124-3 草葉の陰から
それらの学園長と成績不良学生とのやり取りを見て、うーんと唸るフロイ。
「ヤバイ。
思っていたよりもヤバイ講習だわ。
私って成績はそう悪くないのだし、魔法も優秀だから卒業はもう決定しているようなものよ。
こんな講習なんて、はっきり言って出たくないのだけど。
家は男爵家としては割合と裕福だから、魔法が優秀な私なら家事手伝いとしてでも家には置いてくれるんだろうし。
でもこういう講習はきちんと出ておかないと、それが御爺様に知れてしまったら思いっきりドヤされるしなあ」
「フロイ、君はまだいいさ。
平民の僕は絶対に出ないとマズイ。
僕だって成績は悪くないけど、これに出ないと評価が下がるから仕官するのに影響が出ちゃうよ。
本当ならアルフォンス先生の方の講習に出ないといけないくらいなのさ。
こんな講習を学園長が夏休みにわざわざ企画してくれるのは、僕らみたいな弱小勢力の人間に対する『救済措置』なんだからな。
秋から本格的に始まる仕事探しのためにさ」
二人共この講習には頭を抱えていたのだが、結局自分達の弱い立場を鑑みれば出ない訳にはいかないようなので、仲良く一緒に出る事にしたようだ。
「じゃあ、みんな。
適当に組になってちょうだい。
そうね、二人から四人っていうところかな。
特にメンバーの腕っ節とかは気にしないでいいから。
どっちかというと体力が近い方がいいかしら」
ニコニコする真理にそう言われ、渋面で組作りのために散る生徒達。
「体力かあ」
「腕っ節って言われなくて、まだ幸いだよ」
二人には何故か他の人間は寄ってはこない。
それを若干不審そうに見るフリをしながらも、傍らのヘインズと感想を言い合うフロイ。
それぞれの参加者が、大体気の合ったような連中で適当に組を作っていった。
フロイは『女の子の参加者が意外なほど少ないので、気の張らない相手であるヘインズと組む事にした』というポーズを取ることにした。
何かあった時は男の子と一緒の方が心強い。
ヘインズは今日の面子の中では上位にあたるメンバーだ。
四人組が推奨される講習において、敢えて二人だけで組むのは足手纏いなど必要ないから。
今日はヘナチョコな奴と組んだら悲惨な事になりそうな予感がするフロイであった……という具合に、ヘインズに対して強引に話を持っていった。
「今日は宜しくね~、ヘインズ。
頼りにしているわ」
「ああ、こっちこそな、フロイ。
今日みたいな催しで、君みたいに強力な魔法使いとコンビが組めて心強いよ。
しかし、どこで何をするんだろうね」
「さあ~。
何しろ実習なんだものねー。
普通のパターンじゃあないと思うわよ」
「ははは、それだけは間違いない」
そして真理が両手をメガホン代わりにして叫んでいる。
「みんな、ちゃんと組になったかなー。
ボッチは辛いぞ~」
それは一体どういう意味だろうと首を傾げる学生達。
しかし、そんな彼らの都合は一切考えず、真理は彼らを追い立てた。
「はあい、それでは空間魔法のゲートを開いて、皆さんを会場へ送りますからねー」
「え、先生。
一体どこに?」
その問いに対して、にっこりと素敵な無言の笑顔で返答を返す真理。
真理は握った右手の親指だけを立てて、ゲートの向こうへと学生達を追い立てる。
「ここはどこかな」
「暗いわね」
二人は辺りを見回したが、どこにいるのかよくわからないようだ。
そして、いきなり浮遊する照明筐体から眩しい明かりが発せられ、真理の楽しそうな笑いが響く。
「はーい、レディース&ジェントルメン。
我が終の棲家であった、このアドロス・ダンジョンへようこそ~」
それを聞いて、途端にざわめく学生達。
「えっ、アドロス?」
「ダンジョン!?」
「あのう、講師の先生。
今日は腕っ節は要らなかったはずなのでは?」
「ええ、今回は体力作りがメインなので。
でもまあ、会場がダンジョンなのだし、一応装備は必要よね」
「でもでも、先生。
あたし、ダンジョンなんて無理です~。
死んじゃいますー」
大して装備も持っていなそうな、とても魔物となんか戦えそうもない感じの平民の女の子がもう涙目だ。
「大丈夫よー。
うちのゴーレム隊がついていますから魔物なんか恐くはないわ。
ここはスロープ式のダンジョンだから走ったりして体を鍛えるのに、それはもうピッタリなステージなの」
その台詞に合わせて、すっと突然に現われたダンダラ模様の一団。
斉藤ちゃんや沖田ちゃんも、今日は新撰組の和装姿の正装でバッチリと決めている。
そして同じく新選組スタイルにて完全武装で居並ぶ平隊員役のゴーレム兵達。
「うわあ、それなら安心ですね~」
だが涙目の女の子がホッとするのも束の間。
「我々は草葉の陰から見守っていますからね!」
そう言いながら、にっこりと笑って消えていくゴーレム達。
「えー、それは一体どういう意味ですか~」
だがその問いかけは、虚空に消えていく笑顔と共に虚しく散っていくのであった。




