137-2 芋虫対策
やはり、ここは本場の、本物の中の本物のチョコを見せてやらねばなるまい。
芋虫チョコが邪道だと知れば、彼奴等とて俺に無理に芋虫チョコを食わせようとはしないのに違いない。
もっとも、この俺だってそんなに本物チョコと親しんできたわけではないのだが。
「というわけで、今から地球へチョコの買い出しに行きます。
行くよね、お前らも」
「いかいでか!」
「いきますとも!」
御狐コンビは行く気満々だな。
「チョコ~」
うちの娘も燥いでいた。
他にはファルとエリを連れて行く。
「チョコを作っている会社かあ。
楽しみだなあ」
「まあ、それなりに近代的な工場だからね。
お前らも、あまり馴染みがないかもしれないな。
あれは大量に作らないといけないから大変だわ」
「ふうん」
まあ、あんなに巨大な装置が立ち並ぶ工場なんて、この世界にはないからな。
俺も無理して作ろうとは思わない。
入用になったら作るまでだ。
大概の事はコピー能力で賄えるし。
よくわからないが、ヨーロッパの高級チョコなどでは、小さな機械で人の手を大きくかけて作られる場合も少なくないのではないだろうか。
そういう場合は、近代的なアメリカや日本の工場のようにパイプで大掛かりな装置を繋ぐのではなく、人間が扱う比較的小型の装置で、人の手で作業を進めていくようだし。
その代わり、熟練した作業者が手作業で細かく手を入れていくので、超大量生産製品とは違って品質が素晴らしくて美味しい物が出来るような気がする。
もちろん、ヨーロッパの高級チョコメーカーでも商品取り扱い量の多い大企業だと、さすがに大型の工場で作っているのだろうが。
近年はインドや中国などの人口の大きな国でチョコの消費量が急増している。
特に裕福な中国は高級チョコの購買力も高いはずなので、高級チョコブランドとて生産量をぐんと増やさねばならないだろう。
逆に日本などは人口減少に加え、成人病の増加やダイエットなどでチョコの消費量は減っているのかもしれない。
かくいう俺も大人になってからはチョコなんてあまり食べていなかった。
ビールの消費量だけは凄かったのだが。
まず小さな工場を見に行った。
ここは元々添加物のような物を使っていない。
基本的なチョコを作る工程自体は、どこもそう変わっていないと思う。
大型の自動装置としてシステム化されているか、それなりに人手に頼る形の違いだろうか。
案内の人が現れて挨拶してくれた。
子供達の腕輪には、元々例のインチキ翻訳スキルを仕込んであるので、皆も言葉には困らない。
「さあ、皆さん。
中へ入る前に、この特別な作業服を着てください。
食品工場ですから」
これは見学者も着る決まりらしい。
こいつがまた御狐達には好評だ。
「うわ、なんだか格好いい」
「研究者みたいだね」
レミは、ちょっとサイズ大きめだった。
それがまたダブっとしていて可愛いんだけどね。
大型の工場ではないのだが、入る際は規定の時間だけ手洗いをし、更にエアブローされた。
電子部品や自動車部品でも同様のシステムはあったりする。
食品工場では、ここから更にゴミ取り用のローラーで体の表面に残ったエアブローで飛ばなかった大きめのゴミを取るところもある。
これを工場内から出入りする度にやるものだから大変だ。
俺が働いていたところは食品工場ではないので、特別な部署がエアブローしていただけだった。
全員が上履きを履いていたけれど。
トーヤとエディはもう超御機嫌だった。
皆、ミミと尻尾は厳重に仕舞わせた。
さすがに食品工場で、そういうものはマズイ。
中に入ると、入り口でレミの大好きなチョコレートファウンテンが歓迎してくれた。
「チョコレートファウンテン!」
キラキラした目でそれに向かって駆け寄っていった娘を、係の人がにこにこしながら見ている。
まさにこのためだけに置いてある物なのだから。
しばらく、しがみつくようにして張り付いて見ていた娘のミミを帽子の上からもふって促すと、係の人の後について回った。
「さあ、順番に見ていきますよ」
クリーナーで原料の選別を行い、カカオ豆が袋に詰められている。
出荷する現地では磁石などを使って、鉄などのゴミまで取り除いているはずだ。
かなり手間をかけて出荷されていると聞く。
ロースターで焙炒し、セパレーターで分離してカカオニブにして、ここでブレンドするのが普通なのだろう。
バター・砂糖・添加物などが入っていないので、これを自分で加工して食べる人もいるらしい。
ここからグラインダーで磨砕してカカオマスを作り、ミキサーでミルク・砂糖・カカオバター・香料などを混ぜて、ロールにかけて微粒化し、それを練り上げて精錬する。
そこから調温して充填と冷却、そして型から抜いて包装だ。
そして案の定、最後の工程を見終えたレミが難しい顔をしている。
また、作業を見つめるエリの目が異様に真剣だ。
完全にプロの目だな。
まあ異世界にチョコ工場を作る予定は今のところはないのだが。
そしてレミが不思議そうな顔で聞いた。
「おじちゃん、イモムシは?」
「は?」
係のおじさんも不思議そうな顔をしている。
「キャタピラ(芋虫)が、どうかしたのかい?」
それを聞いて、何やら少しショックを受けたような顔のレミ。
「レミ、地球の工場ではチョコの材料に芋虫は絶対に使わないから」
そっとトーヤが耳打ちするが、更にショックを受けたようだった。
うちの娘ちゃん、本当は芋虫をチョコには使わないんだって、わかってくれたかしら。
帰りには、事前の注文通りに添加物無しで作られた商品を、工場付属のショップで大量に御土産として買わせてもらった。
異世界で待っている口には事欠かないしね。
その後に行った日本の工場では、大型の近代設備にトーヤ達が大はしゃぎだった。
エリも感心して見上げていた。
「地球の人って、御菓子を作るのに、こんな巨大な設備を作っちゃうのね~」
「あはは、食う口の数も半端じゃないしな。
それを流通させるための大量輸送手段や販売システムも発達しているし」
それからスナック菓子を作っているコーナーを覗いて、出来立て御菓子を試食した。
俺も初めて来たな、御菓子工場。
残念ながら子供の頃の社会見学では行かなかったし。
あの頃に行っていたら楽しかっただろうなあ。
地元には自動車工場がたくさんあったので、そこへ行っていたのだ。
大人になってからビール工場は見学に行ったけどね~。
名古屋の水道水は木曽川水系であるため、ミネラルウォーターと水道水を間違えるほど水が美味しいので、昔は複数のビール工場があったらしい。
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