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138-13 中華の華

 なんだかんだ言って三日も宴会を続けてしまった。

 みんな、前祝いし過ぎなんだよ。

 ドワーフの鍋とかが美味過ぎるのがいけない。


 そう思いつつも、俺も楽しくて一緒にやっていたのだが。

 毛蟹どもが、さぞかし焦れている事だろう。


 さて、そろそろと思い腰を上げ出していた頃、甲板には何者かが忍び寄っていた。

 もちろん、その正体はもろバレなのではあるが。


 それは触手だった。

 おそらく例の巨大クラゲのものだろう。

 信じられないほど大きな刺胞が付いている。

 毒魔物としては世界最大にして最強クラスだな。


 人間がこれにやられたらイチコロなんじゃないだろうか。

 危ないので子供達は全員退避させておいた。

 離れた場所へ退避させておいた蟹漁見学船の方から映像で見学だな。


 あの巨大な図体の割には触手が案外と細い。

 太さ五十センチくらいなのか。

 体長の約千分の一程度の幅しかないミジンコサイズだな。


 まあクラゲっていうのは、そういうものなのかもしれないが。

 調理する分には、その方が都合いいな。

 普通は毒刺胞付きの触手を調理したりはせんけどね。


 すかさずドワーフが、巨大な大斧で触手の群れを叩き切っていた。

 おそらく食材にするつもりだな。

 連中は毒の刺胞を持つ触手や巨大海生生物に対する恐れなど一片も持っていない。


 俺も参加して食材の確保に余念がなかった。

 いや中華クラゲの食材って触手ではなくて本体の方だと思うのだが、まあ一応は確保しておく。


 何が悲しくて、毒刺胞てんこ盛りの触手を公爵家の客が食べにゃあならんのだ。

 そんな物は中華料理だって使っていないはずだ。

 クラゲって死んでも強烈に毒が残るんだよなあ。

 刺胞を取ってあっても、なんか信用できねえ!


 あんなもんを刺胞ごと食うのはウミウシくらいのものだわ。

 ウミウシって酷い奴になると、ちゃっかりと毒クラゲの刺胞を丸のまま体に取り入れて背中に並べ、そいつで自分の身を守っている種類がいるくらいだからな。


 そういやウミガメもクラゲを食べるはずだが、さすがに連中も猛毒の「電気クラゲ」は食わんのじゃないか?

 ウミガメの死因の上位に名が上がるビニール袋とどっちがマシかねえ。


 だがドワーフの奴らと来たら、その超強烈毒刺胞付きの触手を珍味扱いにするのではないかというくらいの確保しっぷりだった。

 さすがのドワーフ連中も、それを人族には勧めたりはすまい。

 どっちかというと人族は酒で倒す方が楽しいので。


「みんな、クラゲの触手だ。

 奴が来たぞ。

 触手についている刺胞に触るなよ」


「おう、返り討ちじゃわい」


 次々と水中のクラゲに向かって飛び込んでいくドワーフ達。

 とても正気とは思えない行動だが、まあ連中の事なので心配など不要だろう。


 深海素潜りなどという非常識極まる特技の持ち主ばかりなのだから、少々海中に引きずり込まれていたところで問題など何もあるまい。

 連中の息継ぎが必要になる前に決着は付くのだろう。

 それに連中の収納に水中呼吸の魔導具も持たせてあるし、風魔法でも空気を作り出せる。


 俺は船上から戦況を見守る事にした。

 一応は船を守るつもりもある。


 こいつがどれくらいのパワーを持っているのかよくわからないのだが、クラーケンのように力があるとマズイ。

 うちのメカ毛蟹もこいつにやられっぱなしだったし。


 クラゲは筋肉の塊のようなタコとは違うから、普通ならそういう事はないと思うのだが、魔物を相手にする時は油断禁物なのだ。

 特に触手持ちの奴は。


 こいつもクラゲのくせに墨なんか吐きやがった、本来なら絶対に有り得んような生態の魔物なのだし。


 やがて水中から姿を現すクーラ。

 そもそもクラゲなんていうものは、普通なら海上でプカプカと上に浮いているようなものだよな。


 本当に非常識な奴だ。

 まあ中には水中を泳いでいる種類だって沢山ある訳なのだが。

 その発生メカニズムから考えても、もしかしたら泳いでいる方が通常なのかもしれないけど。


 クラゲが泳ぐ姿は優雅で本当に美しい。

 発光している時などの姿は実に素晴らしいものだ。


 あのゆらゆらと優雅に遊泳する時の優美な姿には、確か一種のセラピー効果があるのではなかったか?

 不規則に揺れ動く焚火の炎と似たような効果なのかもしれんな。

 まあ素手でクラゲに触るのはゴメンなのだが。


 その毒を孕んだ刺胞を持つ触手にはドワーフ達が捉えられているのだが、全員まったく無事なようだ。

 あいつらって、やっぱり人間じゃないんだな。


 そして自分達を捉えている触手を切り落とすと、切り落とした触手ごと海へと落ちていく。

 触手を収納してから、また浮き上がってきて触手に取り付いていくという作業を繰り返していく。


 クラゲの方も大量に取り込む魔素に物を言わせて、切られた触手を次々と再生していくのでキリがない。

 まるで生ける魔力コンバーターみたいな奴だ。

 永久機関か!


 本物のクラゲは体の構造自体が群体みたいなもんだから、斬り落とされたって平気なのかもしれないがな。

 これは魔物だから、それすらも怪しいもんだが。


「おーい、親方」

「なんじゃい、今忙しいんじゃ」


「それって、本当に決着つくの?」

「おう。魔核を引きずり出せばなあ」


 切って切って切り進み、そいつの中へ入り込んで魔核をえぐり出すつもりなのか。

 よくやるよ。


「じゃあさ、そいつ抑えておいてやるからさ。

 その間に始末してくれよ。

 これだと、ちっとも蟹漁が再開できん」


「ほう、どうやって抑えるつもりだ?」

「こうやってさ」


 俺はこういう時のために作っておいた『メガフロート』を放り出した。

 地球にある人工島に近いような大型メガフロートをコピーしまくってきて連結したものだ。

 その上に自作の大型マニュピレーターを大量に設置してある。

 そして体高が百メートルある、遊園地で観覧車建設に用いたのと同型の大型ゴーレムに斧を持たせて、そのメガフロート上に配置しておいた。


 全長二百メートルくらいある円形のそいつを、二十基ほど奴の周りに並べてやった。


 地球に侵略してきた火星人のようなスタイルで『海面に立つ』巨大なそいつを、超大型マニュピレーターで強引に掴み、それから持ち上げ、大型ゴーレムが触手を刻んでいく。

 クラーケンの場合は往生際が悪いので、重力魔法で引っ張り出さないといけないのだが、こいつは潔いな。


 こいつも強力な再生力のせいか最初は結構余裕であったのだが、そいつが海中に戻れないように、俺がシールドという名の生板を下に敷いてしまったので、怒りの触手を振り回し大暴れしている。

 無駄、無駄。

 俺のシールドは膨大なMPに物を言わせているから、その頑丈さは一味違うんだぜ。


 ドワーフ達はメガフロートの上で寛いでいる。

 俯せに寝転んで頬杖をついていたり、胡坐をかいていたりで。

 奴が暴れるので、メガフロートは物凄く傾いたり揺れたりしているのだが。

 普通の人間なら、とっくに海へ転げ落ちているだろう剣呑な場所で、何故あんなに優雅に寛いでいられるのか。

 さすがに酒を飲んでいる奴はいなかったがな。

 まだ漁の途中だし。


「ねえ、公爵。

 あれの魔核を我が国で引き取らせていただくわけにはいきませんかね」


 あいつの体の中心に光を放つ巨大な魔核が見える。

 なんて大きさなのだろう。

 シドは船の動力に使うつもりのようだな。


 今日はシドの奴もドワーフ達に混ざるつもりはないようだ。

 というか、あれだけドワーフが取りついていたら味方に当たってしまいそうで、クーラを倒すための大魔法などぶっぱなせないだろう。


「それは連中と交渉してくれ。

 俺もコピーさせてもらうつもりだから」


「そのコピーした物を頂く訳には?」


「うーん。

 俺の作る魔核は真理を祖とするもので、個々の魂が生成されるような特殊な物なんで売り物には出来ないんだよなあ。

 まあその話は後さ。

 奴め、そろそろ気が付いたかな」


 そう、海生の魔物が照り付けられる太陽の下で海中へ戻れないという事は。


 ことにクラゲのように水分が大きく成分を占める奴の場合は致命的だろう。

 人間だって体の七割が水分で出来ているんだからな。

 奴は少し大きさが縮んできていた。


 動きも若干大人しくなり、見るからに再生力が落ちてきたのがわかる。


「それ、皆の者。

 今じゃ!」


 踊りかかるドワーフ、それに激しく抵抗するクラゲ。

 だが切り裂かれ、苦鳴を上げるクラゲは断末魔に近い有様だった。

 なんだか暗い海から響く海鳴りみたいな声だ。


 まさか、この異世界まで来て、クラゲなんかの鳴き声を聞く事になろうとはな。

 多分、地球のクラゲって鳴かないと思うのだけれど。


 そして親方を先頭に突き進むドワーフ達の手により、ついに巨大な魔核は抉りだされ、クラゲの断末魔の雄叫びが大海を切り裂いた。


 ありえねえ光景だ。

 さすがにシュール過ぎるぜ。

 この様子を見学していた子供達がなんて思ったかね。


 そして武器を振り上げ、腕を突き上げながら鬨の声を上げる人外の赤銅の肌の男達。

 ここに、あまりにも現実離れした死闘の決着は付き、ついに戦い(狩り)の幕を閉じたのであった。


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