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第124章 真理のブートキャンプ   124-1 懐かしの日々

「変わらないわね、この小路も」


 思わずそんな事を呟きながら、その道を辿っていた。

 それは珍しく一人でその場所へやってきた真理だった。


 そのアルバ王宮の外縁通路から分岐して延びる並木に囲まれた小路を行った先にあるのは王都学園だ。

 それがそこにあると知らされていなければ、その道が王宮に隣接して存在する事にすら気付かないような少し奥まった場所にそれはある。


 正式にはアルバトロス王国王立学園というのだが、その名で呼ぶ人は王宮詰めの文官か、総合庁舎の担当文官くらいのものだ。


 そして学園は夏休みを迎え、普段よりも静謐な空気に満ちていた。

 通常なら真理もこんな道は歩かない。


 真理は、かつて千年前にこの国の初代国王を造物主としてこの世に誕生し、その相棒たる『錬金魔女』の名を思うままにした。

 そして初代国王の係累である妹から、その名と姿を頂いたものだ。

 真理はこの国では尊敬の念を持って扱われていた。


 そしてまた、今では『指輪の番人』としての永い勤めを果たしてくれた者でもある。

 それは多くの救いをこの国に、また世界にも齎してくれたのだから。


 よって特別に開放された転移魔法で王宮などにも好きに出入りが許されている。

 いや、あのアドロスの魔王のファミリーであるというだけで、それはもう今更なのだが。

 それに千年前も、この王宮の重鎮であったのだから。


 だが今日は少し歩きたい気分だった。

 この広大な王宮も王都学園も、あの船橋武が作り、そして今に残したものだ。

 懐かしく、また切なく、小路に音も無く響く千年の想い。


 そして、まるで地球にある外国の由緒ある大学のような趣のある学園の建物へと入っていった。

 それから学園長室へ行くと、ドアを軽くノックをしてから徐にバリヤーを張った。


「ハアイ、どうぞ~」


 ややテンションの高い声で入室許可を受け、扉を開いて中に入ったら、くぐもった感じの軽い爆発音と共に派手な紫とオレンジ色の煙が濛々と立ち込め、あたりをサイケデリックな色合いに染めている。


 真理は息をしているかのような挙動を示すのだが実際には呼吸していないので、そんな物はたとえ吸い込んだって大丈夫なのであったが、嗜みとしてのバリヤーだった。


(懐かしい、懐かし過ぎるデジャブー!)


 そう、その昔千年前にもよくあった話だ。

 今は彼の人の子孫の一人が、その伝統のコントを継承しているようだった。


 そんな時、彼女の造物主は咽ながらも言ったものだ。


「いや~、錬金魔王も木から落ちるのさ~、イエイ。

 う、ゴホゴホ」


「もう。

 とても地球でプロの化学者だった方の言葉とも思えませんけど?」


 そんな造物主との懐かしい会話を思い出し、思わずくすっと笑みを溢し、そこで煙に咽て涙目になっているおじさんに声をかける。


「大丈夫ですか? 学園長先生」

「いやいや、なんだかこれをやらないといけないような気がしてね~、イエイ」


 既にこういう物が御約束であると理解しているらしい。

 さすがは船橋武の子孫だ。


 ハーベスト・フォン・アルゲニオス侯爵。

 本来ならアルバトロスを名乗ってもいいような血筋なのであるが、公爵家などをやたらと増やせないし、やはり王家と貴族家の境はつけようという事で、王家の血筋で公爵ではない分家のために創設された近似の名前なのだ。


 アルゲニオスという名前の意味は特にない。


『なんとなく格好いい。

 響きがいいからこれにしよう』


 そんな理由で安直に決められた名前だ。


『名前の最初と最後はアルバトロスと同じにしよう。

 真ん中の韻は敢えて外して』


 そういう発想で色々と候補はあったのだが、決めたのは本人達であった。

 ほぼ精霊魔王と同じネーミングセンスだ。

 まあ彼らも、あの錬金魔王の子孫であるのだし。


「もう。

 そういうところは、あなたも初代国王にそっくりですのね。

 顔もなんとなくですけど面影がありますよー。

 ところで私に御用というのは?」


「はっはっは。

 そいつは嬉しいですねー。

 実はですね、本当ならこの夏にアルフォンス先生の学習キャンプをと思ったのですが、生徒達がちょっと嫌がっているものですから」


 学園長先生、アルゲニオス侯爵は何故か嬉しそうに両手を上に上げて、ゆらゆらとタコ踊りながらそう言った。


「あー、うん。

 そうかもしれないですね」

 

 あれから、何度か軽くイベントのような野外学習を行なったのだが、園長先生は例の如くにスパルタだったのだ。


「ええいっ、そんな根性の無い事で、この学園の卒業生が名乗れるかっ」


 別にここは冒険者養成専門学校ではないのだが。

 平民の子などは、もっぱら文官としての道や貴族に御仕えする事を目標にしているのだし。


 どうも園長先生は、冒険者ギルドの新人達と王都学園の生徒達の区別がはっきりとついていないようだ。

 園長先生の歳から見たら、どっちもハナタレの園児達とそう変わらない。


「それでですね、ここは一つ錬金魔女様にパーッと御指導願えないかなーとか思いまして~」

「そう来ましたか」


 真理は、まだ紫とオレンジに彩られた学園長の顔をレースのハンカチで拭いてやりながら思案する。

 こういう時は風情のないような浄化魔法など使わない。

 ちゃんと拭いてあげるのが人の道だ。

 真理は人ではないのだが。


 あまり変な事を引き受けても、子供の世話に割く時間が減ってしまう。

 とはいえ、中々に面白そうな、いかにも真理好みの案件ではある。


「そうね。

 何かこういうのも久し振りだし、やってみてもいいかしら」


「いやあ、御引き受けくださいますか。

 嬉しいですなあ。

 やっぱり鉄は熱いうちに鍛えませんとな」


 そういう訳で真理さんのブートキャンプは、この夏に熱い開幕を迎える事になったのであった。


「おっさんのリメイク冒険日記4」

10/10に発売です。

うっかり、あとがきで告知していませんでした。


おまたせしました~。

コミックと同月発売になりますので。

コミックは10月24日に幻冬舎コミックス様から発売です。


9/10(月)までにスペシャルサンクスキャンペーン「おっさんのリメイク冒険日記4」やっております。

ツギクルサイトで作品を応援するボタンを押すと、巻末のスペシャルサンクスに名前が載るというものです。

https://www.tugikuru.jp/info/view?id=141

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