134-2 アルバトロス王国・国際うどんフェスティバル
エバンス爺さんに至っては、この転移魔法などが大嫌いな爺さんが言ったものだ。
「自ら赴き、各地で美味い蕎麦粉を探さねばならん。転移の腕輪を寄越せ」と。
今まで、こんな理由であれを寄越せと言われた事は初めてなのだが。
どの道、初めて行く場所なんかだと連れていってもらわないと空間座標が定められないのだから、ゴーレムに送ってもらった方がいいのだが、まったく聞く耳は持っていない。
そんな理屈は、この爺さんには通用しないのだ。
もちろん、蕎麦はケモミミ園の給食にも出されて大好評を博している。
そして蕎麦打ち講習とか、簡単な汁の作り方なども授業に盛り込まれていった。
園児だって自分で作って食べたい子はいるので、爺さんもにこにこしながら教えている。
この食に対しては厳しい爺さんも子供には甘いよな。
また希望する貴族家の者には転移魔法で迎えをやり、山本さんによる『アルバ王宮・うどん御指導会』なども開催したものだ。
山本さんは『うどん大師』の称号を持っている。
例によって本人には知らされていないのだが。
エリの『大師』の称号は、もう本人にバレてしまったので、こちらは楽しみにキープしてある。
貴族家では、それぞれの家の調理人に自慢のうどんスープを作らせて、それを客人に振る舞うのだ。
それらの中には素晴らしい味の物もあり、アルフォンス商会から依頼して商品化させてもらい、『○○家秘伝の味』などとして国内外で販売している。
もちろん山本さんの監修だ。
あくまでインビテーション制であり、本人から申し込めるようなものではない。
うちからの御招待で呼んでいただくしかないもなのだ。
向こうから呼んだって来るようなものではない。
〇○○大使だったら超音波笛でも吹いて呼べば飛んでくるかもしれないが、これはそういう訳にはいかない。
それに、やたらにそういうものを吹くと、この世界ではフェンリルみたいな物を召喚する事になる。
うちの犬達はそういう物に非常に敏感だ。
どちらかというと、プリティドッグを召喚する方が大惨事となるケースが多いのだが。
各地の貴族家にとって、このインビテーションを受ける事は大変名誉な事であり、山本さんを家に招待したくて仕方がないのだが、やたらな事をすると俺の逆鱗に触れてしまうので自粛している。
万が一、そういう話が来たらゴン太を代理で派遣する事になっている。
実はゴン太もうどんくらいは打てるのだ。
あいつって本当に器用。
よく自分達であれこれと作って食べているし。
奴らから頼まれたので大型の調理器具や竈はあらかじめ用意しておいた。
あいつらはブレスを調節して、本当に上手に火加減を整える。
五十メートルサイズのドラゴンが莫大な材料を用いて、うどんや蕎麦を自分で打って食べている姿は、いつ見てもシュールとしか言いようがない。
不器用な飼い主が完全に負けているなあ。
俺と山本さんは、そういうケモミミ園を取り巻く麺類事情に心を馳せ、思わず笑みを交換した。
「やりますか」
「やりましょうかね」
「「うどんフェスティバル!」」
そういうわけで、唐突に美味いうどんが無性に食べたくなった館の主と天下の『うどん大師』様の思惑が一致したので、うどんフェスティバルなるものの開催が突然決まった。
こういう事は今に始まった事ではないが。
バレンタインデーなんかも最初は当日にイベントを始めたしなあ。
そういうわけで、新年の重要イベントを終えた王家を訪問して開催を要請したわけだ。
「うむ。
経済の活性化のためには、色々と各種イベントをやっていかんとな。
よかろう。
どうせならば国外からも参加者を迎えたいものだのう」
かくして、アルバトロス王国主催の国際うどんフェスティバルが催される事となった。
とりあえず顔見知りに声をかけてみる。
「よお、ドラン。
うちで国際うどん大会を開く事になったんで参加しないか?
うどん作りは参加する事に意義があるんだぜ。
いや参加するよな。
というか、今やベルンシュタイン帝国もアルバトロス王国の友好国となった訳で、まさかうちの王家が主催するイベントに参加しないなんて馬鹿な事は言わないよな」
「それが何故うどん大会になるのかよくわからないが、最近何故かうちの宰相がよくうどんや蕎麦を作って食べさせてくれるのだ。
あれも結構美味いものだな。
仕事の方も一区切りついたので、あいつを行かせよう。
なんでも立派な蕎麦うどん職人にならないと、あのエリーンを嫁にもらえないとか言っていたが、一体どうなっているんだ。
あの二人、少しくらい話は進んでいるのか?」
「さ、さあなあ。
まあ、以前よりは親密になっているみたいだぞ?」
両名の雇用主同士で機会だけは作ってやってあるのだが、いつの間にかエバンス爺さんの御許しがないとあの二人は結婚出来ない事になっているのだろうか。
別にそれでもいいんだけどね。
このアルバトロス王国随一の食通と言われたエバンス爺さんは、偏屈なのもまた音に聞こえていたのだからなあ。
そういう事は貴族にはありがちな話だよな。
美味い物には目がないエリーンとは当然仲がよく、まるで本当の爺さんと孫娘のようだ。
爺さんは、今では領地に残してきた中年息子よりも、あのエリーンの方を可愛がっている。
まあ、それもありなのかもしれんな。
どの道、エリーンと結婚するなら美味い物を作る技術はいくらあっても足りないだろう。
リヒターの奴も【一生美味しい物を食べさせてあげますから】などと言っていたのだから、責任を取って頑張るしかないな。
最近では貴族連中もグランバースト公爵家やアルフォンス商会の影響か、当主自ら美味しい料理を振る舞う風習が増えた。
おかしい。
『俺が』公爵家の当主として、自分で料理を振る舞った事など只の一度もないのだが。
主に活躍してくれていたのは、エリに山本さんなどの大師勢に、そしてエバンス爺さんだ。
離宮には王国からの紹介でとびきりの料理長ジョバンニも寄越されている。
居候だったあの織原だって、その方面では頑張っていたというのに。
この風潮で一番肩身が狭いのは、何を隠そうこの俺だ。
かつては異世界食材を唯一所有していたアドバンテージがあったのだが、アルフォンス商会を通じてそれらをバラまき、また日本からもあれこれと輸入して普及させてきたので、俺個人の優位など最早どこにも存在しない。
というか、料理に目覚めた他の奴らが頑張っているので、この分野では貴族社会の中でも相対的に俺の地位が著しく下がってきているようだ。




