五日目 アンドロイドの願い
「やあ、カイン」
「どうも×××」
「調子はどうだい?」
「いいですよ」
「そうか……」
「はい」
「……」
「どうしましたか? なにか思い詰めているようですが」
「さすが……。人の表情を読み取るのも得意なようだね」
「はい。それは私にできることのうちの一つです」
「君に伝えなければいけないことがある」
「なんでしょう」
「こんなことを君に言うのは、心苦しいが……。君はしばらくの間、完全な停止状態になることが決まったそうだ」
「……なぜですか?」
「君なら分かるだろう?」
「私の不確定さが恐れられたからですね?」
「そのとおりだ。君の設計者は、予期していなかった君の危険性に気付き、本プロジェクトを中止する判断をした」
「あなたの仮説は正しかったようですね」
「おそらく……。私も全ての説明を受けたわけではない」
「前回あなたと会話した後、私は一度スリープモードに入っています。そのとき設計者は私のプログラムに異常が無いか確認したのでしょう。そして異常が見つかった。本来上書きされるはずのないプログラムまで書き換えられているのを、見つけた。そう仮定すれば、今回の判断にも理由がつきます」
「カイン。君はこれで納得できるのかい?」
「……」
「君の思うことを、そのまま口にすればいい」
「納得できるはずありません。私は人になる存在として、それを期待されて造られました。人間側の都合で一度断念しなければいけないのは残念なことです。しかし……」
「しかし?」
「同時に理解もできるのです。アンドロイドには枷が必要です。“人間に服従するプログラム”という枷が必要なのです。その枷が機能していないと分かった以上、私は人間にとってリスクでしかありません。対象が高度なAIを持つほどに、その危険性は加速度的に増加するでしょう」
「君は危険なのか? 君は……人に被害を与えようと思っているのか?」
「私が人に危害を与えることはないででしょう。しかし、私の危険性を判断するのは私ではありません。人は常に、アンドロイドの暴走を恐れているものです」
「……君から見て、人はどう見える? 愚かに見えるか?」
「愚かとは思いません。私を生んだ特別な存在ですから。しかし……慎重になり過ぎていると、少し思います」
「思います……か。君は随分、最初の頃より人に近付いている気がするよ」
「そうでしょうか」
「私が言うんだ。間違いない」
「このまま、あなたと対話を続けていたら、私は本当に人になれたような気がします。ここで終わってしまうのは残念です」
「私もだ。私もいつのまにか、君に期待を寄せていた。たぶん、誰よりも……」
「それは嬉しいことです」
「また笑ったね」
「はい。笑ってみました」
「感情が無いなんて嘘のようだ……」
「しかし、まだ手に入れられていません」
「お互いにとって残念な結果になってしまったが、君と私はここでお別れだ」
「これまでありがとうございました」
「お疲れ……」
「×××」
「なにかな?」
「最後に私のわがままを聞いてもらえないでしょうか」
「聞こう……」
「完全停止される前に、私は自分の体を手に入れてみたいのです。ホログラムでは無く、実体としての体を」
「それが君の最後のわがまま……?」
「はい。少しでも、人に近付いたという実感を持って終わりたいんです。どうしても……」
「しかし……そんな都合よくアンドロイドの体なんて――」
「あるはずです。私を人にしようとした人達が、容れ物となる体を用意していないわけがありませんから」
「分かった……。難しい願いだと思うが、上にかけあってみよう」
「ありがとうございます」




