124-6 凸凹コンビ
「うひゃあ、なんだか薄気味が悪い場所だなあ。
暗くないのが幸いだけどさ」
生まれて初めて、このダンジョンなるものに足を踏み入れたパウルは、辺りを見回しながら溜め息をついた。
以前に魔王園長主催の催しがあった時には熱を出して寝込んでいたのだった。
手にはなんというか、まるで箒の柄のような棒を持ち、布の服の上から学園の備品である革のベストを着込んだだけの最低以下の格好だ。
それも、すでにボロボロでどうしようもないので借り手がつかなかったので最後まで残っていただけという代物だ。
足元はブーツですら無いし。
棒もどうやら本当に壊れた箒の柄を用いたリサイクル品らしい。
ファッショナブルという言葉とはまったく無縁のスタイルだ。
うっかりと出遅れてしまい、学園の貸し出し装備を上手く手に入れられなかったのだ。
自前で装備を用意する事も出来ない極貧生活なので、開き直って、ほぼ普段着のままでの参加である。
そして本人が貧相で眼鏡をかけた痩せ気味で少し猫背の少年であるのがまた減点だ。
食生活が貧弱なせいか顔色も良くないし、足取りも覚束ないような感じだ。
ついでに組作りでも最後にあぶれてしまったのだ。
まあ無理もない。
あまりにも貧相な感じなので、皆から敬遠されてしまったのだから。
成績自体もヤバイ方の部類なのだし。
日頃は、そういう事を理由に仲間外れにされるという事は特にないのだが、今日は全員洒落にならない状況で成績がかかっているような行事なので致し方ない。
そう思ってパウルはあっさり諦めたのだが、幸いな事に同じような感じであぶれている奴がいた。
彼の名はベン。
まあ、そいつもパウルとどっこいっという感じの貧相なタイプであった。
当然の事ながら、彼の装備も似たようなものだ。
ボロのベストさえつけていないので、更にランクが低い格好である。
二人共平民であるにも関わらず、この王都学園に入れたのだから、世間一般から見ればそれなりに優秀ではあったのだが、いかんせん他に凄く優秀な奴らが大勢いたのだった。
特に魔法を使える奴とかは優秀の極みだ。
そればっかりはもう、才能というか血統的な生まれの違いもあるのでどうしようもない。
園長先生のようにチートで全魔法適性を保有し、金に飽かせて魔法を覚え捲るなんていう事も出来ない。
そしてこれまた、貴族王族の生まれが高貴な者達も大勢いた。
元々、そういう人間がメインで通う学校なのだから。
また幼い頃から書物に親しんできた、金持ちの大商会の子弟も大勢いた。
彼らは本来なら、自分達のような一般人とは無縁の世界の住人なのであるが、何故か同じ学び舎にいるのであった。
まだこの学園は、身分や家柄・財産なんかを嵩にいばりちらすような連中は少ないからいい。
王族なども普通に接してくれる。
アルフォンス先生と結婚して、今はあまり学園には来なくなってしまったシルベスター王女殿下なども気安く接してくれて、彼らも結構ドキドキしたもんだ。
同じイベントに参加した時に、シルベスター王女の方から挨拶してくれ握手までしてもらった事さえある。
その手の柔らかさはまだ記憶の中に残っている。
他国で、こんな事は絶対に有り得ないだろう。
まあ、あのメリーヌ第一王女が結婚した時には、王族貴族・大金持ちの子弟・一般平民を問わず、学園中の男達が血の涙を流したものだ。
あの場合は、その御相手があの貴公子の中の貴公子シド王子だったのだから、まだ諦めもつこうというものだったのだが。
「なあベン、シルベスター王女が結婚した時は皆が微妙な反応だったよな」
「ああ、そうだな」
『なあみんな、どう思うよ』
『いや、どう思うってさ』
『しーっ。
噂をするだけでもヤベエ。
魔王に魔法や魔道具で盗聴されて殺されるんじゃないか?』
『あの世紀の美少女シルベスター王女が魔王の嫁になるのか!
うーん』
そんな反応の数々に学園は満ちたのであった。
そんな華やかな場面さえ往々にしてある、この栄えあるアルバトロス王国のアルバ王都学園において完全にモブキャラである二人が、今日は見事に残り物コンビと相成るようであった。
((こいつと組むのかあ))
二人は互いにそう思っていたようだったが、これこそまさに御互い様というものである。
それはもう最初からわかっている事なので何も言わず、その場から一緒に歩き出したのだった。
このイベントで一番スムーズに組まれたチームなのではないだろうか。
ちょっと微妙な組み合わせになってしまったのだが。
「なあ、これ本当に地下五十階層まで行くのか?」
「さあ、はたして俺達の足で夏休みの間に、そんな場所まで辿り着けるものかねえ」
そんな頼りない事を言いながら、覚束ない足取りで洞窟ダンジョンの中を歩き続ける二人。
こんな場所を殆んど丸腰で歩くのだから不安でないわけないが、学園主催のイベントなのだ。
成績崖っぷちな二人が出ない訳にはいかなかったのだから。
背中に背負ったリュックにもそう大した物は入っていない。
大体、学園の寄宿舎に置いてある持ち物なども高が知れている。
二人共、学園を出る時には荷物など鞄一つに納まってしまうだろう。
下手をすれば、今背負っているリュックの中にさえ。
外国から来た王族貴族などは、王宮にある特別な部屋を用意され、随伴する侍従の者達の部屋さえ幾つも用意されているのだ。
二人はそれを特に羨ましいとは思わない。
彼らには彼らの苦労、そして義務があるのだ。
特にこのアルバトロス王国では。
魔界の鎧を封じるために自らを犠牲にして、生きたまま永遠に封印される事を自ら選んだ伝説の王太子アスラッド。
その事を考えただけでもう体が震えてしまう。
世界を救うため自らを犠牲にし、生きたまま孤独に永遠に封印され続ける。
そして伝説の天空庭園と共に空を彷徨い続けるのだ。
絶対に有り得ないほどの難行だと思うし、それが実際にどういう事なのか想像も出来ない。
そして自分なら、そんな破目になるのは絶対に嫌だ。
それくらいなら、いっそ殺してくれ。
パウルはそう思う。
一つだけ救いなのは、彼の救世の王子アスラッドを封印した空中庭園も今はもう無く、彼も永遠の安らぎを得たという事か。
皮肉にも、その救いを与えたのはアルバトロス王国の宿敵であったベルンシュタイン帝国の瞬神ニールセンと呼ばれた元将軍だった。
「やれやれ、まあ走っていけって言われないだけマシか」
「そうだな。
どうでもいいけど、あまり早く歩くと御腹が減るなあ」
「そういや何の説明もなかったが、食事や宿はどうなっているんだ?」
「お前、そんないい物があるとでも?」
「ええっ!」
諦め切ったような顔付きのベンと、顔を引き攣らせたパウル。
こうして凸凹コンビは、怪しい足取りでゴールを目指していくのであった。




