124-5 採点者
「ほうほう。
女の子の方は、また何かと積極的なのねえ。
どさくさに紛れて『キャっ』とか言って抱きついたり、『あ、魔物』とか言って手を握って引っ張っていったりする、と。
それでもって男の方は朴念仁っと」
そのように『採点ボード』へ書き込んでいるのは、気配を消した状態の沖田ちゃんだった。
駄目駄目な学生達に、そいつらだけでダンジョンへ行けなんていう訳が無い。
最初に姿は消してしまっていたが、緊張感を持って臨んでもらうために護衛兼採点者である者の件は内緒であったのだ。
もちろん感知力の鋭い者にはバレてしまうのだが、それはそれで評価に繋がる。
今回の催しはプラス評価のみ。
マイナス要素は絶対に評価されないという素晴らしいボーナス企画であった。
その学生の良いところを伸ばしたいという学園長先生の粋な計らいなのだった。
グランバースト家の執事二人の件ではないが、何かと生徒達に心配りしてくれるのは、やはり彼も初代国王の血筋の者か。
だが同時にスパルタにも目を瞑るような性格でもあったのだ。
そもそも、アルフォンスに魔法講師を依頼している段階で果てしなく手遅れだ。
レポートの評価は採点するゴーレムの趣味に沿って付けられるので、沖田ちゃんはその面白そうなカップルに目を付けたのである。
集合場所から、その女の子は野郎にべったり。
他の女の子達は、それを冷やかすような空気でイベントが始まるまでの暇を潰していた。
その女の子も、その子達の方を見て『ええい、うるさいうるさい』とでも言うような目で軽く睨んでいた。
そして彼女といえば。
時折、何気ない仕草でチラっチラっという感じに、さりげなく守護者がついてきてくれているのを確認しているようだった。
これが凡庸な監視者であれば、相手に気付かれている事に気付かないくらいの巧妙な雰囲気だった。
「うんうん、これは高評価をつけざるを得ないわねえ。
それで男の子の方は駄目駄目と。
まあ普通レベルかな。
評価C。
女の子は珍しい魔法の使い手だし、何より可愛いしね。
男の子も結構男前だけど、能力の方は普通ねえ。
この子なら、もうちょっとマシな男だって狙えるのになあ。
まあ、その辺は本人がいいっていうならいいんだけどね」
悲しい事に、ヘインズの方は良い評価は頂けていないようだ。
まあ無理も無いのだが。
女の子は天井に潜むスライムを既にチェック済みだ。
一応、二人共スライム避けになる革の帽子は被っている。
アドロスへ行くとは特に伝えられていないのだが、『完全装備』で来いと言われているのに、帽子すら被ってこない奴がいるのは如何なものか。
ここでは甘い評価なので罰にはならないが、この命の安い世界では人生という物の中でそんな温い事をやっていたらマイナス評価どころか、いつの日か命を落とす事もあるだろう。
ここは厳しくしてやっておくのも愛情なのだが、と内心では思っていたりする沖田ちゃんなのであった。
「きゃあ、天井にスライム」
そこにスライムが居たのを最初から知っているにも関わらず、わざとらしい悲鳴を上げてきゅっと腕に掴まり、歳なりには十分なボリュームを誇る胸を、ぎゅうっとヘインズの腕に押し付けるフレイ。
この少女、日頃は弱気な性格である割に心臓は強いようだ。
なにしろ、もう時間がないのだ。
卒業まで残り半年と迫ってきている。
皆、もうすぐ就職活動にかかりきりとなり、愛の告白どころではなくなってしまうだろう。
この機になんとしても彼を落としておかなくてはという事らしい。
この際、遠慮なんかしているような場合ではなかった。
通常、男性の方が結婚に対して消極的というか、後回しにしがちなのはこの異世界でも変わらない。
恋愛は往々にして女の子の方が積極的だったりするのだ。
「やあ、さすがはフレイだな。
帽子を被っていても、あいつをオプション装備に加えたくはないよ」
どうやら、まったくスライムに気が付いていなかった様子のヘインズ。
ついでに少女の想いにも気が付いていないようなのだが。
もっとも可愛い少女に胸を押し付けられて悪い気はしていないようで、顔は少々にやけていたのだった。
その様子をフロイの方はしっかりと把握していたようで、更にぎゅっとしがみつく。
(あと、もう一押しくらいかな~!)
その積極的にアタックしにいく様子を見て、更に評価を加点していく沖田ちゃんなのであった。
その後も魔物が出る度に「きゃあ、ゴブリン」だの「きゃあ、スライム」などといっては抱きつくフロイ。
そんなザコ魔物は全て感知しているし、しがみつく片手間にあっさりと殲滅できる能力はあるのだが。
「おや? あの子達」
よく見ると、フロイの周りには精霊達が何体かうろついている。
創造主が精霊のスーパー加護持ちのせいか、彼らゴーレムも生まれつき精霊を認識できる。
精霊すら映る超絶なレーダーの能力も付与されているのだし。
そいつらは割合と人型の、男の子なのか女の子なのかよくわからない感じで、薄い羽衣のような服を身に付け、あたりを緩やかに飛び回っていた。
どうやら少女は精霊の加護持ちのようだ。
もしかしたら、薄いがエルフの血が混じっているのかもしれない。
彼らは普段は人間から見えないようにしているのだが、何らかの思惑があって現れたようだ。
残念ながら凡庸なヘインズには見えていないようなのだが。
彼らは沖田ちゃんの方を向いて、「内緒よ」とでも言いたいように唇へ人差し指を当てている。
面白いので沖田ちゃんがそのまま見ていると、精霊どもは機会を見てヘインズの背中を力を合わせてドンっと押した。
瞬間的で一方的な物理干渉を引き起こしたものらしい。
精霊なる者の得意技の一つだ。
「うわわわ、な、何だあ!?」
だがその先にはフレイがいて、思わず力いっぱい彼女を抱き締める形になってしまった。
「おっと。フロイ、ごめ……」
だがヘインズは全部の台詞を言えなかった。
彼の腕の中には頬を紅潮させ、一途な瞳で彼をじっと見上げる少女がいたからだ。
いかに鈍感な彼でも、その言葉にならないメッセージはちゃんと受け取れたようだった。
そこは割合と人気のない窪みのようなところで、おまけに少女は『人払いの魔法』を放っていた。
こういう時のために学園OGの先輩のところへ行って、それを教えてもらえるように頼み込んで、必死になって習得しておいたものなのだ。
そして精霊達は雰囲気を盛り上げようと、目一杯の加護を振り撒き、不思議な(怪しげな)精霊魔法を放ち、あたりの空気を『ピンク色』に染め上げた。
なんというか、精霊の森の風のように本当に煌くような色がついているわけではない。
アニメの表現のような、周囲がピンク色に染まっている訳ではないのだ。
ピンク色としか表現のしようのない、なんともいえないムードを醸し出しているというだけなのだが、ここではそれで充分であった。
その雰囲気に飲まれたのか、ヘインズは目を瞑りキス顔になっているフレイにそっと顔を寄せ、一つのシルエットは更に緊密なシルエットを築いたのであった。
彼もまた、フレイの事は日頃から大変好ましいと思っていたのだから。
「フレイ・フォン・バルロイ。
花丸、評価A!」
それはもう大満足で、大きな花丸を書き記して評価ボードを閉じた沖田ちゃんなのであった。
あまり講習とは関係ない内容なのだが、採点者を満足させてくれれば評価は高いのだ。
元々優秀な彼女なのだから問題は何もない。
そして彼女フレイは、甘い恋の果実を見事に勝ち取ったのであった。




