134-3 参加する国王たち
ハイドのシド国王にも電話してみた。
「うどん大会? いいですね。
うちは自慢の海産物で勝負しますよ」
うーん、今から涎が出そうだ。
きっと出汁に拘るつもりなのに違いない。
昔からハイドでは、いわゆる『あごだし』みたいな物が伝統の出汁として使われているようだ。
まったくもって相変わらず侮れないというか、異世界の王国には似つかわしくないよな。
あの金髪貴公子が、身重の奥さんのために割烹着に身を包み、味見皿で出汁の具合を見ている。
そんな風景が一瞬脳裏に浮かんでしまった。
あいつも子煩悩な男だし、熱愛の末に結ばれた奥さんを溺愛しているしな。
そんな事をやっていても、まったくおかしくない。
和食は健康に良いというのを聞いて、ハイドでも和食率が上がっているようだ。
元々、国内で米が流通していて海産物も豊富なのだ。
米や醤油、そして味醂や酒も供給されている。
化学調味料の流通は、『主神ロス』とファルの名において俺が流通を禁じている。
あれだって本来は決して悪い物ではないのだが。
どういう物か説明したら、まずミハエルが渋い顔をした。
エリーンも渋い顔をして「そういう物を使った料理や食品は食べたくない」と言った。
あれに慣れてしまうと舌が麻痺しちゃうような物だからな。
食い物の本当の味がわからなくなるらしい。
エリーンにとっては鬼門もいいところだろう。
そして『王妃様』が「化学調味料の国内における流通を禁じます」と言われたので決定した。
今ではイスラム教国で豚のエキスが入った食品の販売を禁じるくらいのレベルで、化学調味料の入った食品の日本からの輸入は禁じられている。
御菓子には添加物の類は相当入っているんだけどね。
それもメーカーに対して、日本政府と『ハンボルト家』を通して強く要望を出している。
それをやると御菓子の賞味期間が極端に短くなってしまうのだが、そいつはアイテムボックスでカバーする。
さすがに日本で流通させるのは無理な代物だ。
親方は向こうから電話が入った。
ミミ付きの方の息子から聞きつけたらしい。
「おい、うどんの大会をやるそうだな。
俺も参加させろ」
「ああ、アルバトロス王国主催の国際大会だから招待状は送るけど。
いつも、どんなうどんを食べているんだ?」
「ふふ。
自慢の『ドワーフうどん鍋』を食わせてやろう」
「そうかあ、そいつは楽しみだなあ」
ドワーフといえば力任せにガチガチのうどんを作っていそうなイメージがあるが、この連中に限ってそれは絶対にない。
御祖母ちゃんが作るように優しく優しく作っているのに違いない。
きっとミシンに取りつくかのように、ちまちまと背中を丸めながら生地を捏ねて作った、ふんわりとした喉越しのうどんで、それでいてしっかりとした腰を楽しめるはずだ。
歯でプツンと心地よく噛み切れるような最高の物を作っていやがるのに違いない。
今ではもうすっかり、酒の締めに麺類は欠かせないらしいからな。
親方自ら麺を打ち、それを皆に振る舞って日頃の苦労を労うのに決まっているのだ。
「麺打ちこそ国王の本懐である」とか「麺打ちこそ国王の責務である」とか言っていそうだ。
アニキも、次期国王を目指して麺打ちの修行に励んでいるのに違いない。
ただ、それだとまた鍛冶と麺打ちしかしない国王が誕生してしまいそうだが。
麺打ちする国王といえば、もう一人いたな。
「よお、アルス。
今忙しいかい?」
「いやあ、園長先生。
御久しぶり~。
年末年始は忙しかったー。
今ようやく遅い正月休みに入ったとこさ。
良かったら遊びにいってもいいかい?」
「うちは、いつでも歓迎だけど。
実は国際うどん大会をやるんだ。
各地から国王自ら参加するんだぜ。
お前も元祖料理人国王として出てみちゃあどうだい?」
「いいね。
いやあ、今でも仕事に煮詰まると、気晴らしに自分で王宮の厨房へ行って夜食を作るとかしているのさ。
今は日本製の調理器具があるんで、さっと作れるから嬉しいね」
「じゃあ、招待状を送るからよろしくね」
何かこう、国際大会というのでなく『王家対抗うどん合戦』みたいになってきたなあ。
さすがに主催国の現役国王を担ぎ出すのはなんだ。
王妃様あたりが出たがるかもしれないが、あの人にはホステスとして大人しくしていてもらうとして。
俺は離宮の、ある部屋を訪ねた。
「ねえ、国際うどん大会をやる事になったんだけど、『爺ちゃん』も出るかい?」
すると、寝転がったままネコミミ装備の『曾孫』と遊んでいた『ひいおじいちゃん』が、むっくりと起き上がった。
そう、それは我らが御隠居、先王フウウンジ様だ。
俺から見たら義理の御爺ちゃんに当たる方なのだ。
あれから調べてみたら、他にも歴代王様の中に奇天烈な名前の人がいたな。
いろいろと日本語が間違って伝わっているらしい。
いやこの方もマジで風雲児だったのは間違いないところなのだが、さすがに本名にしちゃうのは微妙な単語だ。
「ほう、うどんとな」
この爺さんも麺打ちが好きなんだよな。
その気持ちはわかる。
彼だって稀人子孫の一人なのだし。
日本人なんて、おっさんや爺さんになってから何かのスイッチが入ると麺打ちを始めるんだ。
不器用な俺なんかはもう諦めて、最初からパスタ・メーカーの御世話になるのだが。
「あちこちの王国から現役の国王がやってきますよ」
「それは面白いのう。
では、この儂がアルバトロスの代表を務めるとするかの」
「うどん~」
レミが嬉しそうに飛び跳ねる。
そう、この子と初めて出会った時に振る舞ってあげたのがうどんだった。
あのうどんは、この子の運命を新たに切り開いてくれたのだ。
いやそれどころか、あの肉スープのうどんからケモミミ幼稚園は始まったのだ。
そして、そこから遊園地やこの離宮などが増設されてきたのだから。
「肉うどんから始まる異世界離宮建設」
そう言ってもおかしくはない出来事だったのだ。
いや、『グランバースト公爵家史』を読み解いていけば、後世の世でそう解釈する人間もそう少なくもなかろう。
というわけで、今回のお話がここから湧いたのは理に適っている。
そもそも、なんたってこの離宮が山本さんの本拠地なんだからなあ。




