124-2 成績非優秀者への試練
「それでは、どのようなプログラムにいたしますか?」
「そうね。
ここはやっぱり合宿かしら。
最初は体力作りみたいな感じで。
日本の自衛隊とかだと、特別プログラムなどは遺書を書かせてから訓練させると聞いたけれど、そんな感じでいいのかしら」
それを聞いて、またもや両腕を回して掌で頭を上下に挟み込むような、芸術的かつ奇天烈なポーズで思案していた学園長先生は、やや時間を置いてから言った。
「うーむ、体力作りというのも悪くないアイデアなのですけれど、それだとアルフォンス先生のやり方とそう変わらないような気がするのですが」
「そうかあ、千年も経つとみんな軟弱になるのね~。
わかったわ、じゃあもう少しソフトなコースでいきましょうか」
「ええ、そうしていただければ何よりです」
だが学園長先生はまだ気が付いていなかった。
この真理もまた、あの初代国王の相棒として名を馳せた人物だという事の、真の意味について。
翌日、『完全装備で集合』という通達の上で王都学園の庭に集められた学園の生徒達。
その表情は非常に芳しくない。
まるで、あの魔王園長講師が毎回通達してくる沙汰のようなので。
「ねえ、今日はアルフォンス先生がいらっしゃるわけじゃあないのよね?」
男爵家の六女である華奢な体つきのフロイは、隣にいた顔見知りの学生に、そう不安そうに訊いた。
「そう聞いてはいるのだけれど、僕もなんだかとっても嬉しくない予感がするよ」
そう答えてくれたのは、平民にしては中々という雰囲気のある若者ヘインズだ。
彼は何よりも美青年で、そして優しげな感じだ。
その澄んだ翆の瞳は女の子ならずとも、多くの者に好感を持たせる事だろう。
グランバースト公爵家の執事二人がこの学園に在籍していた時に比べれば、彼ヘインズの方が色々な面で少し上といった按配か。
特に容姿とかが。
フロイは靡く金髪と紺碧の瞳の持ち主で、一族の中では一際美しい容姿を持つ少女だが、少々気弱なのが大きな欠点だろう。
将来の進路は冒険者にあまり向いていないようだ。
本日の装備もたいした事がない。
一目見ただけで、はっきりと中古で入手したと知れるような古びた魔法使い用のスタッフを所在無げに手にし、とびきり頑丈な物だとすぐにわかる冒険者のそれとは明らかに異なる、至極一般的な仕様の革の服を着ている。
その容姿と気品から貴族と知れる雰囲気だが、中身はその辺にいる平民の娘とそう変わらない。
同じような出自といえど、明らかに当初のベルグリットよりも成績に関しては遥かにランクが下であろう。
とはいってもベルグリットは飛び切りの秀才であったのだから、フロイが特別優秀でないと言う訳ではない。
今この学園に在籍していたとしても、ベルグリットならこのようなイベントは余裕で回避できるだけのトップクラスの成績だったのだ。
少女も家の程度自体は、同じ男爵家でもベルグリットの実家よりも遥かに上なのであるが、その事がなおさらフロイを逞しく育てなかった環境でもあったのだ。
その美貌と魔法の腕前を考慮に入れても、成績に関する評価が覆るとは思わない。
一応フロイは次期当主である父親の正妻の娘なのであるのだが、生憎と祖父や父の持つ気概のようなものは、まったく受け継いでいないようだ。
母親も優しく嫋やかな人であった。
彼女は魔法には自信があるのだが、あまり荒事に向いた人間ではない。
どちらかといえば家事手伝いに向いているようなタイプの人間であるのに、どういうわけか一族の中でただ一人秀でた魔法の才があり、当主である祖父にここの学園に放り込まれてしまっただけなのだ。
この王都学園は別に荒事専門の学校ではないのだが、『国民は絶対に守る』という初代国王の教えを今に伝える王家の威光により荒事に関する授業は必須であったので、その事実は多くの学生、特に平民や下級貴族の子弟を嘆かせていた。
平民であるヘインズは、はっきり言って文官志望だ。
まあその割にはいい体をしているし、それなりに腕は立つのだが。
とはいっても剣の腕前は完全に素人で、武器防具なども学園からの借り物だ。
他にも、特に似あわなそうな、それでいて貧弱な装備を身につけた少年少女が集まって、皆がそわそわしている。
なんというか、着慣れない安物のスーツとネクタイで身を固めてみましたとでもいうような姿だ。
その中に剛の者は一人もいそうにない。
そういう人間は魔王園長が催す荒っぽい企画の方を好むので、今日は些か出涸らしのように気の抜けた人間の集まりなのだ。
それでも参加すれば一応は評価に繋がるポイントがいただけるので、敢えて参加しているだけなのであった。
「はいはい、みんな『ブートキャンプ参加者』は集まってちょうだいね~」
真理はパンパンと手を叩いて、まるで幼稚園児を扱うかのように生徒達を集める。
それを聞いてピタっと足を止めるフロイとヘインズ。
「え?
なあフロイ。
今、何かとても不穏な響きが混じっていなかったか?」
「さ、さあ。
でもでも、今回の講師はアルフォンス先生じゃあないのよね?」
「じゃあ、あの集合をかけていた人は一体誰なんだい?」
学友が発した、そのもっともな質問にフロイは答える術を持たなかった。
「さっきのあの女の子が講師の先生?
いやだって歳が……」
どう見ても十六歳前後にしか見えない美少女だ。
そして首を傾げつつも、呼ばれた方に向かって集合していく学生達。
それから、ゆらゆらと前に出てフラダンスを踊るかのようにタコ踊る学園長先生から挨拶があった。
「はい、皆さん。
本日は高名な錬金魔女こと、初代国王に作られてその相棒を務められた、この魔導ホムンクルスである真理さんに講師を御願いする事にしました。
まあ、あのアルフォンス先生ほどスパルタではないと、えー『多分』そうだと思いますので。
それでは皆さん、命は大事にという事で頑張りましょう」
それを聞いて非常に不安がる学生達。
困惑し、既に逃げようかどうしようかと、うろうろしている奴とかもいた。
「あのう、ちょっと。
それって本当に大丈夫なのですか、学園長先生」
あまりこういう事は得意じゃなさそうな、眼鏡をかけた痩せた感じの少年が問い質した。
「大丈夫ですよ。
人間は一度しか死にませんから」
それを聞いて、思わず顔を歪める件の少年。
【人は一度しか死なない】
それは初代国王が言い残した名言の一つと言われる台詞だ。
今でも王国騎士団長室には日本語により大きく墨書きで書かれ、執務机の上方、その真後ろに高々と掲げられている。
その下に現地語でもそう書かれている。
また御丁寧な事に状態保存の魔法までかけられて。
もちろん、それは千年前に御山の御爺ちゃんがかけてくれたものだ。
それを聞いて怖気づいた学生達が辞退を申し出ると、学園長は両手を後ろに組んでにっこりと笑って、先ほどの少年に向かって言った。
「それはよいのですが、パウル。
君は今の成績では卒業が危ぶまれますよ。
だから担任教師からも是非参加しろと言われたのではないのですか?
それに、そんな事では良い仕事先も見つかりませんよ?
この学園を立派に卒業するのは大変な事なのですからね」
「わ、わかりました。講習に参加します……」
ニコニコと笑顔で鬼のような事を言っている学園長に、彼らは泣きそうになりながらも辞退は撤回したのであった。
またうっかりして告知先とか載せてませんでしたので、本日も載せておきます~。
「おっさんのリメイク冒険日記4」
10/10に発売です。うっかりあとがきで告知していませんでした。おまたせしました~。コミックと同月発売になりますので。コミックは10月24日に幻冬舎コミックス様から発売です。
books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
9/10(月)までにスペシャルサンクスキャンペーン「おっさんのリメイク冒険日記4」やっております。
ツギクルサイトで作品を応援するボタンを押すと、巻末のスペシャルサンクスに名前が載るというものです。
https://www.tugikuru.jp/info/view?id=141




