136-6 酔拳とオニダム
「はい、王妃様の見事な腕前でしたね。
ドワーフの王太子様も見事な飲みっぷりです。
お次は神聖エリオンのファル様と、ベルーナラビット帝王アレク様の、ちょっともふもふな対決です。
はい、注目」
呼ばれていたのか、あいつ。
呼んだのはケインズかな。
アレクはケインズの大のお気に入りだからな。
奴のオニダムは、当人とまるで見分けがつかないようなウサギだ。
対するファルは大きなハムスターだ。
さすがにアレクほど大きくはないのだが。
大きいと的としてもでかくなるから、必ずしも力勝負とは言えないこのオニダムでは有利とはいえない。
そして互いに素早い攻防が始まった。
互いの豆が飛びかうが、相手に当たらないので流れ弾が周りの観衆を見事に打ち倒した。
すげえ威力だな、只の煎り豆なのによ。
あのベルーナウサギの頂点たる、親方よりもでかい図体をした野生動物のみっちりとした筋肉の持ち主である格闘ウサギ総長と、あれこれと覚醒済みであるスーパーな神の子の対決なのだから無理もないのだが。
たとえそれが、操られているだけのオニダムだとしても操縦者のスペックが反映されているのだから。
貴婦人が、貴公子が、煎り大豆で打ち倒されて綺麗に吹き飛んでいく。
その有り得ない光景の連鎖に、さすがの騎士団達も慌てた。
「節分、案外と危険だな。
おい皆の者、客を守れ」
それはケインズ、お前の勘違いだと思うのだが。
危険なのは節分ではなく、今回のメンバーである奴らそのものなのだから。
鬼の騎士団長ケインズの号令の下、鬼に扮した騎士団が身を挺して客を庇ったので、いきなり何か節分に相応しい光景が繰り広げられていた。
織原とベル君はケインズの両手で振り回されていて盾となり、騎士団の一員としての役割を見事に担っていた。
実に殊勝で立派な心掛けだ。
強制的にやらされているのがなんなのだが。
「痛い。
ねえ、騎士団長。
このぶ厚い着ぐるみの上からでも、この豆本当に痛いんですけど。
アイタタタタ、こりゃあ着ぐるみの下は痣だらけだな」
「アイタタタ。
本当に痛いや。
ねえ、織原。
あのウサギ、なんでこんなにパワーがあるの。
あれ、元は只のウサギなんだよね。
地球のウサギってモンスター?
モンスターなの?」
いや、ベル君。
試合をしているのは本人そっくりのオニダムなのだが。
「そんなもん俺が知るかよ。
少なくとも、あのアレクとかいう帝王ウサギは、他のハイラビットとは一線を画する化け物なんだよ。
そこのイカれた騎士団長を翻弄できる腕前なんだからよ」
哀れな二人は悲鳴を上げながら文句を言っているだけだ。
どうやっても、その状況からは逃げられないしな。
「お前ら、情けない事を言っているんじゃない。
騎士たる者は人々の盾になってこそ誉。
それでも栄えある王国騎士団の一員か!」
「あの、俺達は別に王国騎士団のメンバーというわけでは。
イタタタ」
「よしなよ、織原。
この団長にそんな事を言ったって時間の無駄さ。
アイタっ」
そして、その後も大いに弾除けとなって活躍した二人なのだった。
もう全身完全に痣だらけになっていた。
そんなもの、さっさと魔法で治せよ。
ああ、ケインズの前じゃ出来ないのか。
いや回復魔法なんていう情弱(情熱弱者)な物の使用は許されないんだな。
「やるね、ウサギさん!」
ファルに称えられて、にっこりと微笑むオニダム・アレク。
そしてカクテルにもふっと手(前足)を出す。
これは例のアレだな。
「オニダムのくせに酔拳を使えるのか?」
そして、その後もファルの神の子の機動を酔拳で見事に交わしたオニダム・アレク。
だが何か様子がおかしいな。
そして、ファルはさらなる機動に目覚めたか、瞬時にアレクの正面へと一気に詰めた。
さすがの酔拳アレクも避けられない。
そしてファルの奥の手が炸裂した。
ここまで封印してきた、必殺ハムスター頬袋。
ププププーっと噴出した豆が、機関銃の弾のようにアレクの急所という急所にすべて命中した。
本人は天然の厚い毛皮に守られているので、どうっていう事はないのだが、判定はすべて当たり……にはなっていなかった。
どういう訳なのか、ポイントはゼロ・カウントだ。
あ。
「あれ~。
ねえ、トーヤ御兄ちゃん。
どうなってるの、これ」
「あれ、そんなはずはないんだがな。
おかしいなあ。
どこかシステムが壊れた?」
全てを見ていた俺は笑いを堪えきれなかった。
鑑定くらいしてみろって。
「お前ら、そのオニダムをよく見てみろよ」
二人が注目すると、依然としてオニダムは身動き一つしない。
そして、しばらく観察するうちに、そいつはやがて鼻提灯を生産し始めた。
「あれっ」
「まさか」
「はっはっは。
こいつは本物のアレクだ。
別にズルをするつもりじゃなくって、白熱する中で本人も知らないうちに入れ替わっていたのだろう。
結構酒を入れたまま動き回ったからなあ」
「うわー」
さすがに、このアレクと雖も、そのあたりは如何にも動物っていう感じだなあ。
ファルが近寄って、場外にいたアレクの、やっぱり寝ているオニダムにププププ攻撃を食らわせたら、ちゃんと勝利の判定が出た。
「いやあ、まさかの操縦士本人の参加でしたね。
これは本人も含めて誰も気が付かなかったですね~。
そこまでスピードのある、いい試合でした」
「その手があったか」
思わず深く頷く王妃様。
当然突っ込んでやったぜ。
「大概にしとけや、おばはん。
いくらあんたが若作りだといったって通用するわけがねえだろ。
あのオニダムの容姿って推定十六歳くらいだよな」
「ほっほっほ、そこは気合よ」
「アホかーい」
「あー、王妃様。
申し訳ありませんが、これ以降の試合では操縦者が乱入した場合は即失格とさせていただきます」
「ちっ」
普通は操縦者は意図的に参戦せんけどね。
そんな事をしたがるのはあんたと親方くらいだ。
そして同じく舌打ちをしている親方がいた。
しかも、もう飲んでいるし。
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