124-8 貸切二名様御案内
とりあえず気を取り直して御弁当を食いだす二人。
パウロの方は唐揚げ・チキン南蛮タルタルソース弁当だ。
ボリューミーでジューシーな、まだ温かい弁当に夢中で齧りついた。
ベンの方は特大ハンバーグ・ポテトサラダ&ミートソース・スパゲティ弁当だ。
特盛だと普通のコンビニ弁当の二倍の量がある。
最近、学園の近辺にもアルフォンス商会のコンビニが出来て大盛況なのであるが、生憎な事に極貧生活であるので縁がなかった。
コンビニバイトも人気が集まっていて、出遅れたので採用されるのはちょっと無理だった。
採用されれば残り物の弁当とかを貰えそうだったのに。
まあ人気が有り過ぎて、売れ残りの弁当などまず無いのであるが。
そんな冴えない二人だったので、こんな形でコンビニ弁当にありつけるのは実に嬉しい出来事だった。
何だか非常に頑張れそうな気がしてきたのだ。
だが、それはきっと気のせい。
逆に下級貴族の子弟連中などは、この庶民の憧れであるコンビニ弁当にボヤいていた。
「ああ、畜生。
当分コンビニ弁当三昧か。
確かにこいつも美味いのだが、さすがに毎日これではなあ。
我が家の料理人を連れてくればよかったぜ」
「まあそうボヤくなよ。
ちょっとの間の辛抱さ。
ここで頑張っておかないと俺達なんか卒業出来ないかもしれないだろ。
俺達は王族や上級貴族とは違うんだからさ。
最後にちゃんと卒業出来なかったなんて言ったら、親父にぶっ殺されるわ」
「確かにな。
ああ、もうちょっと、あれこれと頑張っておけばよかったぜ」
「まったくだよなあ」
それでも今日は体力をつけないといけないので、文句は言いつつも残さずに食べるのであった。
貴族の子弟も実はコンビニ弁当とかは大好きなので、コンビニは王宮ゾーンには外国の賓客用の区画付近に一つ、王家の使用人や王宮勤め用の区画に一つ、総合庁舎の方に二つある。
学園に出来たのはアルバ王宮ゾーン五号店だ。
学生にコンビニなど贅沢と言われて長らく作られなかったのだが、普通は学生なんかが立ち入ってはいけない王宮にまで買い食いにきては怒られている学生が後を絶たなかったので作られたという、いかにも学生向けの店らしいエピソードがある。
終いには、とうとう侯爵である学園長先生が国へ陳情してくれて、王命によってついに出店したという曰く付きの店なのだ。
この王宮ゾーンでは、ハイドのシド国王とかドワーフの大王とかも奥様である王妃様を連れて、仲良くコンビニ袋を提げて歩く姿が頻繁に目撃される。
親方に限っては、皆が目を合わせないようにして、そそくさと通り過ぎる。
ヤクザか!
もっとも日本で親方と出くわしたとしたならば、ヤクザだってそうするのだろうが。
うっかりとヤクザが親方に因縁なんかつけようものなら、鍛冶製品の如くに根性を叩き直されてしまうだろう。
鍛冶製品は特に根性が曲がってなどいないのだが。
「さて、食休みもしたし出かけるか。
せめて今日中に宿のあるゾーンまでは行くぞ」
「まあ無理はよそうぜ。
貧弱な僕らの足じゃあ無理は利かないよ」
「ええいっ、自分で貧弱言うなあ!」
ベンはそう言ってパウロを嗜めたが、まあ現実問題として貧弱な事に何ら変わりは無いのだった。
そして歩いた、歩いた。
時折、どちらかが「ちょっと休憩」と言いだすので、中々進まないのであるが。
そして予想以上に腹が空く。
携帯食のバーを齧りながら歩くが、それでもエネルギーを消耗するのですぐに腹が減る。
そしてついにそれらが尽きて、残りはドリンク一本となった。
実をいえば、ここはまだ序盤なので、そうそう補給に精を出す奴もいないからと、ここでは中間の補給所を作っていないのであった。
ここで手持ちを使い切る奴がいるのは想定されていなかったのだ。
ちなみに、この二人がラスト・パーティーである。
「なんかこれ、もう僕達は行き倒れになる流れなんじゃない?」
「言うなよ。
まだ最後の手段が一本残っているじゃないか。
あ、ほら見ろよ、二階のチェックポイントだ」
「助かった!
これで遭難しなくていいみたいだな」
インビジブルで姿を隠している二人の御付きをしているゴーレムは、採点ボードを持ち出す事すらせずに頭を振った。
姿が見えないだけで気配を隠してもいないのだが、二人はまったく気付く素振りもない。
この二人、ここまでの間に加点0であった。
何のためにこれに参加したものやら。
無事にゴール出来たら御情けで完走ポイントが貰えるから、せめて完走出来る事を祈るばかりだ。
そこで可愛いゴーレムさんから御弁当をもらって、やに下がる二人。
無事に可愛らしいプリティドッグ柄のスタンプを押して、さっそく弁当に被り付く。
「おお! 今度はステーキ弁当じゃないか。
特盛御飯にどんっと熱々の特大ステーキが。
うほっ、しかもミノタだぜ、こいつ。
このソースがまた堪らん!」
「ひゅう、そいつは大当たりだな。
こっちも凄いぜ。
レモンリザードのミートスパイス焼きと、こいつはまさかステーキワームなのか!?」
「ステーキワーム!? マジか!
頼む、一切れ交換してくれ。
ミノタは二切れやるから」
ちょっと切実に申し入れるパウロ。
今回のように見事なトレードが成り立つ神引きに、今後も二人揃って出くわす可能性は皆無だ。
「そいつは嬉しいな。
でもそれだと量が減るだろ、レモンリザードも一切れやるよ。
いやあ、さすがはあのアルフォンス先生のところの商会だな。
こんな庶民には一生縁がなさそうな超高級食材を惜しげもなく使ってくれてる」
「ああ、これだけでもこの講習に参加した甲斐があったというものだぜ」
そう言いつつ、弁当タイムをとことん楽しむ貧乏人の二人なのであった。
もちろん、そんな事は評価の一つにもなりはしないのであるが。
今回はこういう連中も多めに混じっているため、弁当だけは良いものを出してやる優しい真理であった。
肝心の講習の方は全然優しくないのであるが。
「さあ、早めに出発しないと宿にありつけないぞ」
「お、おう。
じゃあ、とっとと行くかあ」
こんなダンジョンの中で、しっかりと食休みなんて取っているのは、こいつらくらいのものだった。
採点しているゴーレムは減点制度が無いのを非常に残念がっていた。
何しろ他に書く事が何もないのだから、当然何もする事がない。
採点者としては実に困ったものだった。
実以って如何ともし難し。
「それにしても魔物とかは出ないなあ」
「そうだな、まあ出ないようにしてくれているんだろ」
本当は魔物との遭遇確率を調節して、ちょっと戦わせてみて、その具合で加点もあり得るというシステムなのだ。
無手か箒の柄しか持っていない、この破れかぶれコンビにそんな真似をしようものなら確実に死んでしまうので、その貴重な加点チャンスさえ只の一度も与えられる事は無いのであった。
それからかなりの時間が経って夕方の五時になった。
そして、ようやく三階のチェックポイントが見えてきた。
「やったー、チェックポイントだ。
これで宿にありつけるぜ」
「御飯にもな~」
そこには待ちくたびれたような感じの表情をした真理が、スタンプの番をしながら待ってくれていた。
「ああ、あなた達やっと来たのねー。
待っていたわよ~。
あなた方で最後よ。
そして他の人達は皆先に行ってしまったから、今夜ここはあなた達二人で貸切ねー」
「「えーーっ」」
絶句する二人。
果たしてこの凸凹コンビは、無事に五十階のゴールまで辿り着けるのか。
その前に講習期間が終わってタイムアップしていそうだ。




