124-9 至言の間
「宿はこっちよ、御二人さん御案内~」
真理が案内してくれたチェックポイントに併設された宿は、なんというかコンテナハウスのようなものだった。
これは簡単に収納したり設置したりできるので採用されているようだ。
そして、これまたコンテナを改造した店舗の食堂へと案内してくれる。
「へい、らっしゃーい」
中では当番のゴーレムシェフが愛想よく声をかけてくれる。
だが二人は思案している。
「どうしたの、晩御飯を食べないの?」
「いやあ、僕達お金ないんで」
「これは講習用に用意されたものだからお金は要らないわよ。
御腹いっぱい食べて頑張りなさい。
せっかく来たんだから、せめて完走ポイントくらい貰って帰りなさい」
「あー、やっぱり完走すると評価してもらえるんですね」
「ええ、『根性ポイント』がつくわよ」
それを聞いて微妙な顔をする彼らに、真理はにっこりと笑って言った。
「あとね、この講習には往復コースもあるんだけど、どお?
あれは参加するとポイント高いのよ~。
途中リタイヤでも参加しただけでプラス評価が付くし、リタイヤしても特に減点もないわ。
しかも完走出来たら王都学園の卒業が確実に保障されるというスペシャル特典付きなのよ」
それを聞いてガタガタと震え上がる二人。
そこまで厚遇という事は、きっと半端ではない試練に違いないのだ。
こんなところで宿屋にドンケツでゴールしているような二人組が参加したら、きっと死んでしまうのに違いない。
「え、遠慮させていただきます。
僕らなんか五十階ゴールで頂けるポイントだけで充分ですとも!
な、なあ?」
「お、おう。
もちろんですよ~」
かなり無理矢理な怪しい笑顔を作って辞退する二人組。
「そーお? それは残念だわあ」
悪魔の誘惑に失敗して、かなり残念そうな錬金魔女様。
「でも気が変わったら、いつでも言ってちょうだい。
そっちは卒業保障のビッグな特典付きなのは忘れないでちょうだいね~」
それよりも、この貧弱な二人にとっては自分達が本当に五十階まで辿り着けるのかどうか、まずそれが問題なのであった。
晩御飯は大根サラダにカツ丼、それに野菜たっぷりラーメンとニンニクたっぷりのスタミナギョウザまでいってしまった。
まだまだ明日も歩かねばならないのだ。
そしてパウルが宿に戻って部屋に入らせてもらったら、バストイレ付きのワンルームの部屋にはこんな言葉がでかでかと掲げられていた。
漢字の下に、こちらの言葉でも書かれていた。
漢字の方を書いてくれたのは、もちろん山本さんだ。
【歩けば歩くほど健康 船橋武】
「うわあっ。この船橋武って、確か初代国王様の稀人名だよな!」
最近では初代国王に纏わる色々な物語が、地球風に印刷されて配布されているのであった。
かつては知られていなかった船橋武という初代国王の真名も、学園の授業で教えられるほどだ。
生徒達は全員初代国王の名前を漢字で書けねばならない。
そして今回の講師である真理という人(人ではない)が、かつてその初代国王に作られた相棒のような存在であった事もこの講習で知らされた。
「今回の企画でこんなに歩くのは、この格言のせいだったのか……」
ややゲンナリしつつも風呂に入って休むのであった。
今日の疲れはとっておかないと明日が大変だ。
そして翌朝、起き上がろうとして思いっきり情けない悲鳴を上げた。
「こ、これは~!」
それは筋肉痛だった。
全身を激しい筋肉痛がビリビリと襲い、真面に動く事もできない。
「まいったな。
ト、トイレが……」
そしてドアを弱弱しくノックする音がした。
「どうぞ~」
ノックの主などわかっている。
ここには他に、あの鬼講師くらいしかいないのだ。
「あいつめ、見上げた根性だぜ」
「お“、お”ばよう」
ギギギギという擬音を発するかのような感じで開けられたドアの向こうには、苦痛に顔を歪め、半分白目で脂汗をだらだらと流しているベンの姿があった。
もうちゃんとした挨拶になっていないし。
何故か部屋にあらかじめ置かれていた杖と言うか棒というか、そんな物で体を支えるというか寄りかかるようにして。
それは正しく、そういう用途のために置かれているのだろう。
只の棒は、その使命を見事に全うした。
「やっぱり、お前もか。
あまり無理をするなよ」
「ぐばばば」
「もういいから、お前も部屋に戻って休めって。
今日は僕達もう駄目だよ。
どうしたらいいか、また明日になったら考えようよ」
「ぶばぶば」
頷きながら、なんだかよくわからないような返事をしてベンは帰っていく。
まるでお漏らしでもしそうな感じで、よぼよぼと杖によりかかりながら、ふらふらと自分の部屋(隣へ四メートル)へと帰っていった。
「なんてこった」
とりあえずは、本当に御漏らししなくて済むように、ベンのように根性を入れてトイレに行こうと考えたパウルなのだった。




