136-5 オニダム開幕
「それでは第一試合です。
おっと、いきなりビッグなカードの対決だ。
シャルロット王妃様とドワーフの王太子様ですね。
これは見ものです!」
張り切って司会をしているのは、二十代のどこかの伯爵の跡継ぎだ。
こういうイベントを仕切るのが大好きなので有名な男だ。
輝く金髪と白い歯が印象的な、やたらめったらエネルギッシュな青年だ。
動きがシャキっとかパリっとかしていて、声にも張りというか艶がある。
プロレスやテレビのイベントを仕切らせてやったら最高の人材だよな。
たしか、ロイトン伯爵家のイベスキーとかいったな。
なんてベタな名前なんだ。
まあ偶然なんだろうが。
俺がこの世界にマイクを持ち込んだので、さらにノリノリになったらしい。
こういう奴って、どこにでもいるよな。
これで上級貴族の跡継ぎというのがまた泣けるわ。
こういう仕事って、普通は子爵家の人間か下手をすると男爵家の子弟あたりがやるポジションなんだが。
こいつの親も、さぞかし頭が痛かろう。
「ふっ。
かかっていらっしゃい、坊や」
「何を言うか。
このシステムはドワーフの王子がプロデュースしたのだぞ。
人族の王妃風情など返り討ちにしてくれるわ」
だがトーヤは笑って応援していた。
「あははは。
このイベントは元々王妃様が企画したものだからねー。
悪いけどアニキに有利とは一概には言い難いかな。
まあ面白さを優先したもんだから。
でも、どっちも頑張れー」
「うむ。
それでこそ我が弟だ。
実力で相手を粉砕してこそのドワーフというものよ」
「それでは、いざ尋常に勝負!」
それ本当? おばはん。
冒険者というものが、そんな綺麗事で物事を済ますものかねえ。
特にこのおばはんときた日には。
アニキの方は真っ直ぐ力押しをしてくるタイプだ。
王妃様も力押しはするけれど、きっと真っ直ぐじゃない。
この同類たる俺が言うんだから間違いはないのさ。
義理の親子とはいえ、親子って似てくるもんなんだねえ。
いや嘘、元から御互いにこうでした。
そして王妃様のオニダムがズイッと前に出た。
それはなんていうか、王妃様の分身のような感じだ。
同じような格好をしているし。
だが、その容姿は非常に若い。
おそらくは少女時代の自分を模したものなのだろう。
どうやら王妃様のイメージの中では、それが最強という事なのか。
いや、女性なんだから若い容姿で作ってみたかっただけか。
この人の場合は、そんな事は今更なんだけど。
対するアニキのオニダムは、これはもうズッシリと重量級だ。
昔はドワーフを怒らせて攻め込まれた国は「鬼が攻めてきた!」と戦々恐々だったそうだが、こうして鬼の格好をしているところを見れば、それもなるほどと思える。
顔の造形を軽く鬼に変えただけで、なんとも言えんような凄まじい迫力だ。
おそらく、これのモデルは戦時のドワーフの戦士そのものなのではないか。
生身の人間がこれの相手をしたくはないだろう。
一方、優雅な動きで観客を魅了するオニダム・ロッテ。
対するは豪快な動きを魅せるオニダム・怒涛の王子だ。
アニキめ、また妙な名前を付けたようだな。
二体のオニダムは王宮の大舞踏会場で対峙し、円を描くようにして回っている。
まるで距離を取って踊るワルツであるかのようだ。
そして周りでは、優雅にカクテルなどを頂いている鬼の面を被ったドレス姿の貴婦人達がいる。
ふさふさのついた仮面を顔に付け、ドレスも華やかなものが多い。
少し年配な貴婦人などは、通常の催しでは控えめなドレスでシックに決めるのが普通なのだが、こういう仮面舞踏会形式では派手にする事も多く、彼女達の楽しみの一つでもある。
中には若いツバメを囲って、それを堂々と見せびらかす場としている豪傑夫人もいる。
そういう人は皆から好奇の視線を浴びるのが大好きなのだ。
そんな噂のあの方とかも参加者として交え、どうやら一般の人は普通の仮面舞踏会として楽しんでいる趣向のようだ。
生憎な事に踊っているのはオニダムとその操縦者だけなのだが。
そして突然にダッシュをする怒涛の王子。
それを見事に躱し、忍者のようにヒラリっと宙に舞うオニダム・ロッテ。
「おのれ、逃げるな!」
「あなたこそ、このオニダムのルールがよくわかっていないのではなくて?」
このオニダムは魔法で操縦者と同調しているため、操縦者の能力がそのまま出るといってもいい。
若き日の冒険者としての王妃様と、戦に出た時の怒りの王子のパワーの激突といってもいいだろう。
「む、どんなルールだったっけかな」
おいアニキよ、それでどうやって勝つつもりだったのだ。
力押しで打ち倒せばいいとか勝手に思い込んでいたね。
あんた、やっぱりアホや。
「おーっほっほっほっほ。
それはこういう事ですわ」
そう言って王妃様のオニダムは空中で海老反り、凄まじい速度で指弾により、大量の豆を怒涛の王子に撃ち込んでいった。
「うお、うお、うおう!」
それらの豆は的確にポイントの入る急所に叩き込まれていった。
人体の急所がそのままポイントが入るターゲットとなっているので説明は不要だ。
そして、さすがに反則じゃないかと思うような空中ポジションから完全に一方的な虐殺攻撃を放つ王妃様。
魔法を封印した王宮内にて、平気でそういう真似ができる高ランク冒険者。
それは地上の歩兵を一方的に銃撃して虐殺する悪魔の攻撃機の如くの卑怯技だった。
やっぱりなあ。
この御方が正面から真っ直ぐに戦うなんてするわけがないからな。
あっという間に魔法の電光掲示板に刻まれていったポイントは一万を遥かに超えて、テクニカル・ノックアウト、TKO判定で王妃様の勝ちが宣告された。
さすがに敬愛する兄のこの負け方にはトーヤが絶句した。
「ね、ねえ、アニキ。
オニダムの仕様マニュアルというか、ルールブックって読んでくれた?」
「う、昨日も宴会だったのでな。
うっかりと読み忘れたわ……」
「あう」
やれやれ、とんだ虐殺『撃』だったな。
まあ王妃様がいい気分みたいだからいいか。
口に手を当て仰け反るような感じに、ものすっごい高笑いを見せてくれている。
これは俺も初めて見るな。
そして淡々と告げるトーヤ。
「じゃあ、今日のアニキの出番はもう御終いね」
これは総当たり戦じゃなくてトーナメント戦なのだから、アニキにもう出番はない。
だが奴は首を竦めて、ただこう言った。
「そうか、それじゃあ仕方がないな。
では飲むとするか」
そう言いながら、ウエイターからカクテルのたくさん並んだ御盆を、それごと強引に強奪してぐいぐいと飲みだすアニキ。
飲み終わる端から、空いたグラスを床に投げ捨てていく。
ガラスが無残に砕けていく音響に、さすがに若いウエイター君の顔が引き攣っていたなあ。
まあ頑張れ、若人よ。
新作です。
『DNAにセーブ&ロード 【前世は散々でしたが、他人のDNAからスキルを集めて、今度こそ女の子を幸せにしてみせます】』
https://ncode.syosetu.com/n1584fh/




