139-9 強者達の挽歌 那須与一と春の競
お次の対戦は、エリーンのケンタウロスの出番だった。
彼女の機体の銘は『黄金のセントール』。
お相手は、なんと騎士団長のケインズだ。
「面白い。
ここで貴様、黄金の狩人と立ち会えるとはな」
大空のスクリーン上には、いつものように斤量剣を背負い、褌姿で満足そうなケインズが映っていた。
これは演習場八十キロコースを走る時の『いつものスタイル』だ。
手足にはヒナダム・コントロール用のリングが嵌められており、それとケーブルが繋がっているのだが。
「いやいや、こちらこそ。
栄えあるアルバトロス王国騎士団長殿と立ち合えるとは光栄至極」
そして、いつもの冒険者スタイルを身にまとい、余裕の笑顔で受けて立つエリーン。
片や、アルバトロス王国王族などの護衛任務で常にイベントに顔を出す騎士団長。
片や、ケモミミ園あるいはエルミアの教会の子供達の引率や護衛任務を任される凄腕冒険者。
この両者は何かにつけて顔を合わす事も度々なので、御互いに「いつかは御手合わせを」という好カードだった。
武の十八番じゃないが、時は来たれり!
「ファイっ」
俺の号令と共に、厳かとも言えるほどの緩やかな動作で、すっと互いに円の軌道を描く二人の戦士。
二人共、めっちゃ気合入ってんなあ。
「君達、一応は主催者として言っておくけどさあ。
これはあくまで雛祭りの行事なのであって、基本的に幼稚園の子供の遊び場なんからね。
あんたら大人なんかは、所詮只のオマケに過ぎないなのよ?
わかってんのかねえ」
どうせ聞いてはいないんだろうけど、まあ一応は言っておかないとな。
エリーンなんかはまだ嫁入り前の娘なんだから雛祭り現役選手と認めてもいいとして、髭のおっさんの方はなあ。
まあ、御互いに頑張れ。
そして迷わず、弓に矢を番えるケンタウロス。
矢自体は連続で収納からいくらでも出せる仕様なのだが、撃つための手腕は射手次第なのだ。
エリーンが撃った矢をあっさりと躱すケインズの機体登録名は『根性注入』。
どういうネーミングのセンスなのか。
殆どアニキと変わらんな。
すかさず左右にジグザグに飛びながら近づくケインズの根性注入。
エリーンの二撃目はまだ撃たれない。
だが、更に前進する根性注入に、目も止まらぬ速さで撃ち込まれた矢が片腕を弾き飛ばした。
この矢はかなり重いので、こいつにポッチを撃たれると一瞬にして手足を持っていかれる。
その代わり使う射手は選ぶという本格的かつ高性能な得物だ。
たぶんエリーン以外の参加者には扱い切れまい。
もしこのような弓を扱えるとしたら、それはあのエルミアの御領主様くらいかな。
さすがに、あの人を雛祭りに御招待はせんけど。
エルドアの人外どもは弓なんてまず使わないから除外だ。
やらせてみるのも一興だがな。
案外と使いこなしそうだ。
ああ、エルフの連中を忘れていたなあ。
エルフに弓は定番なのだが、うちのエルフ新町のエルフが武器を使っているところなんて見た事がないのでわからない。
もっぱら装飾品を創る際の加工道具やナイフ、そして包丁なんかだよな。
ヘレンなんか包丁を使って余裕で魔物を倒し、そのまま料理しちまうがな。
あの人も千年物の実力者なんで、完全なオーバーAランク冒険者なのだ。
まあ、あれは参考外だな。
彼女は見つかったら命の危険があるハイエルフだったので国家関係と無縁であったからSランクには上がれなかっただけなのだ。
「うぬっ」
先制を食らって、思わず呻くケインズ。
だが余裕の笑顔でペロっと舌先で唇を舐めるエリーン。
これは、あれだな。
余裕というか、先に足を狙うと一発でケリがついてしまって、狩りの醍醐味が薄れるというか、そういうものなのだろう。
腕を一本持っていかれて、やや重量級ボディの体のバランスを欠いてしまって些かふらついている根性注入に、容赦なく次の一撃が襲う。
あっというまに両腕を失った根性注入。
これではもう相手の体をバラす事も出来ないので負けは確定だが、それでも栄えある騎士団長としての矜持の下に突き進む根性注入。
そして前へ進むも、更に片足も敢え無く持っていかれた。
「なんの、まだまだ」
あー、騎士団の根性物語はいいんだけどね。
そういうものはエリーンには通じないんじゃないのかな。
片足ケンケンで何とかケンタウロスの元まで辿り着いた根性注入。
もう相手をバラす事など絶対に不可能な体勢だ。
だが、もうエリーンは弓さえ構えてはいない。
相手の機体はもう仕留められる時を待つだけという、単なる七面鳥バラシだからな。
「ようこそ、王国騎士団長閣下」
「うむ、まかりこした」
「では遠慮なく」
潔く敵の前に立った将に対して遠慮のえの字もない。
エリーンは只の冒険者、いや狩人に過ぎないのだから。
ケンタウロス・エリーンは馬上(ケンタウロス上半身)から前足を折って屈み加減になりながら、片手で根性注入のボディを持ち、その足を外してボディの方は無造作に放り捨て、その最後の足を掲げ勝利の宣言に替えた。
そして根性注入のボディは無様に大地の上をゴロゴロと転がっていった。
それはもう当然だよな。
「む、無念」
笑顔で高々と根性注入の片足を掲げるエリーンに対し、気合の入った判定の声が上がった。
「勝負ありっ!」
圧倒的なエリーンの弓の腕前は完全にスキル化しており、ほぼアローブーストのような効果を持っているのではないだろうか。
俺も最初の頃に覚えた弓スキルを使えるのでよくわかる。
スキルは個々の参加者の、只の鍛練の結晶なので制限をかけられない。
魔法禁止のヒナダム・ルールにおいて弓は不利である条件下にも関わらず、ここまで腕前のみで弓の力を発揮するとは。
いや、我が配下ながら誠に天晴!
続いて、次の対戦はまたしてもウオッカ姫とプリー君だ。
二人とも勝負前から大スクリーンの中で腕をぶんぶんと廻して張り切っておられる。
これはあかん。
体力切れ確定だな。
またいつもの奴か。
「ウオッカ御姉ちゃん、勝負~」
「望むところよー」
相変わらずの真っ向勝負なのだが、所詮は操縦者が体を使って動かすのだ。
あっという間に体力切れで動けなくなった。
ほぼクリンチ状態で動けなくなったまま固まっている、幼い二人の機体。
勝負がついていないので、機体が自動でプラットフォームに戻ってこないなあ。
「あー、レスキュー班。
パイロットを救出して機体を片付けてくれ」
またしても仲良く不戦敗コンビだ。
お次は、おっとエリか。
相手はテキーラ姫だな。
「あら~、こんな小さい子が相手なのかあ。
御姉さん、ちょっとやり辛いな」
何を言っているんだ、お前。
そんな事を言っているとだなあ。
そして試合は開始したものの、それはもう目も当てられない状態だった。
言わんこっちゃない。
エリは間髪を入れずに、テキーラ姫のサンライズGの猛烈なラッシュの前にフルボッコにされて、あっという間にバラバラにされて退場した。
その間、僅か十秒ほどか。
見どころの見の字すらないな。
勝負が着いたので、自動的にプラットフォームへ転送されて戻った標準型の機体であるエリダム(名前負け)から、ふらふらになって目を回したエリが出てきた。
「いやあ、参ったなあ。
瞬く間にボコボコにされちゃったわあ」
「そりゃあ、そうだろう。
ああ見えて、あのチビ姫はサイラス大会の優勝選手だからな」
「それを早く言ってほしかったわ~」
「言ったら何か結果が変わったのか?」
「あうう」
こうして、大会は何事もなく順当に進んでいったのだった。




