139-12 ライバルとヒナダム
そうこうする間に子供達のカードも消化が進んでいくわけだが、所詮は子供の御遊び。
スーパーロボットが、さして性能を発揮する事もなく、御餅が腐るが如くに皆あっさりと敗退していった。
そしてフロック勝ちした者も二回戦以降で運悪く、あるいは相性や実力差に泣き、次々と敗れていった。
もっとも負けたら負けたでおやつ会を即座に開催するのだが。
元々が只の雛祭りのイベントなのだから。
後は自分のヒナダムの組み立て工場で、あれこれと互いに品評しながら楽しむのだ。
別に子供がゲームに負けたくらい、どうっていう事もないのだし。
ごく一部、特に大人の間で、そうでなさそうな方を御見受けしたのだが。
特に、早々と退散して騎士団の演習場にて走り込み二十周の旅に出かけた、どこかの騎士団長様とか。
女の子は自分専用の御雛様を用意してもらい、各自のプラットフォームに飾ってある。
巨大怪人赤マントは禁止令を出してある。
今日ばかりは、油断すると女の子達にヒナダムGで踏みまくられるので洒落にならないから、さすがに彼らも自粛したようだった。
もっとも、一番大きな御雛様が自分専用のヒナダムGなのであるが、女の子達からはマリーの『タイプ・ビューティヒナ』以外のモデルは御雛様として認められていない。
皆おやつ袋を持って、あちこち移動しては記念撮影をしていく。
当然同型の機体もあるのだが、デカールの張り方などが各々異なるので、まったく別の機体に見える。
プラモも色塗り一つで別物だよな。
あれはこの不器用なおっさんには立ち入りできない、トーヤ達向けの領域だ。
会場には精霊カメラマンやゴーレム達がいて記念写真も撮ってくれるのだ。
今日の精霊カメラマンはメカっぽい感じの金属製ゴーレムだった。
そして、お次はフィアだった。
もう、あの凄まじく粗忽なのはメガネ装着により治ったはずだよな。
フィアにヒナダムで暴れられても困るのだが。
念には念を入れて、俺も特別にメカアルフォンスに搭乗した。
こいつはヒナダムではなく、俺専用の有人ゴーレムだ。
元々は対帝国戦用に作った物で、結局俺専用の機体は使わなかったから、趣味で原形を留めないほど改良してチューンナップした物なのだ。
当然の如く、こいつはレギュレーションなんていう糞な物には縛られていない。
並みのヒナダムGを遊園地のゴーカートだとすれば、こいつはF1マシン並みのパワーがあるのだから。
フィアの相手は、よりによってベル君を巡る最悪のライバルであるミレーナだった。
フィアの奴が我を忘れなければいいのだが。
当然、織原とベル君は待機だ。
「それでは、ファイっ」
俺はアルダム(名前は今適当につけた)の中から適当に声をかけた。
そして山本さん謹製の菱餅を食いながらの観戦だ。
さすがに園長先生としては行事の最中にビールなんか飲めない。
これは只の幼稚園と小学校合同で行われるイベントの御遊びなんだからな。
頼むよ、二人とも。
「それっ、ベル御兄ちゃんは私のものよパンチ」
「なんの、ベル御兄ちゃんを狙う不届きな泥棒猫めキック」
久々の対決なのだが、どちらの攻撃もショボイ。
どっちかというとミレーナの方が格闘系なのだから強そうなものだが、慣れない御遊びで日頃の力を思うように発揮出来ていないらしい。
フィアの方も似たりよったりだ。
もっとも、フィアは生まれ持った力をそのまま振り回しているだけなので、搭乗者の能力が反映されるヒナダムに乗ったら少々分が悪いはずなのだ。
という訳で、素手による喧嘩のように稚拙な戦いが繰り広げられていた。
そもそもヒナダムは基本的には戦うためのものではなく、バラして相手の行動を封じる遊びなのだが。
子供向けのイベなので、そういう感じで目に見える形での決着がいいのだ。
そうこうするうちに双方共に熱くなっていった。
「やれやれ、またですか。
お前ら、控えめにな」
俺はいつしか、うとうとしていたのだが、はっと気がついたらピンクや黄色の怪しげな、なんというか光の散りばめられた空間にいた。
全体的にオーラのようなボヤっとした光彩に包まれた中で、なんというか昔のクリスマスツリーの電球によるぼわっとした輝きや、LEDの光を柔らかくボカしたみたいな光のような、なんともいえないぼやけた光が空中に漂う球のように無数に点在しているというか。
そのような不思議空間に包まれていた。
園児達の歓声があちこちから聞こえてきて、この現象がかなり広範囲にわたって広がっているのが感じられた。
こんな真似をするのは、あいつしかいないはずなのだが。
当の本人を探してみたが、アルダムの高性能魔導聴音機は彼らの声を捉えた。
「やい、御兄ちゃんを離せ」
「そっちこそ、この泥棒猫」
もう互いにショボイ戦いしか出来ないヒナダムからは降りて、直接ベル君の両腕に張り付いて引っ張り合っている二人がいた。
相変わらずだな。
今年のバレンタインもこんな感じだったらしいし。
まあ、今回の空間もそう害はないようだし、子供達も喜んでいるようなのでいいのか。
こういうのは『焼き餅ぽわぽわ空間』とでもいうのだろうか。
これはフィアも少しは加減を覚えてきたとみていいものか。
以前のような、まったくコントロール出来ていないような危険な暴走は影を潜めたようだ。
織原は山本さんの御菓子に舌鼓を打ち、その様子を楽しそうに伺っていて、隣の西田ちゃんに話しかける。
「あいつら、なかなか御似合いだよな」
「うん、両手に花だね」
「あのう。
他人事だと思って、君達~」
残念ながらベル君の本命様は、こういう子供向けのイベには顔をお出しにならない。
まだ嫁入り前なので、家に御雛様くらいは飾っているらしいのだが。
まあ、もてないよりはいいさ。
頑張れよ、ベル君。
今日、ベル君命の妹ちゃんは来ていない。
あの馬鹿兄達がまた彼女を激しく怒らせるような真似をしたので、俺が与えた魔導木刀『雷電丸』でボコボコになるまで折檻しているらしい。
ゴーレム木刀・雷電丸にも、ポロに与えた祝福のグリモワールのようにフィードバック機能を搭載してある。
さすがに兄妹で殺したりしちゃあマズイから、ドクターストップ用に。
あの子も手慣れた感じで、もう完全にあれを手の内に入れているらしいから、 そこまではいっていないようだ。
「さあ、お前達。
そろそろ鍋をやるぞ。
今日の鍋はドワーフ雛祭り鍋だ。
もう鍋のシーズンも終いだからな、最後はとびきり美味い奴で〆るぞ」
子供達から、すかさず上がる歓声。
何故か、今晩の献立がドワーフの国王によって決められてしまった。
しかし、「雛祭り鍋」って一体なんだ。
雛祭りなんて最近始めたばかりの行事なのだが。
さては名前だけ今とってつけた、二次会用か何かのメニューなんだな。
まあいいか。
子供達もみんな、ドワーフ料理は大好きだからな。
俺もそうなんだけど。
鍋料理は栄養満点で子供達が野菜もよく摂れるし、それでもいいかな。
幼稚園舎の壁に張り付けられた拡張空間の中にある、さらなる異端の異空間にて、春の息吹を感じさせる最後の鍋料理が振る舞われようとしていた。
別作品ですが「ダンジョンクライシス日本」
3月20よりハヤカワ文庫JA様より発売です。
二作目の書籍を出せて嬉しいです。
https://ncode.syosetu.com/n8186eb/




