134-5 食い倒れプラザ
「さて。
これで準備よしと」
俺は惚れ惚れするほどの出来栄えである『うどん神社』に見惚れていた。
うん、こいつは会心の出来だぜ。
もう大社と呼ぶに相応しいほどの立派な佇まいだ。
この間、日本の真理さんと一緒に見に行ってきた、日本の立派な神社の数々を参考にしてみたものだ。
その正面には、出雲大社に負けじと精魂込めた、それはもう立派な「丼に入ったうどん」を象った石の象があり、鳥居から正面へと続く道には両側に狛犬ではなく、やはりうどんが飾られていく。
いくら神社が、狐と狛犬が平然と同居するようなアバウトな物であっても、狛犬の代わりにうどんの像が飾られている神社はここにしかあるまい。
まさに、うどん神社だわ。
最高位の宮司さんは山本さんだ。
あの人は、この国で高位貴族扱いにされているので身分的にも遜色はない。
王族と普通に同席する事が当然視されているからな。
ここは王都の中心部にある王宮ゾーンだ。
この広い王宮前広場の屋外スペースで、寒い中熱々のうどんを賞味していただこうというわけだ。
今回は王宮ゾーンを一般国民にも開放して、うどんを食べていただく予定だ。
そして彼らに供される各国王様の手作りうどん。
別に王様ばかりが出るわけじゃあないのだが、王様のブースが人気になるのは間違いない。
そんな物、滅多に食べられるようなものじゃないからな。
地球なら絶対にない行事だわ。
名付けて『食い倒れプラザ』だ。
うどん県で、うどんを食い倒れ回るような真似が、この広場だけで可能なのだ。
何しろ広いからな、ここ。
小型の飛行場がすっぽりと入るほどだ。
戦争で攻められそうになった時とかに国民の避難所にする事も考えて作られたそうだからな。
今は平和にイベントを行う事にも使える。
あの異世界五月病の時の御祭りなんかにもな。
「あら、なあに。
また変な物を作っているの?」
せっかく見に来てくれたのに、奥さんったら何て事を言うのか!
どうしてこう細君という者は、旦那のやる事に理解がないのだろうか。
「ふ。何を言うか。
これこそは『うどん県』にて由緒正しき、うどんの神を祀りし崇高な『うどん大社』であるぞ。
者ども、頭がたかーい」
「もう、嘘を仰い。
そのうち山本さんに怒られますよ」
「ちっ、ばれたか」
最近、うちの奥さんが日本通で困る。
トーヤ達の影響だな。
異世界で普通にネットが通じていてPCが繋がっている光景は実に不思議だ。
元々、俺が異世界に持ち込んだPCはあったのだが、それはウインドウズ7のウルトラブックだった。
今となっては旧式で完全にパワー不足だ。
動かない訳ではないのだが、色々と支障が出てきてしまっている。
このPC旧式化が、日本へ行きたい理由の一つだった。
いつか、そのうちに使えなくなっていただろう。
たとえ再生して新品にしてやっても、あまりにも旧式のマシンでは能力が圧倒的に不足しているので、ネットに繋いだ瞬間に殆ど動かなくなってしまうのだ。
今はそこまで酷くはないのだが、昔のモデム回線やISDN回線あたりからADSLへと急激に高速回線へ移行していく時は酷かったな。
店舗などでADSL回線を契約してもらうためにデモ展示で使用している中古のPCが旧式過ぎて、12Mbpsとかの速度で流入してくる情報を処理出来なくて、まったく動かなかったからな。
逆にその事実が契約回線の高速性を際立ってアピール出来ていたという大変おかしな事になっていたのだが、デモ展示場で全然デモになっていなかったから、それもなんだよな。
OSのサポートも切れるしね。
今シルが使っているのは、ウインドウズ10の超高性能デスクトップマシンだ。
まあこれだって、あっという間に旧式化する訳だけど、五年後とかでもウインドウズ7よりは遥かにマシな物さ。
最新の第9世代のインテルCPUを搭載し、最新規格の64GBメモリを搭載し、記憶デバイスは2TBの起動用SSDと、8TBのHDD二基をレイド規格で連装している。
むろんブルーレイ・プレイヤーも搭載済みだ。
奥さんは大概映画鑑賞に使っているみたいだけど。
これらは全部トーヤの自作だ。
俺は面倒臭がりなので、日本からキットや拡張パーツを取り寄せると全部奴に任せた。
取り寄せるといっても、さすがに異世界までは配達してくれないので、日本にある俺のマンションに常駐しているゴーレムが受け取って持ってきてくれる。
尻尾ふりふり、ミミをわふわふさせながら嬉々として組み立てる姿にほっこりしたぜ。
奴のミミや尻尾は結構ふさふさなので、静電気の処理には凄く気を使っているようだ。
トーヤも、自分とエディの分は3Dゲーム用の六十万円以上もする最強ビデオカードを積んでいる。
それはPC組み立ての御駄賃として買ってやったものだ。
俺の分も作ってもらったが、俺のPCのビデオはオンボードだ。
専用の高性能ビデオカードなんか必要ないからな。
CPUも最新第9世代かつ一番性能が低い物をわざと選んだ。
高性能な物は発熱が凄いだろうから敬遠した。
俺にはそこまでの性能のPCは必要ないから。
自前の魔法PCがあるしな。
こいつは、もちろんOSなんか積んでいない。
なんというか、これはセブンスセンスがPCの形を取って、イメージとして具象化しているだけみたいな物だから。
これは異世界のスキルや魔法、それに魔力などを制御するためにイコマが作り出した代物であり、本来は異世界で手にしたユニークスキルなんかではない。
最初の神の時間にて、奴が必死になって創ってくれていたのを仄かに思い出す。
「時間がない時間がない」と焦りながら。
これは必要に迫られて奴が「でっちあげた」能力なのだ。
無論、それは異世界だから可能だったわけなのだが。
トーヤの物なんか、大型のタワーPCで大容量電源を積んだ水冷マシンだ。
それらにはオフィスソフトなども当然搭載されていて、そいつはうちの奥さんも最近は結構使いこなす。
もちろん、こちらの世界の言葉もフォントが搭載されている。
トーヤ達などにとっては、そんな物は最早使いこなされているスキルだ。
もちろん、この俺自身はあまり使いこなせていないのだが。
その他、シルは家族カードを使ってマンガ製作ソフトなんかも仕入れて、レミと一緒に液晶タブレットで御絵描きしている。
この食い倒れプラザ・うどん大社も、トーヤが即席でHPを作ってくれたので、既に地球のネットにも公開されている。
今、どんどん凄いスピードでブースが作られている最中なのだ。
もちろん作っているのは、うちのゴーレム達だが。
ブラウンゴブリン・ブースには華麗な彼らの芸術で飾り付けられており、一見の価値がある。
だが、もっとも興味があるのは、そのうどんそのものだ。
早く食いたいな。
「ねえ、ゴブリンの美味しいうどん、まあだ?」
「魔王様、まだ設備を作っているところね。
どうせなら、あなたも参加したらいい」
「俺は発起人兼客だから」という苦しい言い訳をしてみる。
「ははは。
魔王様、待つのも調味料のうちねー」
それは仕方がない。
でもわかる。
理屈でなくわかるぞ。
このゴブリンうどんは絶対に美味いはず。
なんというか、人族のうどんと根本的に違うというのか。
これを食い損なうなんていう失態はロスコー領主として絶対にあってはならないものなのだ。
もしかして俺はこれをセブンスセンスで感じ取って、このフェスタを始めたのだろうか。




