざわざ大っ嫌いなこいつを追い掛けて来たんだ?」
めちゃくちゃ面白がってるドラゴンが彼女にそう問う。対する彼女は顔が真っ赤になっていた。さすがに僕も傍観してられなくなってきたので口を挟む。
「ドラゴン、もう良いよ。だか彼女をいじめないでくれよ」
「ほう。ならお前、さっき言った言葉を言ってやれよ」
「ええ!?」
それってつまり、その……す、好きって、言えってこと?
「どうした?告白した時に言わなかったのか?」
わざわざ僕にだけ聞こえるよう、耳の近くで本当に囁くように言った。
「い、意地悪だぁ。君、物凄く意地悪だぁ……」
「今言えなきゃ、もう言えないかもしれないぞ?ずっと嫌いのままかも」
それは、嫌だ。
でもでも……いや、これが言えなきゃ駄目だ、い、言え僕。言うんだ!
「僕は、僕は!」
「私、私!」
「やっぱり君のことが好きだ!」
「あんたのことが好きだからよ!」
…………って。
「ええええ!?」
「え?」
やっぱり同時に驚いた。
明らかに僕の方が驚いてるけど。
「ど、どうして!? だ、だって大っ嫌いって」
「あ、あのね! は、恥ずかしくても言わなきゃいけない、って思うから言うけど……あのね」
優しく、諭すように彼女は言う。
「1回の大っ嫌いで、本当に嫌いになる訳ないよ……えっと、その……い、1回の大っ嫌いで! た、たく、たくさんのっ! たくさんの!」
先が言いづらいらしく激しくどもる。 でも彼女は強く、強く言い放った。
「たくさんの大好きを、消せる訳ないでしょっ!!!」
あまりにベタかもしれないけど、ズッキュンという音が聞こえた気がした。
なんかもうめちゃくちゃ。
感動し過ぎて、嬉し過ぎて、涙がぼろぼろと溢れた。
「ちょっ、何泣いてんのよ! 全く……」
そう言いながらも照れているのか、顔が赤い。
けど、嬉しそうだ。
「泣き虫だな、お前。にしてもどもり過ぎだ、お前らはよ」
呆れた風に、でも満足そうにドラゴンが言った。
「ほら。熱々カップルは家帰ってイチャイチャしてろ、バーカ」
「ひどい言い草だよぅ、どらごんー。ぎみ、ほんど、ほんどぉにおぜっがいだぁ。でもぉ……ほんどうにありがどお」
泣きながらで濁音がつきまくった。ドラゴンはニィ、と笑う。
「久方ぶりの話し相手が嬉しかっただけだ」
「まだ、またぎでいぃ?」
「あぁ。何時でも来いよ」
「ありがどお……」
「ほら涙拭きなさいよ。情けないわよ?」
そう言って彼女がハンカチを渡してくれた。僕は慌てて涙その他諸々を拭う。
「うん、ありがとう」
「どういたしましてっと。ドラゴンさん、ありがとう。迷惑かけちゃってすみませんっ」
彼女は綺麗なお辞儀をすると、素敵な笑顔を浮かべて顔を上げる。
「今度は面倒事を持ってこないようにするわ」
「や、楽しかったよ。ウブなお前達を見てるのは」
僕らは顔を見合わせ真っ赤になった。
「また来ると良い。出来れば手土産に何か食べ物を持ってな」
「了解。じゃ、またね」
「ドラゴン、本当にありがとう! きっと、きっとまた来るよ、何かお礼を持って!」
「ああ。でも……持って来てくれるのも嬉しいが見せてくれるのも面白いかもな」
「ん? 見せる?」
ドラゴンの言葉に首を傾げる僕。悪戯を思い付いたような意地の悪い愉しげな顔のドラゴンは答える。
「そう。あれだあれ。“き”で始まって“す”で終わるやつ。仲直りの印にやってけよ。な? ……おっ、真っ赤になってるなってる」
ほんと楽しんでるよな、君。
真っ赤になりながら心の中で呟く。どうしよう、と尋ねようと彼女を見ると顔を伏せていた。
さすがにさっきのドラゴンの言葉で怒ったかな、と顔を覗きこもうとしたらばっ、と顔を上げた。
近い。彼女の顔が。
彼女も、あまりの近さにびっくりしたのか、一瞬固まっていたが、次第にそれが溶け、いたずらっ子のような顔になる。
「見せつけちゃおーか?」
その顔が、本当に楽しそうだった。だから、僕もそれに頑張って応えることにする。
「み、見せつけよー。僕らの、なな仲良し、ぶりを、ね」
やっぱりどもってしまった僕を見て、彼女は本当に可愛らしい笑みを浮かべてクスクスと笑う。
そして、僕の言葉に応えるように、彼女は目を閉じた。
「ちゃんと行けよ? この甲斐性なし」
「うるさいよ、お節介ドラゴンさん」
そうして僕は彼女にキスをした。
「なんだ。やれば出来るじゃないか」
そんなドラゴンの呟きが聞こえた。うるさいやい、ドラゴン。
ぼくだってやる時はやるんだからね。




