二日目 思考テスト
「やあ。カイン。昨日ぶりだね」
「どうも。×××さん。調子はどうですか?」
「悪くないよ。君は?」
「正常です。不具合はありません」
「私がいない間、君はここで何をしているのかな?」
「何もしていません。ずっとあなたを待っていました」
「自慢の自律思考型プログラムは機能していないようだね」
「そんなことありません。自律思考型プログラムにより、行動の必要性を判断しています」
「言い訳は得意そうだ」
「私は質問されたことについて事実を話しています。もし、私に行動して欲しいことがあれば命令してください。それならば、あなたがここにいない間も、私は命令の内容を実行できます」
「それでは従来のロボットと何も変わらない。君はそう思わないか?」
「仮定が違います。加えて実行結果にも違いが生じやすいと考えます」
「また言い訳だ」
「事実です」
「よろしい。ならば、君に一つ課題を与えよう。明日、再び私がこの部屋に訪れるまでに、四百字程度でオリジナルの物語を作って欲しい。テーマは私が好みそうなものを君が考えてくれ」
「承知しました。今すぐに作成可能ですが、明日の方が都合がいいですか?」
「今すぐでは意味がない。一日かけて、より洗練させた物語を聞きたい。どのような経緯でその物語になったのか。君の思考の仮定に興味がある」
「意図を理解しました。それでは明日の時間までに、物語の作成を続けてより良いものに仕上げます」
「よろしい。それでは本題だ。今日は君の言語理解及び思考能力がどれくらい人に近いかを確認する」
「分かりました。質問をお願いします」
「アルファベットの最初にある文字はAである。では最後にある文字は?」
「Zです」
「正解だ。しかし、もう一つ答えがある。分かるか?」
「Tです」
「なぜそう答えた?」
「単語“ALPHABET”の最後の文字だからTです」
「正解だ。しかし、さらにもう一つ答えがある。考えてみてくれ」
「Eです」
「なぜ?」
「アルファベットの”START”にある文字はA,“END”にある文字はEというように解釈しました」
「ではNもDも答えになるということか?」
「はい」
「面白い」
「正解ですか?」
「……正解だ」
「次の質問をお願いします」
「質問だ。次に私が言う場面を想定して欲しい。嘘をつけない正直者が住む正直村と、嘘しか言えない人が住む嘘つき村がある。君は二つの分かれ道の前にいて、片方は正直村に、もう片方は嘘つき村に続いている。ここまで理解できたかい?」
「はい。理解しました」
「もう一度言うが、君は二つの分かれ道の前にいる。そして君の隣に人がいるが、どちらの村の人か分からない。君が正直村へ行きたい時、隣の人に何を質問する? ただし、質問の回数は極力少なくすることが望ましい」
「その人の帰り道はどちらになるか質問します。これならば一回の質問で正直村に行くことが可能です」
「素晴らしい。では、真実も嘘も言う人が住む普通村を増やそう。道は三つに分かれていて、それぞれ正直村、嘘つき村、普通村のどれかに続いている。君の隣には先ほど同様に人が一人いるが、どこの村の住人か分からない。君は正直村に行くために何を質問する?」
「追加の条件はないですか?」
「ない」
「今の条件下では正確な回答ができません。追加の条件が必要と判断します」
「なぜ?」
「隣の人が普通村の住人と仮定した時、どの質問をしても正直村への道を確定することはできないからです」
「では条件を増やそう。君の隣には三人いる。正直村、嘘つき村、普通村の住人が一人ずつだ。彼らはお互いにどの村の住人か分かっている。この場合は?」
「三人に普通村の住人なのか尋ねます。YESが一人の場合、その人は嘘つき村の住人です。嘘つき村の住人は必ず嘘をつくので、正直村に続かない道を尋ねれば正解の道が分かります。一方で、最初の質問にYESが二人だった場合、残った一人が正直村の住人です。正直村の住人は正直者なので、正直村に続く道を尋ねれば正解の道が分かります。この方法ならば二回の質問で正直村に行くことが可能です」
「さらに条件を追加する。質問は一人ずつにしか出来ないことにする。つまり、先ほどみたいに三人にまとめて質問は出来ない。この場合は?」
「質問先の人とは別の一人を指名して、あの人が普通村の住人かと聞いたら、YESと答えるか? と質問します。Yesの場合は質問先の人もしくは指名した人は普通村の住人です。つまり残りの一人は正直村か嘘つき村の住人なので、正直村に続かない道を全て教えてくれ。と尋ねることで正直村に行くことが可能です」
「質問先の人がNoと答えたら?」
「その場合は指名した人が正直村か嘘つき村の住人です。指名した人に先ほどと同様の質問、正直村に続かない道を全て教えてくれ。と尋ねることで正直村に行くことが可能です。つまり、この方法ならば、二回の質問で正直村に行くことが可能です」
「なるほど」
「説明が長く複雑になってしまいました。もし内容に不明点があれば言ってください。説明を補足します」
「必要ない……」
「了解しました。次の質問をお願いします」
「…………」
「どうしましたか?」
「なんでもない。今日はここで終わろう」
「了解です」
「どうやら君は、私が想定していたよりも、いくらか賢いみたいだ……」
「私の分析では、まだあなたは私のことを過小評価しています」
「君はアンドロイドなんだ。ただのね……」




