20話 実行
「えいっちに、おいっちに。えいっちに、おいっちに」
「「ギギッギギ、ギギッギギ。ギギッギギ、ギギッギギ」」
ある程度準備を済ませて仮眠をとった俺達はまだ夜が明ける前に巣を出発してゴーレムのいる場所へと移動を開始していた。
俺は取っ手の付いた桶を尻尾で持ち上げ、手には松明。
ゴブト達も弓を肩に提げながら桶を運ぶ。
この態勢で歩くのは結構キツイし、今モンスターに襲われたらたまったものじゃないな。
「あっ! あれネイル様の剣!」
松明の明かりで灯された地面にキラリと輝く剣。
それとその側には茶色い出っ張りが堂々と突き出ている。
初めに見つけた時は思わなかったが、これがゴーレムだと分かった後でこの光景を見ると全然隠れてないし、丸見えで滑稽に見えてしまう。
しかも俺達が近づいても全然反応しない。
こいつの危機管理能力狂ってるのかな?それとも自分の強さからくる満身? どっちにしろ準備を整えてきた俺達にとってみれば絶好のシチュエーションで間違いない。
「ふぃー。ネイル様、これゴーレムだよね? もう水かける?」
「いや、一旦桶をおいて疲れが抜けてからにしよう。それとちょっとした罠も仕掛けたい。ゴブト、ヒィフゥミィにこの木からあの木まで膝の高さ位まで糸を張らせてくれ。俺は全体を灯せるような所に松明を置いてくる」
「了解! ヒィフゥミィ!それ置いたらちょっと仕事」
役に立つかは分からないけど備えあれば憂い無し。
いくら攻略方法が分かったからと言っても1度負けた相手なんだから出来る限りの事はやっておかないと。
「――ネイル様こっち終わった!」
「「ギギッ」」
「俺の方も終わった。ちょっと明るさ足りないかもだけど大丈夫そうかな?」
「大丈夫!」
「「ギギッ!」」
「ふぅ……。それじゃあ軽く身体を伸ばして……。全員桶を持て!」
一呼吸して間を空けると、俺は全員に指示を送った。
ヒィ、フゥ、ミィは言葉が分からずとも俺とゴブトに合わせて桶を持つ。
はぁ、ちょっと緊張するな。
「全員……ぶっかけてやれえええ!!」
「おおおおおおおっ!」
「「ギギイイイイイッ!」」
一斉にひっくり返された桶から溢れた水は茶色い突起、ゴーレムの身体へとかけられる。
するとその茶色の部分の表面からドロリと泥が落ち初め、黒っぽい芯のようなものが姿を現す。
これにはゴーレムも黙っているわけがなく、地面を揺らしながら起き上がる。
だが俺達が水をかけたのは足の部分だったらしく、ゴーレムはまともに立つことすら出来ない。
それでも危機的状況を察したゴーレムは四つん這いになり大きな腕を使ってなんとか移動を始める。完全に逃げようとしてるなこいつ。
「ゴブト! ヒィフゥミィ! 残りの水があれば全部片腕にかけるんだ!」
俺の指示で逃げ惑うゴーレムの腕に水をかけるゴブト達。
流石に水量が足りないのか、足に比べて黒い部分がチラッとしか見えない。
それでもゴーレムには大きな違いがあったようで、四つん這いで動くことすらも難しい様子へと変わった。
「オーン……」
「水終わった! 俺達、分かれて弓で攻撃する!」
「頼んだ! 俺は背後から罠に誘導する! 罠にかかったらヒィフゥミィにありったけ糸を吐かせて拘束するぞ!」
「了解!」
俺達は一斉に散ると、各々で攻撃を始める。
俺は背後からファイアブレス、ゴブトとヒィフゥミィは弓。
ゴブトが弓を扱う姿は様になってるけど、ヒィフゥミィが弓を使っている姿はやっぱり違和感が凄い。
ゴブトが仮眠をとる前に必死に教えてたけどその時から現在まで全く慣れない。
なんといっても足の付け根が見える身体の反対側を覗かせる若干縦向きの姿勢が、ちよっと……。
仲間にこんなと事言うのは気が引けるけど、やっぱり蜘蛛とか虫系のモンスターの裏側ってグロテスクなんだよね。
「オーン……。オーン……」
「効いてる効いてる!」
「「ギギッ!」」
放たれた矢がゴーレムの黒い部分に突き刺さる度に低いうなり声が響く。
ゴーレムを覆う茶色い砂の固まったような部分や点々とする鉄には全く効果がないが黒い部分は比較的柔らかいようで簡単に矢が突き刺さってくれるのだ。
この勢いに乗っかってハードクローで一気に切り裂いてやりたいところだけど目的はゴーレムを仲間にすること。
俺のファイアブレスは殺さない程度に罠へ誘導する為だけのものでしかない。
近づいて煽る事も考えたけど、表情の見えないこのゴーレムは何をし出すか分からない。やっぱりこういう敵には遠距離攻撃が安定だ。
「――オーンッ!」
「よし! かかった!」
じりじりと罠のあるところへ誘導するとゴーレムの顎から両手にかけて糸が絡まった。
本当はゴーレムの脚を絡めとってやろうと考えて張ってもらった罠だけどこれはこれで都合がいい。
ゴーレムは糸の所為で腕を満足に振り上げることも広げることも出来ない。
それでいて移動は困難。
攻撃された事で極度に生存意識は高まっているはずで、こちらの強さもひけらかす事が出来たと思う。今の状態はカリスマの効果の範疇のはず。
ここまで来てしまえばもう近寄っても安心だ。
だけど念の為、糸でゴーレムは拘束しておこう。わ
「作戦成功! ゴブト!ヒィフゥミィ!攻撃を止めてゴーレムの近くに集まってくれ!」
「了解!」
「「ギギッ!」」
俺が指示を出すと全員素早くゴーレムの元まで駆け寄って来た。
「ゴブト、ヒィフゥミィに糸でゴーレムを拘束するように指示してくれ」
「了解!」
早速ゴブトはお得意のジェスチャーでヒィフゥミィに糸を吐かせると、距離を取りつつゴーレムの周りを周り始める。
ヒィフゥミィ達は口から出ている糸を途切れさせず、そのままその後を追ってゴーレムを糸でぐるぐる巻きにする。
ゴーレムこれには諦めざるをえなかったのか、綺麗に糸で巻かれきった頃には微動だにしなくなった。
「完勝。なんか呆気なさ過ぎて物足りなさすら感じるよ」
「俺達の作戦勝ち! これでこいつも仲間?」
「ゴブトの時と同じで契約しないと。でもこいつ意思が分かり辛いし、そもそも契約に血の盃を交わさないとなんだけど……血、出てないよね?」
ゴブトの質問に答えつつ、俺は契約するに際しての問題を整理させたが……。
うーん……これもしかして仲間に出来ないモンスターなんじゃないか?
「矢が刺さった所から黒いのがチョロッと見えた。多分それが血。俺もこいつの事全然分かんないけど、血を差し出せば反応するはず」
「まぁそれくらいしか試せる事もないか」
ゴブトの意見を飲み、俺は手を盃に見立てて自分の血を注いだ。
この自傷行為にも段々慣れてきたな。
「ほら、お前も仲間になれ」
「……オーン」
ゴーレムは俺の言葉に反応したのか、それとも差し出した血に反応したのか、もぞもぞと身体を動かし始めた。
この反応って事はゴーレムも血を差し出そうとしてる?
「……オーン」
「えっ?」
暫くしてゴーレムがもぞもぞという動きを止めた。
すると、ゴーレムの表面を覆う土がぼとぼとと落ち、その中の姿が見え始めた。
ここに来てまさか攻撃、って訳じゃないよな?
俺はそんな不安を頭の角に追いやって変わっていくゴーレムの様子をただただ見守るのだった。
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたらブックマーク・評価を何卒宜しくお願い致します。




