134-6 国際うどんフェスティバル開催
そして少々待たされつつも、無事に国際うどんフェスタが開催される運びとなった。
せっかく王宮前広場でやるので、モダンな王宮正面にある入場受付ロビーの屋上の閲兵観覧席に事務局を設置し、国王陛下にも開催の御挨拶を頂いた。
「皆の者、この寒い季節によくぞ集まってくれた。
今ここに、偉大なる我が先祖稀人初代国王の生まれ故郷における催しである国際うどんフェスティバルを開催出来てアルバトロス王国としては感激の至りである。
どうか、その腕を存分に振るって、大会を盛り上げていただきたい。
また来賓の各国国王などの御参加御来場に感謝する。
それでは、これにて大会の開催を宣言する!」
いやあの、陛下。
これって、特に日本でやられる催しというわけではないのですが。
いやもしかしたら、俺が知らないだけで東京あたりで本当にやっていたりするのかもしれないけど、やっていたとしても特に王様は参加していないよね?
それに日本の国に王様はいなくて、現在世界で唯一のエンペラー格である天皇陛下しかいないし。
傍でミハエルが苦笑しつつ俺の肩を叩いてくれる。
こいつも正月明けだというのに余裕だな。
まあいいか。
陛下も、あんなに喜んでいるんだから。
山本さんも嬉しそうだし。
瑠衣も暖かそうな格好をして葵ちゃんに抱かれており、きょろきょろしている。
この子って、この世界で生まれた純日本人の子供としては第一号なんだけど(他にもどこかで日本人同士で結婚して子供を作っている奴がいるのかもしれないが)、こんな王様のいる場所でごく普通に居場所があったりする。
この子も中身はアレなんだけど、大人しいから助かるぜ。
レオンなんか赤ん坊の頃はやりたい放題で皆がはらはらした。
最近はそういう事はないのだが、悪戯がパワーアップしているらしい。
アントニオが苦笑いしてそう話していたが、それはまだ子供なんだからしょうがないよな。
あの子の場合は悪戯する力が半端ないのが困ったものなのだが。
それでも、あまり人に迷惑かけない気配りはあるらしい。
あの子が生まれた時には、このおっさんもきりきり舞いをさせられたものだった。
まあ男の子なんて、そんなものさ。
逆に、チビの頃からそれくらいの元気がないようでは『王国の剣』の跡取りとしては却って心配になろうというものだろう。
俺も会場を見回したが、中々の盛況だった。
王都中から国民が集まっている感じだ。
ただでうどんを食わせてもらえるし、何しろ王家主催の御祭りなのだ。
いつぞやの結婚式をやったハイドのように御祭り騒ぎになっている。
仕事があってここまで来られないような奴もいるのだが、一般市民区の方でも「うどんフェスタ」の展開をしているので、中々の賑わいを見せているようだ。
人が多くこちらに来てしまっていて、逆に向こうで仕事にならない奴なんか、もう早々と店仕舞いにして、こちらへ遊びに来ている。
身分さえしっかりしていれば、グランバースト公爵領の公民としてアドロスの人間も王宮ゾーンまで入れてもらえる。
その辺を日本人感覚でしっかりとやり過ぎて、逆に地下帝国の住人のような連中を生んでしまったミスもあったのだが。
かつての棄民都市、無法地区としてのアドロスは、もう歴史の教科書の中にしか存在しない。
まるで香港の九龍城砦みたいな場所だな。
生憎と、アドロスにあるのは城ではなくて離宮なのだが。
それにここは寄り集まった悪が蔓延って無法地帯になったのではなく、王国に半ば捨てられて悪徳貴族や盗賊ギルドなんかに食い物にされていたからああだったのだ。
まあ、そいつらは俺が全部成敗しちまった訳なのだが。
だから俺の称号欄に貴族殺しの称号があるのだ。
本日は兵士達も大勢が入場チェックに駆り出されている。
あちこちの国の間諜も、ここぞとばかりに入り込んでいるのだろうが、その実態を見て呆れて帰るのが関の山だろう。
何しろ、これに参加してうどんを茹でているのが、自分の国の国王だったりするのだからな。
中にはちゃっかりと、それを御馳走になっている奴もいる事だろう。
連中にとっても、うどん食い倒れを仕事にできる実にいい一日なのだ。
熱いうどんを食べまくるイベントなので、エアコン魔法による会場の加温はほんの少しに留めてある。
そうしておいた方が絶対に美味く感じる事だろう。
そしてイベントで一番困るのがトイレ問題なのだ。
俺の街の桜祭りでも、女性はどこへ行ってもトイレで長蛇の列をなしている。
だがそれこそ、まさに俺の十八番と言っても過言ではない。
女性用のトイレを男性用の三倍の数用意してあるのも世間様から評価が高いのだ。
トイレだけは大量に用意しておいた。
「男性用よりも三倍女性用トイレの数が多いなら、そこはグランバースト公爵家主催のイベントだ!」
そのように言ってもらえるだけの自信はある。
足りなければ追加でいくらでも増量が可能なのだし、スペースそのものがなければトイレ設置のためだけに空間すら拡張できるのだ。
それは世界で最も有用な空間魔法の使い方だと自負している。
「さて、俺達も行ってきますね」
そう言って本部を御暇する。
ここへは各ブースからうどんが届けられるのだが、それでは味気がない。
あちこち食べ歩いてこその食い倒れ。
さっきから、おチビの催促が激しいのだ。
腕の中で見上げるレミの尻尾が俺の顎をくすぐりまくっている。
愛娘よ。
そこは魔王の弱点だから、よして。
あの餓死しそうなほど空腹だった日に食べられた、『命のうどん』の味が今でも忘れられないレミちゃんなのであった。
そして第一の攻略目標は『仲良しのアルスちゃん』のところだ。
未だに我がネコミミ公爵令嬢にとっては愛馬であるらしい、板前国王の作るうどんなのである。
俺も今や一国の主となったアルスが、どんなうどんを作ってくれるのか非常に興味があった。
「やあ園長先生、いらっしゃい。
レミちゃんも、こんにちは」
既にいくらか出来ている列の向こうで笑顔のはち切れる美青年のアルス。
そのアル・グランド王国ブースの傍には誇らしげに、五芒星風に星のマークをあしらった王家の紋章と鷹の国旗が掲げられていた。
かつては、どこか憂いを帯びたような表情を時折見せていた好青年も、今はその片鱗もない。
彼はかつての王太子として本懐を遂げたのだ。
あの時は大変だったな。
なぜか俺がメインプレイヤーになってしまっていたし。
まあ、色々とゲルスの連中に借りを返す意味合いもあったので別にいいんだけど。
あの馬鹿どもは、よりにもよって幼稚園関係に魔界の鎧なんかを送り付けてきやがってからに。
本当に碌でもない連中だった。
まさかジョニーと組んであんな大立ち回りをする日が来ようとは思っていなかった。
だって、あいつも犬体形になると、あまりにも可愛すぎるのだ。
今日も、その係累のワンコどもは、この王宮前広場を走り回っている。
一応はフェスティバル参加資格として『スープも含め、肉抜きメニューを必ず入れる事』を条件に出してある。
スープの材料に肉が使ってあるくらいなら全然大丈夫なのだが、あまりぎとぎとしているのは子犬達が嫌がるのだ。
ジョニーの奴は別にそう大して気にしないのだがな。
アルスは俺達の番になると、懐かしの肉スープうどんを出してくれた。
うちの子供達のために用意してくれてあるのだ。
なんとなく和風な感じの優しい味だった。
たぶん出汁の関係かな。
本日はイベントなので、透明カップやスチロール丼のような使い捨て容器を用いている。
これもあまり多用すると健康に問題がある可能性もあるので日頃は使わないのだが、今日は使ってある。
さすがに、こんなイベントでは使い捨て容器を使わないと大変だ。
今回は食い倒れ企画なので、少し小さめの容器に入れてくれてある。
子供用は試食用カップに毛が生えたようなものだ。
「おいしいの!」
レミは瞬く間に平らげてしまって、まだ食べたそうにしていたので、まだ残っていた俺の分をやった。
この子も、本当によく食べるようになったぜ。




