134-4 うどん打ちを学ぶ者
「おっす、魔王」
「おっす、爺さん」
リビングに寝っ転がる俺にスマホで呼ばれてやってきたのは、言うまでもなく『レミちゃんの御爺ちゃん』である。
この爺さんは、武が大昔に作った貴重なオリジナルバージョンの転移の腕輪を持っている。
正確には、それを借りて改良した物をバージョンアップしたコピーなのだが。
俺が作ったものは宝物庫にあった物のレプリカというか海賊版なのだが、性能的にはまったく遜色はない。
武がそう出来るように宝物庫で配慮してくれてあったものだからな。
いわば、『版権者公認の海賊版』という奇天烈な物なのだ。
それどころか改良されまくっているので、本家よりも性能は却って段違いなのだ。
「なあ。
爺さんも、うどん打ってみない?」
「うどん?」
「うどんだよ」
「なんだったかの、それは」
あら、獣人国では食べられていなかったか。
あそこでもアルフォンス商会が進出しているから、うどんくらい手に入ると思ったのだが。
ネコミミ獣人も別に猫舌ではないのだが。
うちのケモミミちゃん達はうどんが大好きなんだけどな。
地球から来た外人の子達も、うどんは大好物だ。
あの子達は東南アジア方面の子だから、元々国に麺料理があって御飯も普通に御箸で食べるしね。
「じゃあ、ちょっと一緒に来てくれよ」
俺は爺さんをリビングの隣の厨房に連れていき、館内インターホンで山本さんを厨房に呼んで、うどん打ちの実演をしてもらう。
「どう? 大体こんな感じなんだけど」
すると、ケモミミハイムの国王はやたらと気合を入れると上半身を開け、その逞し過ぎる肉体を披露した。
その目があまりにも真剣だった。
「いやいや、そんなに気合入れないと作れないものではないのだが」
むしろ気合を入れ過ぎると駄目だ。
かちかちな固いだけのうどんが出来てしまう。
「しかし、王たる者は何事にも気合を入れて臨まないといかん」
この世界の王って、こういう感じで妙に気合の入った奴が多いよな。
王なんていうものは、あくまで大人しく玉座にて成果の果実を捧げられる者なのであって、あの帝国のドランくらいの緩さで丁度いいと思うのだが。
あいつは王じゃなくて皇帝なんだけどね。
なんというかこう、『御仕事以外』の部分で気合を入れている奴が多いのだ。
「まあまあ、それじゃあ山本さん。
御願いしますよ。
良かったら先王陛下の方も覗いてあげてください」
「はは、いいですね。
ではネコミミの王様、私と一緒にうどんを作りましょうか」
山本さんは、いつも自然体でリラックスしている。
この世界に来て以来、見事に荒事からスルーされているし。
あの葵ちゃんだって緊迫する危険なシーンが何度もあったと聞くのに。
何か幸運な危険回避の加護でも持っているのだろうか。
おそらく、うどんの神あたりに愛されているのに違いない。
うどん県へ行くと、きっと全ての神社に丼ごと「うどんの神」が祀られているのだろう(四国へ行った事がないので適当)。
よし、今回のイベントに合わせて作るか、うどん神社。
なんだったらファルを『うどんの祭神』として祀っておくかな。
あの子なら、どれだけうどんを御供えされても美味しく食べられてよ。
「まあ、あちこちの王様が出場するんで、諸国の王様との親睦会みたいになっちゃっているんだけどさ」
「なんだと、それならケモミミ族の威信にかけても負けてはおれんわ」
おっと余計に火がついちまったか。
俺はトーヤとエディを呼んで、爺さんを見ておいてくれるように頼んだ。
「悪いが、ちょっと爺さんを見てやっておいてくれ。
お前らケモミミ族の王様なんだしな。
何、ちょっとうどんを作るだけなんだが、なんか知らんのだが妙に張り切っているんでなあ」
「あはは。
御父さんの方はアニキがセコンドについているみたいだから、じゃあ僕達はこっちに」
そのうちに、ケモミミの王がうちの子供達にうどんを振る舞ってくれる事があるかもしれないな。
この王様、うちのケモミミ幼児達からは熱狂的な人気があるので、それもよかろう。
でも孤児院慰問で手打ちうどんを振る舞う王様なんて普通はいないよなあ。
一応、サイラスの国王にも打診はしてみたが、残念そうにしていた。
「いやあ、うどん打ち、楽しそうですよねえ。
うちもよく作っていますよ。
地球でいうところの東南アジア風になるのかな。
香辛料たっぷりのスープで煮込んだ麺は堪りません。
地球の料理でいえば、主にうどんと中華麺風というか、やはり東南アジア風でしょうか。
タイカレーならぬサイラスカレーといった趣の料理も盛んですしね。
残念ですが、私自身は公務で行けそうにありません。
騎士団から腕の立つ奴を送っておきますよ」
「わかりました。
それでは楽しみにしておきます」
腕の立つ奴ねえ。
それってうどん打ちの腕前の方の話だよな。
残念というからには、やはり自分でも打つのだな。
その他では、うちの管轄からは『ブラウンゴブリン』が出場する事になった。
「稀人料理であるうどん、とても美味しいです。
あの味は魂を安らがせてくれます。
是非参加したい」
などと言っていた。
意外なところで流行っていたな、うどん打ち。
『不思議の森のゴブリン』の作者ツェペリではないが、この連中の食い物は馬鹿にならねえ。
今までも、彼らの賄飯を御馳走になって度肝を抜かれた事が何度もある。
それを食した、うちの料理長ジョバンニも一頻り唸っていた。
彼は平民出身でありながら、腕一本で身分の差を撥ね退けて王宮の副料理長にまで出世していた凄い人なのだが、その彼を以ってして激しく唸らせる物なのだ。
稀人の国から輸入された食材を得て、ブラウンゴブリン達も更にインスピレーションが冴えているらしい。
あとは当然の如くにエルフ新町からも参加だ。
今晩、大うどん大会を開いて出場選手を決めるらしい。
予選までやっているのは、あそこだけだな。
あと、俺の管轄では地下帝国の連中がいるが、あそこは聞くだけ無駄だな。
既に地下帝国の重鎮であられる皇女様のハルには味見くらいしていってもらうとしよう。




