19話 作戦準備
「ただいまぁ」
「ギギギィ……」
無事にゴーレムのいたあの場所から巣まで戻ってきた俺達は、覇気のない声で留守番中のゴブト達に帰りの報告をする。
あの衝撃波と落下のダメージでヒィはもうボロボロ。
俺はリジェネの効果で身体は回復しているけど、初めての負けというのが精神に大きい傷跡を作っていた。
正直今は何かを食べる気にも作る気にもなれない。
今日と明日は寝て過ごそうかな……。
「「ギギッ!」」
「ネイル様おかえりなさい!あれ、なんだか疲れてるみたい……。それにヒィに怪我が……。待ってて今薬草持ってくる!」
俺とヒィの異変に気付いたゴブトは慌てて薬草を取りに行ってくれた。
頭がいいだけじゃなくて気も利くところもゴブトのいいところだ。
けどあの薬草交換薄いんだよなぁ。
「――はい、これ。食べるより傷口に暫く当てた方が効き目ある。ネイル様も使う?」
「いや、俺は大丈夫」
戻ってきたゴブトはヒィの身体に出来た傷口に薬草をあてがうと、そこを押さえる様に指示をした。
傷を癒すのにこの手間が掛かるのはなんとかならないかな。
人間の時はもっと効き目の高いポーションとか高価だけど魔法によっての治癒も出来たんだけど……。
やっぱりその魔法、というかスキルも食って補完するしか――
「ネイル様、外で一体何があったの?」
「ちょっとモンスターとやり合ってさ……。ゴーレムっていうのがいたんだけどあれは強い。ゴブトももしそれっぽいのに遭遇したら無闇に攻撃は仕掛けない方がい――」
「ゴーレム!あれ、まだいたんだ!ずうっと見かけないからてっきり他のはいないかと思ってた」
「ゴブト、もしかして前にゴーレムを見た事があるのか?」
「大分前だけど見た!あの時はボスもいなくて倒すのはまあまあ大変だった!」
ゴブトは無邪気な表情でとんでもない事を言ってのけた。
キングゴブリン無しであれを倒した、だと?
「その、こんな事言うのは失礼だろうけどゴブト達の強さ程度じゃあれは倒せなくないか?あ、その時はゴーレムが手負いだったのか?」
「ううん。凄い元気だった。攻撃は効かない、火も駄目、遅いけど攻撃は強かった。巣の近くに出たからみんな必死で、何匹か仲間死んだ」
「でも倒した……」
「そう!あいつ川に誘ったら身体どろどろになって攻撃も通る。それに動きもっと鈍くなる」
「……なるほど、弱点は水か。確かに表面の鉄以外は茶色いと思っていたけど、あれって殆んど土で出来てるって事だったんだな」
「弱点分かったらそんなに強くない」
ゴブトがいつにもまして頼もしく見える。
製鉄のスキルはどうしても利用したいし、前にゴブトが戦った方法で俺も川まで誘導するか?
いやあそこからここまでは距離がありすぎる。
ゴーレムの足が早ければ出来なくもないだろうけど、あれだと誘導だけで半日は掛かるし、その間にあの衝撃波を喰らいかねない。
ならここから水を運ぶか?でもそれが出来そうなのは冒険者から奪った水筒くらいなんだよなぁ。
「「ギギッ!!」」
「あっ!そういえばネイル様に頼まれたもの作ろうとしてフゥとミィと色々練習してたんだけど、これ見て見て!」
いつの間にかフゥとミィなよって用意されていたであろう大きめの木の桶。
ハンタースパイダーのスキルで吐き出された粘着しつな糸のお陰か隙間なく作られたそれはヤスリがけされていなくて毛羽立っている以外人の作ったものと遜色ないレベルだ。
「これは凄いな」
「剣で頑張って細い木切って作った。これで水運べる!」
「「ギギッ!」」
嬉しそうにフゥとミィも声を上げる。
最初はグロテスクな見た目だと思ったけど段々と可愛く見えてきたのが不思議だ。
「確かに。これで水が運べるならゴーレムとまともに戦えるかも。でも1つだと量が足りないかもしれないからもういくつか作ってもらう事は出きるか?」
「もちろんっ!」
「ギギッ!」
「でもネイル様。これに水入れると結構重い。運べる数限られてる」
今度はそこの問題か。荷車みたいなものがあればいいんだけど、そんなのもちろんないし……何度も往復してゴーレムの側に桶をおくか?うーん、キツいかもしれないけどそれしか――
「ギギッ!」
「んっ?」
唐突に鳴き声を上げたヒィ。
俺はそれに釣られてヒィの方を見た。
するとヒィは大きく息を吸い込み初めて段々と身体を大きくさせる。
あれ、ヒィってこんな事出来たっけ?
『鑑定lv3』
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種族:ハンタースパイダー【ユニーク】
名前:ヒィ
レベル:7
進化回数:0
状態:【暴力無効契約】、【イートリンク】、打ち身、出血【小】
スキル:パラライズシャワーlv1、スパイダーネット、身体拡張
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なるほど【身体拡張】の効果で身体を大きくする事が出来たのか。運ぶ係としては申し分ないスキルだけど、それ以外使い時が無さそう。
一先ず辛い往復作業は逃れられそうだけど、いつの間に新しいスキルを覚えてたんだ?
『ゴーレムのスキルによって全身に振動による衝撃が加えられた為ハンタースパイダーの身体が通常よりも柔軟になり、それが原因で【ユニーク】の判定に。ついては新しいスキルが発現されました』
『そんな発現方法もあるのか……。それで【ユニーク】っていうのは?』
『同じ種族において進化とは別で個性を獲得したモンスターの事を【ユニーク】と呼称しています。【ユニーク】は通常よりもステータスがやや高くなっており、種族によっては進化後の選択の幅が広がります。説明は以上となります。それでは神のご加護が有らんことを』
つまりユニークに出来る条件が分かるならそれを満たした方が特って事だな。
でもフゥとミィにダメージを受けろとか言い辛いし今回は無理にユニークにさせなくてもいいか。
出来れば俺も条件満たしてユニークっていう呼称欲しいなぁ。
「凄い!でもこれ乗せながら歩けるかな?ちょっと水汲んで試してくる!」
「「ギギッ!」」
きゃっきゃっと出ていったゴブト達。
その足取りを見る限りはヒィがあの状態で移動するのは問題無さそうだな。
大掛かりな戦いになりそうだが、そんな雰囲気はまるでない。
俺もゴブトの言葉で少し安心したところもあって、どっと疲れが溢れ出てきた。
作戦は明日の明け方前にして、仮眠しておこ。
あっ、でも攻撃力の高いゴーレムに近づいて戦うのはリスクが大きいだろうから弓の準備だけはしておかないと。発動は多分いつもの心中詠唱だろ。
『鍛冶lv1』
リュックの中から黒曜石を取り出して心中詠唱すると、黒曜石は恐ろしいほど綺麗な矢じりへと変わった。
鉄が手に入ったとしても矢みたいな消耗品は暫く黒曜石で十分そうだ。
「さぁて、しこたま作ってゴーレムリベンジ始めるぞ!」
「ネイル様!凄い!ヒィ、これ担いだまま走れる!」
「「ギギギッ!」」
「それは凄いし嬉しいけどヒィは怪我してるんだからもっと労ってやんないと……」
「ごめんなさい」
「「ギギ……」」
ふふっ……お前ら子供かよ。




