124-4 オリエンテーリング
「それでは、みんな。
本日はここからアドロスダンジョン・オリエンテーリングを行ないます。
忘れずに地図を持っていってくださいね~。
順繰りに各階層に設けられたチェックポイントでスタンプを押していって、最後に最下層の五十階で最深部に置かれているスタンプを押してこられれば課題はクリヤです。
皆様の輝かしい進路に光明が点りますよ~」
そう言ってスタート地点から送り出される少年少女(あと一歩の人材)の群れ。
それを温かい目線で送り出す真理と学園長先生。
あちこちにいる冒険者達は何事かと、やや驚きを視線に乗せたが、アドロスの女王たる真理の姿を見つけて、なんとなく得心したようだった。
しばらく歩いていて、辺りを見回すかのようにしながら唐突に感慨を洩らす少年。
その横には、彼に対する少し熱い視線を伏目がちに隠すかのようにして、軽く横目で想い人に対して目線を送る少女がいる。
「ふう、一体何なんだろうな」
今までは溜めた息を吐き出すのが惜しかったとでもいうように、肺から盛大に息を吐き出すヘインズ。
「そうだねー、てっきり王国騎士団の真似事でもやらされるのかと思ったわ」
そして思わず笑顔を交し合う二人。
思えば日々の研鑽に忙しく、比較的親しい間柄でも、こんな風に互いに気持ちを吐露するような時間も碌になかったのだ。
「まあ、のんびり行こうよ。
どうやら長丁場の体力勝負のようだからさ。
ヘインズ、あたしの足にちゃんと合わせてよね」
そう笑いながら、美しい髪をおでこから耳を介して手櫛で梳く美少女。
そんな仕草を眩しく見守るかのように見つめる少年。
「わかっているよ。
このダンジョンの中で優秀な魔法使いを振り切って、好き好んで一人になんかなりたくないさ」
そう言いつつも、仲のいい美しい少女に対して歳相応の頼り甲斐は見せたいと思うのか、軽く力瘤を作ってみせる少年。
少しばかり甘やかで、思わず唇の端が照れてしまうような時間が流れる刹那。
しかし、ここは古のダンジョンなのだ。
大人しくしていてはくれなかった。
「あらやだ、さっそく御邪魔虫がやってきたわよ。
無粋ね」
それらは如何にも御邪魔虫らしいハム音を騒々しく、しかし彼ら魔物にしてはそれなりに芸術的な調で奏でていた。
「きっと、君の素敵で綺麗な髪や瞳に引かれてやってきたのさ。
という訳で、あいつらのあしらいは君に任せていいかな」
「もうー、御上手って言ったらいいのか、この不精者って罵ったらいいのか迷うわね~」
そんな、いつもの取るに足りないようなやりとりを交わしながらも、フロイはとても彼を意識していた。
もうすぐ成人を迎えるのだ。
この学園を卒業すれば一人前として扱われる。
貴族家である我が家から婚姻の世話が無いならば、自分でたつきの道や嫁ぎ先を探さねばならない。
彼女の家であるバルロイ男爵家には『自分の道は自分で探せ』みたいな家訓がある。
その代わり、選んだ道に家からは一切の制約は加えないと。
それは女子であるフロイにも適用される。
そういう意味においては、貴族にしては恵まれた家なのだ。
まるであの「王国の盾」エルシュタイン家の子女のようだ。
少年ヘインズは、フロイにとって大変好ましい相手であった。
少なくとも真剣に結婚を意識してもよいくらいには。
今日のペアも結構頑張って組んだのだ。
無論、この少年が学校行事であるならば強力な魔法使いである少女と組むのは拒まないだろうという勝算は持っての上で臨んだのであったが。
少なくとも、あのグループ組みの騒ぎの中で絶対に離されないように、少年の傍は譲らないようにしていたのだ。
まるでバスケで自分のボールを死守するような感じに。
少なくとも他の少女達は彼女の想いを知っていたので、ちゃんと避けてくれていたのだし。
学園の平民・下級貴族エリアにもそういう仁義は存在した。
少なくとも彼女に挑戦するのなら、それ以上の才能を発揮しないといけないのだ。
何気にフレイは、魔法だけに限定するのならば学園の中では上級クラスであった。
そしてやってきたのは、このアドロスで天井から降ってくる殺人スライムと並ぶアドロス名物の殺人蜂だった。
その大きさはおおよそ三十センチ~四十センチといったあたり。
数と敏捷性を武器として、時には高速で飛ばしてくる必殺の毒針を持つ下級の悪魔達だ。
「はああああー。
風のジン、炎のサラマンダー、我に力を!」
どうやら精霊の系譜というか、その系統の魔法を使う珍しい一族のようだ。
その血が薄まり過ぎて、もはや頻繁には生まれてこない特殊な魔法使い。
フレイはどうやら、そういう特別な少女のようであった。
一瞬にして空気が燃えるかのように渦巻いて、無数の蜂達を焼き尽くし、その骸をダンジョンの大地に堆積させ、その中へ吸収させていった。
「さすがはフレイだな。
お見事」
「いやだって、高が蜂よ?」
「蜂だからこそ、肉弾戦は嫌なんだよっ」
蜂、それはこのアドロス上層では、名物の殺人スライムと並んで嫌われる魔物である。
そして顔を見合わせて笑いあう二人。
「ねえ、このイベントってさ、危険は無いとか言いつつ蜂とかが出てくるわよね」
「さあ、なんなんだかなあ」
首を捻りつつも進む二人。
だが特にフレイにとっては楽しく少々甘い時間であったので、彼女はわざとゆっくりと進むようにしていた。
彼女の魔法による感覚は明確に感じとっていたのだ。
このパーティに潜む第三のメンバーの存在を。




