21話 テツ
「オーン……」
「細いなぁ」
中から姿を現した細くて黒いゴーレムの本体。
少し力を入れれば折れてしまいそうな姿のそれは畑を守る案山子に近い姿で一応丸い頭にビー玉のような目玉が2つと横一直線の小さい口の様なものがある。
両手両脚があって人間らしいと姿と言えなくもない。
「こっち、来る。ネイル様気を付けて」
外身を脱ぎ捨てたゴーレムは糸の拘束から逃れてその細い脚でこちらに向かってきた。
攻撃の意思は見えないが、ゴブトの言う通りゴーレムがどんな行動をしても大丈夫な様に取り敢えず翼を広げて逃げられる準備をする。
「オーン……」
「血、飲んでくれるって事だよな?」
ゴーレムは血を貯めた手の盃をじっと見つめる。
俺はそんなゴーレムを信じて口元に盃を近づける。
するとゴーレムはゆっくりとそれに顔を埋めてじゅるじゅると音を立てながら血を飲み干した。
「ネイル様、ゴーレム仲間になりたがってる!」
「みたいだな。こいつも血を差し出してくれればそれで契約完了だけどこいつの血は――」
「オーン……」
ゴーレムは自分の身体に刺さった矢を抜きとるとそこから漏れる黒い液体を手に擦り付けて差し出す。
ハンタースパイダーとはまた違う独特な匂いを放つその血を俺はそっと一舐め。
蜜の様に粘っこくて、土の匂いが香る。はっきり言って滅茶苦茶に不味い。
不味いがこれでようやくゴーレムとの契約が完了した、でいいのかな?表情もないし、意思表現がないから実感薄いな。こいつともゴブトみたく話せたら楽なんだけど――
『ゴーレムとの暴力無効契約が無事に結ばれました。ゴーレムとの会話は現状不可能ですが、ただ今の戦闘によってゴーレムはレベルが上がり、全言語理解を取得しました。投げ掛けた言葉は理解されています。貴方に神のご加護が有らんことを』
「……お前、俺の言葉が分かるのか?」
「オーン……」
「右手上げて」
「オーン……」
「左手上げて」
「オーン……」
「おお……。賢い。いや、これもスキルのお陰なんだよな」
流れたアナウンスの言っていた通り、ゴーレムは俺の問い掛けや命令に対して返事をし、実行してくれた。
ヒィフゥミィの3匹に関してはゴブトがいないとどうにもいかない事が多々あるけど、こいつはそんなストレスも負担もかからなくて正直助かる。
巣に戻ったら早速製鉄してもらおうかな。
「ゴーレム! 俺とヒィフゥミィ、お前より先にネイル様と契約した! 言うこと聞くように!」
「オーン……」
ゴーレムはまず主人である俺に頭を下げた後、先輩と主張するゴブト、それにヒィフゥミィに向かって頭を下げた。
物分かりがいいのは有り難いが、腰が低くて何でもかんでも言われるがままでいびられる対象にならないかちよっと不安かも。
「――よし! ネイル様! ゴーレムにも名前付けて上げよ!」
「「ギギッ!」」
そんな不安を払拭するかの様にゴブトは近くに生えていた薬草を摘み採るとそれをゴーレムの傷口にあてがって治療、更には名前を付けようと提案する。
ヒィフゥミィは意味を分かっているのかどうのなのか不明だけどそれに続く様に元気よく声を上げた。
うーん名前ねぇ……。あんまり付けるのは得意じゃないんだけど……。
「製鉄担当だから……テツ、でいいかな?」
「オーン……」
テツはこくこくと頷いた。
表情は変わらないけど、多分okって事だよね?
「じゃあ今日からお前はテツだ。よろしくな!」
「オーン……」
「テツ、怪我あるから帰りはヒィが背負ってく。安心していい」
「ギギッ!?」
驚くヒィにゴブトはお得意の容赦なくテツを乗せて俺の顔を見る。
そうだよな。仮眠をとったってこんな時間に動くのは辛くて眠いよな。さっさと帰ってぐっすり寝るとしようか
「全員おつかれ。さっ、帰るぞ!」
「了解!」
「「ギギッ」」
「オーン……」
こうして新しい仲間が加わると、俺達は巣に帰るのだった。
◇
――それから2週間後。
俺達はテツに製鉄係とは別に門番を任せて生活を送っていた。
前々から寝ている時に襲われたり、モンスターから食料を泥棒される不安が心の隅にあったが、それも解消されて驚くくらい快眠な生活が送れている。
だが当の本人は睡眠を必要としない。
アナウンス曰くゴーレムは極端に動きが遅く、疲労が殆んど貯まらない。だから身体を休める行為である睡眠は不必要とされていき今いるゴーレム達は睡眠をとらなくなったらしい。
俺にとっては都合がいい事限り無しなんだけど、ずっと寝かせずに働き詰めにするのはやっぱり気が引けてしまう。
「今日も門番ありがとうなテツ 」
「オーン……?」
テツは頭を傾げて見せる。
自分は命令に従ってるだけなのに何でお礼されてるんだろう、って反応だろうな。
「ネイル様! ただいま! 鉄の剣やっぱり凄い! それに鎧も!早く全員分作ろう!」
ブンブンと鉄の剣を振り回しながら帰って来たゴブトとヒィフゥミィ。
テツが仲間に加わり、そのレベルを聞いたゴブト達は焦りを感じたのか毎日狩りに出掛ける様になっていた。
冒険者を何人か殺して食べているから、ゴブト達もそこそこレベルが上がっている。
正面から殴り合う事もこの間は出来ていたから焦らなくても大丈夫そうだけど、折角のやる気を削ぐのは気が引けるから好きな様にさせている。
留守番している間はテツに製鉄をさせて武器作りをしているけど、鉄鉱石の数がまだまだ足りない。
ゴブト達の気が済んだら今度は俺が鉄鉱石集めで外に出掛ける日々になるかもな。
「お帰り。剣も鎧も追々増やしてくからもうちょっと待っててくれ。それで今日の成果は?」
「ヒルスネーク、俺が8匹、ヒィフゥミィが3匹ずつ。レベル全員12。俺の進化まであと3!」
出掛けたのは朝で今は夕方前。
探す手間とか考えても全員で17匹のヒルスネーク討伐は凄すぎないか?
そのうちこの森のヒルスネーク絶滅するかも。
「そっかそっか、あと少し頑張ってくれ。あれ?そういえばヒィの姿がないな」
「ヒィ、合流した時デカいヒルスネークと戦ってた。ちよっと時間掛かりそうだったから先に俺達だけで帰って来た」
「それ大丈夫か? 相手次第じゃ最悪――」
「相手がしぶといだけでヒィはノーダメージ。助けようとも思ったけど、今倒してる数競ってるからやめた。ヒィも助け断っ――」
「ギギッ」
「ほらもう帰って来た。ネイル様、ヒィはもうこの森でかなり強い方だよ」
嫌な想像が現実になる事はなくヒィは足取り軽く戻ってきた。
杞憂過ぎたか。
「すまんすまん。お前らはもう強い。それに進化したらお前達だけで冒険者と戦ってもらうつもりだから覚悟しておいてくれ」
「了解!」
「「ギギッ!」」
俺の言葉に目を輝かせるゴブト達。
進化か。ゴブトはキングゴブリンになるとして、ヒィフゥミィはどんなモンスターになるんだろ。
……食以外に楽しみが出来ちゃったな。
「オーン……」
「どうしたテツ? もしかしてもう腹空いたのか? さっき食べたばっかりだろ?」
製鉄は鉄鉱石を食って腹の中で生み出し、表面に出来たものが現れるというスキル。
さっき鉄鉱石を食っていて、今までも飯はこれで十分だったのに……成長期の子供位食べ盛りになったのかな?
「オーン……」
テツは何故かヒィをじっと見つめると何事も無かったかのようにその場に座った。
一体なんの反応なのか……結局腹が減ったんじゃなかったのか?
まいいや、一旦中に入ってやっぱり飯にしよう。
「テツも中に入ろう」
「オーン……」
「やっぱりお前ちょっと腹減ってる?」
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