139-11 再び兄弟対決 そしてゴールドカード
そして次はアニキのムーサ対エディのエディオムの対戦だ。
例によって会場の真ん中に陣取るエディオム。
一方、ムーサは鍵爪を突き立てて壁をよじ登っている。
よじ登る、よじ登る、よじ登る。
対戦相手が動かないエディオムでなかったら、とっくに襲撃されて叩き落とされているのではないだろうか。
だが、じっくりと見守るのみのエディオム。
もうエディには、彼が何をやりたいのか理解出来ているのだから。
それはムーサのスタイルを見れば一目瞭然であったのだし。
それも有りだったかなという若干の後悔を、その幼い表情に乗せるエディ。
やがて、とうとう百メートルはありそうな渓谷の頂上に立ったムーサ。
スクリーンに映った搭乗者であるアニキの顔は、実に満足そうな様子だった。
「うむ、これはなかなかの景色だな。
トーヤ、エディ。
二人共よく見ておけ。
これがヒナダムG・キャニオンステージの醍醐味だあ~」
そして何一つ躊躇いなくパンと飛び降りたムーサ。
そう、その雄姿はまさにムササビ!
手足を広げ、華麗に翼膜を広げて滑空するムーサに子供達から歓声が上がった。
ムーサは狭い渓谷の間を自由に飛び回る。
そのために、この機体はわざわざ小さめに作られているのだから。
むろん、戦闘においてそれは圧倒的不利に働くのだが、それはこの際ここからこっちに置いといてという、完全に御楽しみ専用として作られたモデルなのである。
重力に引かれ、下方向にばかり行くのかと思われがちなのだが、ところがどっこい。
このステージには、サービスで設けられた上昇気流も随所に散りばめられているのだ。
その辺りの心配りが俺の芸の細かさだ。
アニキは見事なまでに、その風の呼吸を読んでいた。
そのスクリーンに映るアニキの、あまりにも楽しそうな様子に、地上で唾を飲み込みながら見上げる子供達。
「うーん。
ムーサ同士での空中戦という選択肢もあったのか」
少し悔しそうなトーヤ。
トーヤのジェット・エルシオがアニキと当たれば、もっと楽しめたかもしれないのもある。
だがまあ、そこは籤運なのでいたしかたがない。
ムーサを駆るアニキは、しばし遊泳を思う様に楽しんでから地上に降り立ったが、一旦勝負になれば、力があり多数の手を持つエディオム・タイプ千手観音の敵ではなかった。
ムーサの場合は手足の前に、まず翼膜をはずさねばならず面倒なのだが、そこは『手数』で勝負は決まった。
腕の数と力で勝るエディオムが順当に勝ったが、思いっきり遊んだのは兄貴の方だった。
これも所詮は御遊びなので、よく遊んだほうが勝ちなのだ。
これにはトーヤとエディも唸る事頻りだった。
この辺も、まだまだ若輩者の二人では歴戦の猛者であるアニキには敵わないところだ。
まあアニキとて、重要な仕事獲得のための殴り合いならば絶対に手は抜かないのだが。
「ふう、実に満足だった。
アルさん、あんたよくこんな楽しい遊びを考えるもんだな」
「まあ、色々やった方が面白いからね。
これも原型である雛人形サイズの室内型があってこその発展形さ」
そしてまた、オニダムのようなライバルがいてこそ切磋琢磨と言う形で生まれたものなのだ。
お次はエリーンのケンタウロス・黄金のセントールと親方のモデル・シャブラー(あれが結構御気に入りなものらしい)の対決というゴールドカードだ。
「親方、御手柔らかにね~」
「何を言うか。
あのケインズを、あっさりと下しよったくせに。
わしは全力で行くからな。
元より手を抜く謂れなどないが」
「おお、こわ」
だが口とは裏腹に、この上なく楽しそうなエリーン。
舌なめずりが止まらない。
あの世界中に遍く名を知られる強面の親方を、どうやって仕留めようかと楽しみでしょうがないらしい。
さすがに素であれの相手をするのは、このエリーンとて魔法抜きではキツイのだろうが、ヒナダムGに搭乗して弓の勝負とあらば、話はまた別なのだ。
安全なゲームのシステムの中で、自分の築き上げてきた技量を思う様に振るえるのだから。
そして戦いは始まった。
両者とも渓谷の端に立ち、それからしゃにむに駆けた。
ケンタウロス、走る。
弓を引きながら。
何度も矢を番え、放ちながらも足は止めない。
まるで壁走りする流鏑馬の達人だ。
親方は一方的に撃たれながらも、軽い立体機動も交えて避けまくる。
その足取りを見る限りでは、かなり御機嫌な様子だ。
すれ違う刹那、幾つもの手番が交差するが、いずれもヒットには至らない。
そしてステージは、この場所の本領である壁面へと移っていった。
四十メートル近くも間隔が離れた渓谷両側の壁を左右交互に蹴って、山岳山羊のように見事に駆け上がるエリーンのタイプケンタウロス・黄金のセントール。
親方のシャブラーも同様の機動を魅せまくる。
そして何度もクロスする影。
その数は五回を数えたが、未だ決着はつかず。
そして両者とも同じ側の崖に雁首揃えて渓谷の端まで一目散に下がり、勢いを殺さずにその向きを変えると、またもや騎士の一騎打ちのように向かい合って互いに走り込む。
次の瞬間に、あわやエリーンの片腕が持っていかれるところだったが、すかさず矢を捨てて左腕を押さえ、外れるのを防ぐ。
大事な弓を持つ手なので、これを無くすと命取りである。
並みのプレイヤーではこうはいかないが、この辺がエリーンという冒険者の小器用さだ。
実質的に彼女がチームエドのエースであったのは、土壇場でいつもこのように器用な立ち回りを見せられるのもあったのだろう。
だが親方は勝ちを拾うために少し無理をしたようだ。
レギュレーションの限界を超える強引な挙動を見せてしまったようだ。
当然、一瞬止まったかのような挙動を見せた。
この辺はファルと違い、親方にはヒナダム修行の経験値が足りなかったようだ。
「むっ、しまった」
「もらった」
機を見て強引に急停止し、まるで四つ足全てをクロスさせたかのような、跳ね飛ぶような感じでターンして向きを変えたケンタウロスが、立て続けに速射の洗礼を親方に浴びせる。
このあたりは、やはり搭乗者の腕が物を言うのだ。
瞬間踏み込む力や勢いが重力と拮抗して壁面に対して停止していたかのような親方の機体は、あっさりとバラバラにされ空中に散り、あえなく高度百メートルから墜落していった。
「勝負ありっ。
見事だ、黄金の狩人よ」
親方自らそう宣言して、直後に地面に激突した。
当然内部が厳重に保護されているヒナダムGにおいては、その程度では中にいる搭乗者には何の影響もない。
もっとも親方の場合は、これくらいの衝撃なら素でもビクともしないけどな。




