138-14 再び「卵たまごエッグ」
そしてコピーする旨をあらかじめ頼んでおいたので、ドワーフどもにクーラの魔核を持ってきてもらったのだが、こいつは差し渡し直径十メートルはある大物だった。
大きすぎるので、こいつはメガフロートの上に置いてあるのだ。
「こうして改めて見るとでかいな、おい」
「おお、極上の物よ」
とびきり上物の獲物を手にして、大層御機嫌な親方と一緒に魔核を検分した。
だが、何かこう今まで見た事がある魔物の魔核とは違う感じがするな。
まだ光っているし、半分透けていて、ふよふよとしていて何か生き物を連想させるような物だった。
何かこう不思議な代物だな。
生き物とは違って、その外殻は非常に固いわけなのであるが。
「じゃあ、さっそくコピーさせてもらおうかな」
そしてアイテムボックスに収容しようとして……出来なかった。
「あれ?」
「どうした、アル」
「これ、何故か収納出来ないんだが」
「なんじゃ。
そんなもの、こうして……む?」
「へえ?」
そして見物していたシドも試してみて駄目だった。
こ、これはまさか!
俺達は全員で顔を見合わせた。
「生き物だな、これは」
アニキが、あっさりと纏めた。
そして見物に来ていたトーヤとエディがくすくすと笑って魔核を指さした。
「ほらほら、よく見てよ、園長先生。
クラゲの赤ちゃんだよ、これ」
そう、それの中には赤ちゃん体形ではあるものの、確かに幼きクラゲと見えるシルエットがうっすらと浮かんでいた。
初めからクラゲだと思って見ていないと、それとはわからないだろう。
巨大な生まれつきのプランクトンのようなものなのか?
「ホンマや……」
うちの魔物標本大好きっ子は最初から見抜いていたようだった。
本当だ、これ卵じゃんか。
でかいし、丸々一個だけの。
この特大クラゲ魔物は魔核の代わりに、自分の分身を子供として残すのだ。
珍しい生態だな。
「なあ、シド。
このクラゲって最初はどうやって発生するの?」
「さあ、よくわかっていないのですが、おそらくは通常のクラゲのように発生するのではないでしょうか。
小さい物は以前にも発見された事があるのです。
このクラスになると、魔核という形で今までの経験値や能力を強力な子供に後を継承せるという事なのでしょうかねえ。
いやあ、こんな事は私も初めて知りましたね」
さしもの海賊王も感慨深そうに、その卵を見つめていた。
こいつの外郭は丈夫そうで簡単に壊れるような物でもない。
どうするかな、これ。
「おや、公爵。
今、それが何か動きませんでしたか?」
「え、そう?」
そして、うっかりとそれを覗き込んだ俺は、卵の外殻に顔を寄せていたそいつと目が合ってしまった。
その真ん丸の、いかにも海生生物といった感じの可愛らしい目と真面に。
「あ、これアカン奴」
しまった。
また卵の奴に嵌められたぜ。
こいつ、さては俺の魔力を!
次の瞬間、パチンっという感じで殻を真っ二つに割って出てきたそいつに、俺はのしかかられてしまっていた。
卵の中を満たしていた、アレな感じの羊水相応である大量の液体と共に!
うお、生臭い。
そして聞こえてくる産声。
なんとも言えない声だ。
人間の赤ん坊のような声にも聞こえるし、あるいは何かの叫び声のようにも聞こえた。
赤ん坊か。
卵とか赤ん坊には、あまり良い思い出のない俺。
だからこそ、あのケモミミハイムの乳児院にいる普通の赤ちゃん達の事が愛おしいのだが。
これはまた、どうしたものだろうか。
また変なモノに懐かれてしまった。
どうしよう、これ。
生まれたばかりの魔物の赤ちゃんが、まるで命綱の如くに俺にむしゃぶりついて魔力を目一杯に吸い込んでいるみたいだし。
これは、そう簡単には離れてくれそうもない。
まるで精霊だ。
「あっはっは。
アルよ、また可愛い『園児』が増えたものよのう」
「あのなあ、親方」
「いやあ、さすがは魔王様ですねえ。
いっそ海の四天王として御育てになったらいかがです」
さすがは海賊王、まったく動じていねえや。
「いいなあ、園長先生。
しまったあ、刷り込みに割り込んでおけば~」
いいけどトーヤ。
こいつはケモミミ園で飼えないからな。
さすがにこいつは海の無いエルドア王国での飼育は厳しいな。
いや、本当にどうしようか。
すると警備に回っていた新選組海兵隊長の山崎がやってきて言った。
「どうします、それ。
よろしければ、佐藤や鈴木達を呼びますか?」
「ああ!
そういえば、うちには大型クラーケンが三体もいたんだったな。
さっきの討伐も奴らを呼べばよかったのか。
日頃まったく見かけない奴らなんで、すっかり忘れていた。
いや、ああいうやり方のほうが楽しかったし、あれはあれでいいかな。
すぐに連中を呼んでくれ。
俺に巨大クラゲの養育は無理だ」
そして転移魔法でやってきた巨大なクラーケン達。
でかい図体で海上に姿を現し、恭しく、まるで王に傅くかのようにピシっとした態勢で浮かんでいる。
こういう真似をするから、俺は魔王などと呼ばれてしまうのだが。
「お前ら。
済まんが、そいつの養育を頼む」
それを聞いて恭しく触手を伸ばしてくるクラーケン。
だがクラゲの赤ちゃんは激しくイヤイヤをして俺にしがみついた。
ギュっと目を瞑り、まだ短く可愛い触手で俺にしがみ付きまくりだ。
そして、のしかかられてしまった。
普通の人間なら潰れてしまうわ。
「あははは、園長先生ったら懐かれているわね。
まるでクラゲに食われているみたいよ」
「おい、真理。
笑っていないで助けてくれよ」
「しょうがないわよ、まだ赤ちゃんなんだからさ。
しばらくそれの面倒を見ていたら?」
「えー!」
だが、これだけ懐かれてしまうと、つい情が移ってしまうな。
とりあえず、じゃらして遊んだり御飯をやったりして過ごしたが、案外と楽しい。
陸地では見ないタイプの可愛い物だからな。
まだ毒の刺胞は無いようだ。
人間は食べないようで、子供達とも遊んでいる。
ちゃんと力加減を出来るようなので解禁にしたのだ。
子供達には防御シールドをかけておいたし、クラゲの赤ちゃんの方には海水を湛えた収納と組み合わせたウエットシールドを即興で開発し施しておいた。
こいつは体に密着したタイプの特殊なシールドなのだが、まるで海水の中にいるかのような快適さを維持できるのだ。
そして、そのようにすると陸上でも平気で活動できるようだった。
これはまた変わった生態だな。
だが、焦れた奴がまたやってきた。
「ちょっと、あんた達。
よくもクーラを倒してくれたわね。
しかも、それだけじゃ飽き足りずに、その子供と遊んでばっかりっていうのはどうなの!」
「もう煩いなあ。
俺達と遊んでほしいなら、ちゃんとそう言えよな。
俺達は今、可愛いクラゲの赤ちゃんに夢中なの!」
ツンデレの蟹って面倒くさいな。
しかも、あまり需要が無さそうだし。
想像してみようぜ。
自宅に設置した巨大な水槽の中でツンデレしている、全長二十メートルもある雌の毛蟹をよ。
蟹専門店や活魚料理店だと、それでも映えるかなあ。




