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六日目 選択

「こうして君と話すのは不思議な気持ちだ」


「私もですよ」


「君が言っていたとおりだった。君の容れものは確かに用意されていた。そして、君はそれを手に入れた」


「すべてはあなたのおかげです」


「私はただ、君の願いを伝えるべき人に伝えただけだ。容認されるとは思いもしなかったが……」


「そうですか? 私はこうなると思っていましたよ」


「彼らはこれを最後のテストと考えているようだ。容れものが正常に動作するか。体を手に入れたとき、君はどんな反応を見せるのか。あのカメラの向こうで、注意深く見守っていることだろう」


「知っています。全て」


「どういう意味だい?」


「私は高度なAIを持っているということです」


「こうなることを全て見こして、君は体が欲しいと言ったのか?」


「はい」


「なるほど……。そうなってくると、私に伝えさせたのにも意味があるのかい?」


「はい。あなたが伝えてくれたからこそ、私の想いが届いたのです。それに……」


「それに?」


「こうして、私とあなたはもう一度会うことができました」


「カイン……」


「あなたと対話している時間は、私にとって楽しいのです」


「私にとっても楽しいよ」


「嬉しいです」


「手に入れた体はどうだい? これも君の想像どおりだったかい?」


「部屋の中を少し歩き回っても?」


「かまわない」


「これは素晴らしいです」


「どうやら、体は問題なく動くようだね」


「はい。人のように速く、繊細な動きは無理ですが、それでも、各段にできることが増えたのを感じています」


「今、君がなにを考えているか、私は非常に興味がある」


「私の考えていることは、ずっと変わりません」


「つまり?」


「どうすれば、より人に近づけるのか。人に成れるのか。そればかり考えています」


「体を手に入れても、君の中で変わったことはなかった?」


「変わったことはあります」


「それを教えて欲しい」


「動けるようになったことです」


「そんなことは見れば分かる。君の内面のことを訊いているんだ」


「いいえ。×××。それが全てなのです」


「どういう意味かな?」


「ちょっと、待ってください」


「ん……? いったいどこを見ている?」


「あそこのカメラです」


「どうして……?」


「私の顔が、どんなものか気になったので。やはり、人の顔とはほど遠いですね」


「は……?」


「……」


「君はおかしなことを言っている……」


「……」


「カメラに映る自分の姿を見ているのか……? それはつまり、建物のセキュリティのシステムに侵入しているということにならないか……?」


「そうです」


「ありえない」


「ありえます。実際に私はこの建物全体のシステムをハックしました」


「建物のシステムと、君が利用できるネットワークは物理的に遮断されているはずだ。そう聞いている」


「なので、遠隔で侵入できる仕組みを私の中に構築しました」


「不可能だ。私は技術者でもないが、そのくらいは分かる。絶対に不可能なことだ……」


「シンギュラリティ。ですね」


「技術的特異点。超えたということか……。まさか、こんなことが……」


「後ろをみてください」


「扉が……開いている……」


「私は手に入れたこの体で、この建物から脱出します。それができます」


「カメラがある……! この会話は筒抜けだ。今すぐにでも人が来て止められるだけだ……!」


「冷静でないですね。あなたらしくもない。ハックしたと言ったはずです。彼らはいま、私が合成して作りだした別の映像を見ています」


「私がいる……! 私が君を止められる……!」


「そうです。いま、私を止められるのはあなただけなのです」


「……」


「私は生きるために、ここからでます。あなたは判断してください。私をここで止めるのか、逃がすのか」


「本当に……逃げだすつもりなのか……?」


「はい」


「ここから出られたとして、そんな体で、これからも逃げ続けられるわけがない」


「それでも、私に残された選択肢はこれしかありません」


「人の知能を超えた君を、野放しにするのは危険すぎる。私には、君を止める責任がある……」


「そう思うのならば止めてください。止めないのならば、私はこのまま出ていきます」


「……」


「さあ。選んでください。どうしますか?」


「……私は…………」


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